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極東最強の剣士 沖田総司

 パレードが行われていた大通りにはもう誰もいなくなっていた。

 ただ、遺体と踏み荒らされた輿や布、放り出された果物や武装。飛び散った血に臓物。

 無節操という言葉を形にしたかのように、首都の中央通りは廃墟の如き有様だった。

 想定に比べれば遺体は少ないが、それが救いになるかというとケイトは自信を持てない。

「ひどい有様だねー……」

 言葉に詰まっていたイザベラが、絞り出すようにして言った。

「まあ……そうねえ」

 疲れた声でケイトは応じる。

 原因の一つが自分なので、あまり強気なことも言えない。

「公共事業が捗りそうね」

「そんなお金、どこにあるの……」

 無理矢理ひねり出すようにして言ったケイトのポジティブな言葉に、呆れたてイザベラはツッコミをいれた。

「これを復興……今から頭が痛いわ」

 今回の一件で、私の国にどれだけの損害が出たことか……発展が何年遅れたか。

 独走態勢だった国力も大きく減退した。

 万が一にもありえないことだが、フランシスコ・ピサロがティアグロ連邦の中の意思を統一し、侵略を開始した場合、防衛はもはや困難だろう。

 十数年は内政に専念しなければならないだろう。

 とはいえ、これでルドウィジアに敵性国家はなくなった。

 入念に治世を行えば、平和な国を作るのは難しくはないだろう。

 もちろん、『運命の道標』や『星読みの審判』が介入してくるリスクはあるので、簡単でもないが。

「ケイト!」

 中央通りを歩いていると、遠くにまだ戦っている人影を見つける。

 松尾芭蕉とジャック・チャーチルは今だにシモ・ハユハと土方歳三を相手に対峙していた。

 二人ともまだ生きているのが不思議なくらいの重傷で、足下に血が溜まっている。

「カフリンを、倒したのか?」

「ええ」

 ケイトは短く答えた。

 喉に負ったダメージが大きく、長い言葉は喋れない。

「倒したわ」

「……本当ですか、女帝イェカチェリーナ」

 土方歳三は呆然として言った。

「ハッタリではありませんね?」

「試してみる?」

 ケイトは力なく、片手で鞭を構えた。

「私としては依存はないけれど、やってみる? 土方」

「……降伏しましょう、土方」

 ハユハはあっさりとマシンガンを置いて両手を上げた。

「彼女がここに戻ってきたということはカフリンが敗れたと判断して相違ないでしょう。なんなら、私の首を切り落としてみますか」

 ハユハは言った。

「再生するか否かでカフリンの安否がわかりますが、どうします」

「……いや」

 土方は諦めた様子で愛用の日本刀を手放した。

「ここは降伏するとしましょう」

「良いの?」

 ケイトは意地悪を言うようにして言った。

「あなた、前世では最期の最期まで粘って抗戦したと聞いているけれど、今回は粘らないの?」

「それも一つの手ですね」

 土方は乱れて顔にかかる前髪を払って言った。

「それはこれから考えます。カフリンが死んだという事実が信じがたくて、何も考えられませんよ」

「ともかく、我々としても、チャールズ・カフリンを失ってまで戦闘を続行する義理はありません」

 ハユハは神妙な顔つきで言った。

「捕虜としての扱いを期待するが、煮るなり焼くなりされても文句をいう権利はないことはわかっている」

「オーケイ。それで、悪いんだけどノーリを見なかった?」

 と、ケイトは話題を変えた。

「ノーリ?」

「えっと、沖田総司のこと。彼の居場所を知らない?」

 眉をひそめるハユハと土方に、早口に説明する。

 自分でも、うずうずと彼に会いたい気持が首をもたげているのがわかった。

 おさえようと思っても抑えられない。

「沖田総司とコンタクトをとりたいのだけど」

 あまり露骨にノーリと親しい様子を見せると、彼の内通がバレてしまうか。

 いや、この段になれば隠す必要はない。

 むしろ、ノーリのことは、救国の英雄として厚遇しなければならない。

 第一、彼は最初から自分の部下なのであるし。

 彼を勇者として奉ることに、誰にも異論は言わせない。

「あいつは……混乱の収拾に尽力していたようですね」

 土方が答える。

「民衆の退避を指揮していたようなので、遠からず戻ってくるのではないでしょうか。あ」

 長い腕を伸ばして、土方はケイトの後方を示した。

「噂をすれば影です。総司が来ましたよ」

 ケイトは最後まで聞くこともせずに振り返った。

 ざんばらに乱れた髪に、黒い外套をまとい、手には日本刀。

 周囲に近衛兵を従えて、ノーリが歩み寄っていた。

「ノーリ……!」

 矢も盾もたまらなかった。

 心が身体を追い抜いていきそうだ。

 先ほどまであれだけ満身創痍だったのいうのに、今は羽のように足取りが軽い。

「ノーリ、本当にありがとう! 今まで本当に助けられたわ。あなたの、あなたのお陰よ……!」

 抱きつこうとしたケイトの身体が、ぴたりと止まった。

「ノーリ……?」

 目の前に、抜き放たれた日本刀がつきつけられていた。

 ぎらぎらと油でも塗ったように光る白刃が、文字通り目の前にある。

 ノーリがくいと手元を捻れば、ケイトの眼球をえぐれるほどの距離だ。

「どうして? ねえ、ノーリ!」

「ノーリとはなんのことだ? 女帝イェカチェリーナ」

 じろりとノーリは無遠慮な視線を向けた。

「俺の名前は沖田総司。極東最強の騎士だ」

「……それは、知ってる」

 どう答えていいのかわからず、ケイトは的外れな言葉を口走っていた。

「けれど、あなたはここでは前世の名前を捨てて、ノーリと……」

「何を言っているんだ? 貴様」

 日本刀を突きつけたままノーリは。

 沖田総司は言った。

「女帝イェカチェリーナ。我が主、チャールズ・カフリンの仇だ」

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