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俺の騎士道!  作者: 多摩川
幼年期編
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プロローグ

転生小説はいつかやってみたいと思っていた物です。どうか温かい目で見てやって下さい。

俺が異世界に行く前の話をしようか。

俺にとっての運命の瞬間は突如訪れた。

その日は会社のレクリエーションで、社員一同、お店を閉めて会社の用意したバスに乗り、九十九里浜で遊んでいたんだ。



うちの会社は社長がサーフィン大好きなので、毎年海に社員旅行に出かけるのだが、今年は九十九里浜だった。

しばらく海で遊んでいると、酔っぱらってタイガーと化した社長が、据わった眼で俺達を睨むと吐き捨てる様にお申し付け下さった。


「よーしお前、なんか面白い事をやれ!」


……あなたは何処のヤクザでしょうか?

浜辺で社長が早速店長である俺や、同僚に無茶ぶりをする。

いつもの事ですが、海に飽きちゃいましたか、社長……

こうなると誰かが犠牲となって、つまらなそうな社長の為に、誰かが何かをしなければならない。

こうなったらしょうがないので、100円ショップミルキー魂を此処で発揮するしかない、と思った社畜な俺は立ちあがる!


「わっかりましたぁ!一番ヤクル○スワローズの応援やります!」


面白い事がヤク○トスワローズの応援であるかどうかはどうでもよく。

ノリノリの社長にあわせて、僕等7名のクソ店長どもは、気が狂ったように盛り上げる。

映画のワンシーンの様である。

……感動しない方の。


「パパ―パパパ―パ、パーパーパー……

はい皆手拍子!」


こうなると比較的言う事を聞いてくれる部下の方だけを向いて、俺を盛り上げろと命令するしかない俺。

悲しい顔の俺の部下たち。

……判ってくれ、大人になるって悲しい事なんだ。

他のお店の子たちは苦笑いを浮かべて俺や、俺の店の子達可哀相な目で見つめる。

俺はアイツらがなんとなく嫌いだ。

……俺のお店に配属されたら、絶対にガチガチの縦社会を見せてやる!


「矢島ぁー、もっと腰を振れぇ!」

「ハイ社長!」


俺は大胆にもセクシーに腰を振った。

おい、そこの女、お前ビールを吹きだしただろ!見えるんだぞ、コン畜生っ。

決して社長の機嫌を損ねたくない管理職と、別にどうでもいいと考えていそうな、平社員のギャップは埋まる事も無く、社長が飲みつぶれるまで、体と命を掛けた俺達店長連合の出し物は続く。


◇◇◇◇


社長が「もう俺は疲れた」と言って一人さっさとホテルに戻るのは、これから2時間後である。

ゼェ、ゼェ、マジで疲れた。

これが平と管理職の違いよ、まぁゴマスリに命懸けと言えるけど。

プライド?そんな物この会社に入って2年後には捨てましたわ。だから店長なんだよ!


「矢島さんお疲れさまでーす」


自店(うち)の子たちがニヤニヤ笑いながらこっちに来る。

来るな、今日だけはお前達と顔を合わせたくない……


「いや店長って大変なんですね」

「うん、まぁ……社長怒らすと大変だからね」


言葉少なくうつむく俺、こう言う時って皆どんな表情を浮かべるのだろう?


「イヤでも輝いていましたよ、矢島さん」


そう?今俺死んだ目をしていると思うよ?


「帰ったらアレやって下さいよ!

絶対受けますよ、芸人魂見せて下さいよっ!」


そう言ってキラキラした目で俺を見つめる、鹿崎君。

でもね、俺は芸人じゃ無く、100円ショップの店長なんだけど……



と、まぁそんな事が在り。

折角海に来たのだから、気分転換で泳ごう。

そう思った俺は、皆の邪魔にならない様に岸壁の近くで泳ぎ回る事にした。


ある程度泳いだ俺は、満足もしたので浜辺に戻ろうと泳ぐ。

……アレ?前に進まないよどうなってるの?

アレ?アレレ……浜に戻れない。

目の前に広がる浜が遠い、ちっとも前に進めない。

ウソだろ……どうなってるんだよこれ!

必死にもがく俺、しかしむしろ沖に流されて行くばかり。

ウソだろ、嘘だろ……どうなってるんだよ!

やがて顔が下がり、まるで海に引きずり込まれる様に海の中に飲み込まれる俺。

助けてとも言えず、ただ苦しさと絶望、そして死への恐怖でもがき苦しみながら、俺は海の奥深くへと潜っていった。


◇◇◇◇


次に目が覚めると、俺は光輝く部屋にいた。

目の前には一人の美しい女性が居る。

ボンキュッボンのグラマラスな美人さんだ。


「目が覚めましたか?」

「あ、アアありがとうございます。

あなたが俺を助けてくれたんですか?」


デートしません?


「いえ、貴方は死にました?」

「……ウソぉ」

「いえ本当です、貴方はこれから生まれ変わり、新しい世界に行くのです」


……判った、アレだ。

この美人さんは残念な人だ。


「アニメですか?」


何?この直角に曲がったえぐい展開……

しかしここで俺は閃いた。

これはネットの小説でよくある展開だ。

もしかして、転生なんじゃないか、コレ。

するとあれだ!なんか凄い才能を貰ってって奴だ。

そうか、俺も転生を決める事になるのか。

それならアニメで見たあんな才能とか欲しいな。

待て待て……こう言う時の定番は無限収納とか、鑑定レベルフルマックスとか……


「イエイエ、貴方は勇者として世界に行くのではありません。

ですからそう言った力を授ける事は出来ないんですよ」


口に出す事も無く否定され、驚く俺。


「な、なんです!

いやそれよりも俺の考えてる事が判るんです!

もしかして心の声が聞こえてたんですか?」


転生とかファンタジーだと良くある話だ。

俺はネット小説が大好きなので、この手の話を素直に受け止める気になって居た。

……でも、何か違う?

そう思っていると、目の前の美人さんは「ええ、もちろんです」と答えた。

……うわぁ、ますますこれはファンタジーだわ。

俺はもう、取り繕うのは辞めると決めた、もう欲望のままにお願いをする。


「デートして下さい」


こんな可愛い子に滅多に会えません、早速口説く。


「え?ああ、うん」

「もう僕は、自分を偽らないと決めました」

「ま、まっすぐな瞳ですね、怖いくらいに……」


目力ありますよ、お客さまからもよく言われます。

目の前の美人さんはドン引きしている。

ちなみに美人さんは、眼鼻立ちがはっきりした黒い髪のフランス人ぽい人だ。

……まぁ、青森出身の知り合いっぽくもある。

こんな顔大好き❤

だから、プッシュしてみる、多分次はこんな美人にはもう会えないのだ!


「住んでる所はどこ?

ちなみに俺は練馬(ねりま)区なんだ!」


転生話をすっかり忘れてナンパする俺は、話しの脈絡を完全にぶっこ抜いていく!

それくらいタイプなんだ、この美人さん❤


「ね、ネリマってなんです?」

「大泉学園!知ってる?

知らないかぁ、マイナーな所だしねぇ」


盛り上げろ!盛り上げるんだ俺っ。

しかしそんな俺のテンションを美人さんは「話を聞いて下さい!お願いだからっ」と言ってカットする。


「いいですか。

貴方は死んだ身です、デートは出来ないでしょう?」

「大丈夫です、気合いで何とかできます」

「はい?」

「ウチの社長が良く言ってます!

だからダイジョウブです!」


漲るばかりの社畜魂が、物理の法則を越えようとしている今……こんな所で自分の限界を決めません!


「こんな可愛い人と出会ったのですから、もう声をかけないとダメです。

ウチのお客様のマルコさん(イタリア人)はいつも俺にそう言ってました!

彼との会話で学んだ事を生かす時なのです!

どうか、宜しくお願い致します!」

「え、ええと……」

「あなたはバラより美しい!

本当ですよ、嘘じゃないよ!」


この言葉で笑ってもらえればイケるよ、とは心の師匠マルコさんの言葉。

わざと片言の日本語で言うんだよと、日本滞在10年で、綺麗な日本語を話すマルコ師匠は俺に教えてくれた。

どうか上手く行ってくれ!


「え、そんなぁ……」


笑った、笑ったよ皆!むしろマルコ師匠!

此処から俺の道が開けるんだよね、マルコさぁぁぁぁん!

初めて知った。マルコと名乗った適当でケチなイタリア人は、仕事のできる奴だったのだ。

……まぁ。100円ショップをこよなく愛し、他の物をぼったくりと言い放つ、男前だとしか思わなかったんだけどな、今日までな。


「そ、そんなふうに言ってもらえるとうれしいのですが。

でも出来ないのです、私はあなたを異世界に送らなければなりません」


美人さんは残念そうに断る。


「ど、どうにかなりませんか?」

「なりません……」

「そこを、なんとかぁ……」


送っても良いけど、お付き合いしたいんです。親は二人ともいないし、妹はもう結婚しているので、俺は身軽ですよ?


「ああ、もう。でも……どうしようか?」

「……人から聞いたんですけどね、迷ってるって時は、本当は迷ってなんかいないんですよ。

実は自分がどうしたいのか知っているんです。

さっきは断ったのに、今は迷っていますよね?」

「え、ええ……」

 「もう、自分の中の答えが“イイエ”じゃ無くなったから戸惑っているんです。

本当は興味を持ち始めていませんか?」

「いや、そんな事は……」

「そうなら僕はとても嬉しいです」

「…………」

「興味を持って。

僕もあなたの事が知りたいんです」


そう言って俺は彼女の目を、微笑みながら覗きこむ。

顔を赤くして思わず笑った美人さん、コレはイケたと確信した俺。

……人から聞いた話はとても役に立ったと確信する。

因み誰がこんな事を教えたかと言うと。あの適当なイタリア人マルコだ。

……本当に奴は仕事ができる。

200人の女の子と付き合ったと豪語するだけあって大した効果だ。


「ふー、でも出来ないんだよね。

どうしようかな……

ああ、もう判った。

じゃあ、こうしましょう。

これからあなたを連れて行く世界は、私が管理している世界にします。

あなたは赤ちゃんの頃から人生をやり直して下さい。

そして大きくなっても、私の事を忘れていなかったら、その時初めてデートしてあげます。

良いですね?」

「今はダメ?」

「ダメです、むしろ無理です。

体が無いのに物理として不可能です」


そうかぁ、しょうがないな……


「送る先の世界は剣と魔法の世界です。

多分そのまま送ったらあなたは死んでしまうでしょう。

あなたには勇者召喚じゃないけど、特別に加護をつけてあげます。

ただ望んだ力をつけることは出来ません」

「どうしてです。チートは無いのですか?」

「チートはありますけれど、むしろ行った先での努力が大事なのです。

適性が在る力だけしか開花出来ないと思って下さい」


え?俺が知ってるネット小説とは違うんですけど。

チートで楽が出来ないなら、今から方向性を変えて、勇者召喚……

無理ですかぁ、そうですかぁ……


「ちなみにあなたはこんなヒーローになりたいとか思った物はありますか?」

「え、いや別にこれと言って……」

「とにかくそれをベースに授ける力を決めます。

なんでも良いので思って下さい」


そう言われると困る、別にヒーローに興味なんで……

あ、そう言えば。


「ヒーローじゃ無くても良いんですか?

例えばなりたかったものとか……」

「それでも……まぁいいです」


俺は密かに集めていた、有名スペースオペラのアメリカ映画のフィギュア(コーラの景品だった)を思い浮かべながら言った。


「じゃあ、あります」

「では心を決めて、瞳を閉じて下さい。

なりたい者を心に強く念じながらです。

次に瞳を開けた時、貴方は赤ちゃんとして生まれてきます。

いいですね?」

「ハイ、僕は……騎士になります」

「騎士?あんな……ああいや、そう言えば人気の転生先の一つでしたね、騎士は。

分かりました、それが狙える家の子供として生を授けます。

苦難の道を……安らかに歩み給え」


◇◇◇◇


俺の魂は、次の瞬間光に引きずり込まれ、移動していると言う確かな実感と共に、見知らぬ所へと辿り着いた。

見ると広い部屋にいて、おばあちゃんが俺を抱き上げている。

あなたが僕のママですか?

そう思っているとこのおばあちゃんは、僕の知らない言葉で何かを言い。次の瞬間やつれた顔の若い女に俺を抱かせ……

そうだよね!びっくりしたわ。産婆さんかアレ。



こうして俺は聖竜歴1200年、100年に一度の聖年の年に法服貴族ヴィープゲスケの6人兄弟の次男として生まれ変わった。

やがて俺がちっとも泣かない事に慌てた産婆が俺を逆さづりにして、このキュートな尻を叩き続ける。

流石に俺は口から、グパァと羊水を吐きだし、そして鼻汁目汁まみれになりながら痛みで泣き叫ぶ。

俺の異世界人生が幕を開けた。


思わずノリで、デートして下さいと言わなければ良かったと、後で後悔する事になるとは。この時はまったく判らなかったんだ。


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