秘匿された過去への旅行計画 5/6
気が付けば100部分になりました。
ココまで描けたのは見てくださった方のおかげです。
最初は評価も、感想も無く、心が何度も折れました。
だからこそ、改めて皆様に感謝を申し上げます。ありがとうございます。
……いつも唐突に現れ、唐突に消えるサリワルディーヌ。
その様子に思わず溜息をこぼした。
コンコーン
その時、館の門に備え付けられている、通用口のノッカーが派手な音をたてる。
「ああ、誰か来たって門の方か……」
俺はそう呟くと、館の門へと向かった。
「はいどちらさんですか?」
「ラリー、荷物で手が塞がってる。
開けてくれよぉ!」
「なんだよアマーリオか」
俺はそう言いながら通用口を開けると、言葉通り手に荷物を山ほど抱えた、アマーリオとアシモスがそこに立っていた。
「お帰り、どうだった?」
「火事の影響で建材が値上がりしていたよ。
おかげで思ったよりも出費した。
それよりも荷物を持ってよ」
アマーリオがそう言うので、俺は二人の荷物をいくらか持ちそのまま家の中に入っていった。
こうして家に運び込まれた荷物は、居間に所狭しと並べられる。
それを見て「ヒェ、だいぶ買い込んだなぁ」と呟いた。
それを聞き汗だくのアシモスが答える。
「はぁ、はぁ……だけど今回は研究費を稼ぐ旅ですから、すぐに取り戻せます。
嫌な話ではありますが、薬神ジスパニオの教えを広めるには、先立つものが必要ですからね。
腕の良い護衛がいるうちに、素材をかき集めたいものです」
「そう言う訳だ、頼りにしているぜ“狂犬”様ッ!」
アホのアマーリオがそう言って俺の神経を逆なでする。
思わずジロリと睨むと、アイツはそそっ……と、アシモスの陰に隠れた。
「言ってろ、アホのアマーリオめ!」
「神官様、アイツ怖いっすよ」
「アハハ、ラリー怒らないで下さいね」
こうして思わず起きる笑いに怒る気が失せる。
……何故かアマーリオの軽口は許せるんだよなぁ。
他の人との違いって何だろう?
バサバサバサ……
「ぐわぁぐわっ(ただいまぁー)」
そう思っていると、ペッカー先生もご帰宅してきた。
「おかえりー、庭の果樹にミカンが生っているからそれを食べてきてもいいよ」
俺は早速、帰って来たペッカーに夕飯となる果物を紹介した。
キツツキなのにヴィーガンな彼は、俺がそう言うと庭に向かって飛んで行く。
「ああ、お腹空いた……ラリー、ご飯作ってよ」
その様子を見たからなのだろう。
早速くたびれモードのアマーリオが、ソファーに体を投げ出しなが、彼も夕飯の催促をする。
「ああ、うん……」
いつも思うんだけど、貴族の家に生まれた俺は、どうしてコイツの為に飯を作っているんだろう?
毎日の事だが解せないわぁ。
まぁいいや、俺もお腹が空いたし御飯を作ろう。
お湯はもう沸かしてあるし、すぐに作れる。
さて、今日の食材でも確認しますか。
俺は台所に戻ると、レミちゃんが投げ出した買い物籠の中身を確認した。
(えーと何を買ってきたのやら……
さて本日レミちゃんが買ってきた食材は芋と、雨季にしか生えないキノコ。
そして鶏肉と卵、わずかなトマト。
それ以外は無し。
……え、毎日サラダ作ってたじゃん。
これでどうサラダを作れというの?サラダの事考えて無かったでしょ、あの子。
せめて煮込み料理とか作れるような野菜とかさぁ……)
どうやらレミちゃんの初めての買い物は、芳しくない内容で終わったようだ。
流石に注意したくなる……
だが短い付き合いで知ったのだが、ザ・ワガママを絵に描いた様な彼女に、そう言った注意をした場合。
間違いなく、逆に切れて“買い物にはお前が行け!”と叫ぶのは目に見えている。
そうなったらエグイなぁ……と思った俺は抗議するのを“秒”で諦め、与えられた食材で料理をすることにした。
グチるよりも、出来る限り工夫をした方が、まだ建設的だ、だったら考えるよりも手を動かそう。
……さて本日の料理だが。
芋はジャガイモの様に淡泊な味の芋なので、今日はトマトでソースを作って、芋と鶏肉そしてキノコのオムレツに決めた。
オムレツ……卵はふわふわ系が良いか、硬い系が良いかで好みが分かれるこの料理。
ですが卵の衛生状態がよろしくない聖地では、ふわふわ系なんてものは存在しません。
そこで俺は卵をしっかり炒めるが、出来るだけ柔らかさを残す、柔らか系を目指した。
まずは具材作り。
沸かしたお湯に、良く洗った芋を放り込みぐらぐら煮る。
その間に鶏肉の調理をし、キノコの下ごしらえ。
聖地では、キノコは今の時期しか出回らないので貴重だ。
そしてフライパンから煙が出るくらい熱したら、少しだけ油を入れてフライパンをコーティング。
そこへ皮目を下にして鶏肉を投入した。
皮から鳥の油が出ていい感じである。
味は塩胡椒を中心に、キノコや庭で栽培したパセリ等を刻んで入れて若干爽やかに……
そして具材は8割程度火が通ったらフライパンから引き揚げ、別の皿に避けておく。
そうこうしている内に芋が煮えたと思われるので、鉄串を刺して中身を確認。
問題が無いようなので、ヘラで皮ごと潰して塊が若干残るマッシュポテトを作る。
そしてフライパンを一度水洗いしてから、きれいな布で磨く。
次に小さな容器に一度卵を割って入れた。
これは一度中の卵の様子を見ないと、孵化寸前の有精卵や、腐った卵が入っている場合があるからだ。
そして問題がない卵はボウルのような大きな容器に次々と入れる。
そして卵と塩で味を調えながらよくかき混ぜた。
次に冷暗所に保存したバターを一匙掬い、フライパンの中へ。
溶けたバターが美味しそうに、幾つもの気泡を黄ばんだ乳白色の中で浮かべ、香ばしくも甘い香りを立てる。
そうしたらここからは時間との勝負だ。
フライパンの中に卵を入れるとかき混ぜたり広げたりしながら、具合を確認し、別の皿に避けておいた先程の具材を投入。
焦がさないように火の位置を確認しながら、フライパンの柄を持たない手で、フライパンを持つ手の手首を叩きながら、ゆっくり具材を卵でくるんでいく。
そして完成したら大皿に盛って完成!
次に芋の煮汁を使ってトマトを熱したら、皮がぐずぐずになるのでそれを剥ぎ取り、次にそれを潰してワインやバター、塩や胡椒にパセリやそこら辺にあったハーブを加える。
……トマトとハーブは相性がいい。
こうして作ったソースの味を確かめ、パン籠の中にあったパンと、庭に合ったパセリで彩を加えて完成だ。
思ったよりもパセリばかりを使ったが……
まぁいいでしょう。
野菜を買ってこない人がいるのがいけないんだよ、うん。
こうして出来上がったオムレツとパンを食卓に並べる俺。
夕飯の匂いを嗅ぎつけて集まる皆。
今日の食事を見て空気を読まない男、アマーリオが口を開いた。
「今日はこれだけ?
スープもサラダも無いじゃん!
今日一日ヒマしてたんだろ、手抜きじゃないか!」
「ふざけんな、文句があるなら食うな!
今日はこれしか食材が無いんだ。
嫌なら自分で作って食え!」
「誰が買い物行ってきたんだよ、使えないなぁ……」
アマーリオがそう言った瞬間、うちのお姉さまが「チッ!」激しく舌打ちを……
……おうふ、暑い国なのに一気に食卓が寒くなりましたよ、これ。
「ま、まぁ……食べましょう。
ラリー、いつも作ってくれてありがとうございます」
「あ、ああ……うん。
数は少ないけど素敵な食材が揃ったんだ。
あ、味わって食べてくださいね」
アシモスが早速入れてくれたフォローに、俺はレミ様の顔色を窺いながら、丁寧に答える。
……これは何だ、接待か?
「ほ、本当だ、食材が新鮮で良い物を使っているんだね、目利きが良いんだろうなぁ」
……アマーリオよ気持ちはわかるが、食う前から素材が良いというのは早くないか?
こうして俺達は食べる前から今日の食材を褒め讃え、爆弾処理班になった気持ちで食べる。
レミ様は少しだけ機嫌を、お直しになられたようだ……
緊張が食卓を妙な空気で包み込み、そしてアホのアマーリオは俺が育てたパセリを褒め讃える。
……レミ様とパセリは関係がないとは言えなかった。
よそを向いたまま、堂々とオムレツとパンを食べるレミ様は何も言わず、無言のプレッシャーを食卓に押し付ける。
こうして激しい緊張のせいで正直味はイマイチ分からなかった俺達。
空腹を満たした後は、早速明日の事を話し始めた。
アシモスが、食卓で皆を前に口火を切る。
「では今回の目的を話しましょう。
今回の目的は、赤痢などの治療に仕える毒消しの薬と、何よりハイポーションの為の素材を集めたいと思います」
アシモスがそう説明した時、俺は思わず身を乗り出した。
赤痢と言うのは行軍中頻繁に、軍隊に襲い掛かる病気の一種で、清潔では無い水を摂取すると引き起こされるケースが多い。
症状としては腹痛や下痢が酷く、吐き気や嘔吐も起きる場合がある。
清潔な上水道なんか無い場所に向かう、俺達軍人には天敵ともいえる病気なのだ。
当然無関心ではいられない。
そんな俺の様子を見てアシモスが笑って言った。
「実は今回の仕事の発注者は聖騎士団なのです。
今回作った薬は、効果検証を経て、結果が良かったら継続的に買ってくれることになってます。
市価よりも安いですが、薬局に卸すよりも高い値段で、聖騎士団が私から買てくれんです」
「へぇ、凄いじゃないですか、良いですね!
赤痢に悩まなくていいなら、遠征に出ている仲間も助かります。
因みにハイポーションって言うのはどこまで治るんですか?」
「ハイポーションは、大概の傷に効果があり、槍でお腹を刺し貫かれても治せます。
ただし大量に血を失った場合は、さすがに直せませんので、まだ出血が少ない患者しか助けられませんよ」
それを聞いて俺はテンションを上げる!
「すごいッ、これなら助かる仲間も増えそうだ!」
戦地で仲間が死んだと聞いては、いつも悲しい思いをしていた。
そんな悲劇が少しでも減るなら、この旅には参加する価値がある。
……あ、だからヨルダンは俺にこの旅に参加しろと言ったのか。
そんな事を考えていると、アマーリオが声を上げた。
「まぁ、俺にかかればこんな薬は朝飯前よ!
任せてみろ、騎士団で死者が出ないぐらいにすげぇ薬を作ってやるぜ」
「え、もしかして薬作るのお前?」
「当たり前だろ、他に誰が作れるって言うんだよ?」
……あ、一気に不安になってきた。
え、このアホのアマーリオがハイポーションとか赤痢の薬を作るの……
そしていつか俺もこいつの薬の世話になったりするかもしれないの?
「ラリー、俺のすっごいポーション飲んで。
俺に感謝する日が来るかもしれないぜ」
そう言うとアホのアマーリオは俺の心臓に指鉄砲を突き付け「カシュン」と、ボーガンの発射音をまねて口ずさんだ。
決めポーズなのか?それ。
「……いや、俺お前の薬飲まないから。
ポーション……嫌いだし」
「なんでんだよ!」
「なんだろ……治らない気がする」
俺が正直に言うと、奴はブーブーと文句を垂れる。
それを見てレミちゃんは大爆笑だ。
彼女は先程の不機嫌を治し、俺達に声をかけた。
「旅の目的はどこなのだ?」
「レミ嬢、私達は此処に行こうと思います」
アシモスはそう言うと、非常にざっくばらんとした地図を広げ、ベニート川上流にある、大きな山と湿原地帯を指さした。
「アマーリオが言うには、ここに先ほど言った薬の素材が全部あるそうです。
ルクスディーヌから片道4日ほどの旅で、向こうには2日から3日ほど、滞在しようと思ってます」
「ふぅむ、ここなら知っている。
確かここならマンドラコラも生えているな」
え、あの気味が悪い人面大根ですか?
子供の頃忍び込んだ、姉達の毒々しい研究所で見たアイツかぁ……
俺がなんか妙な表情を見せていたのだろう、目ざとく俺の顔を見たレミちゃんが、声をかけた。
「どうしたラリー?今なんか妙な顔をしていたが……」
「えっ、ああ……
実は実家は魔導士の家で、姉が気持ちの悪い人面大根を煮込んでいたんだ。
あれ以降アイツがなんか苦手で……」
「マンドラコラは有用な素材なのだがな。
魔導は自分がいる場所に居る魔力を、自分の中にある力を触媒にして表現する技なのだが。
マンドラコラはその体内に、外部の魔力を溜め込んだり、または魔道具を接続するときの接着剤になったりする。
食べても糖類やでんぷんを多く含むので、中々美味しいぞ」
「え、あれ食べられるの?」
「食べられる……ただしシクシクと泣き出すから食べるのは気が引けるがな」
「…………」
「どうした、いきなり黙って?」
「あ、いや……」
え、この人そんなの食べたの?
シクシク泣いたり、悲鳴を上げるモンなんか食べられないんだけど……
「レミちゃんって、結構色んな事に挑戦するよね……」
「ラリー、言葉を選んだみたいだが、お前私を侮辱しているのか?」
「あ、いえ……」
「お前も今度食べてみろ」
「あ、はい……機会があれば」
うわぁ、言いつけられましたよ、私……
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