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黄昏の剣鬼

「やるじゃねえか、土方歳三」

「そちらこそ、ジャック・チャーチル」

 クレイモアと日本刀が激しくぶつかり合って火花を散らす。

「良いのか? 近衛兵長・土方歳三。こんなところで俺にかかずらっていて」

「ふん……まあ、こんなところにかける時間はない、というのは一理ありますね」

 土方は上段に剣を構えて、ちらりと横へ目をやった。

「我々としても、ここまで押し込まれるのは予想外です」

 既にシモ・ハユハが松尾芭蕉と相打つ形で敗れ、イェカチェリーナ二世とシャルロット・コルデーがチャールズ・カフリンを追っている。

 イースキールにとって状況としては最悪に近いだ。

 近衛兵長クラスの単体の戦闘能力の高さによってアグリア帝国を征服した魔法国イースキールが、逆に数人のテロリストに逆襲されている。

「皮肉なものですね。力によって征服した国が、力によって窮地に陥る」

「皮肉じゃねえだろ。何言ってんだ」

 振り下ろしたジャックの一撃を受け止めた刀が、ぎしぎしと軋んで悲鳴を上げた。

「どんな国だって、力によって滅びるのが摂理だろうが。この世界はそのバランスが前とは違うだけだ」

「かもしれませんね」

 土方とジャックの周囲には既に誰もいない。

 ハユハと芭蕉が地面に転がっているだけだ。

 既に民衆は蜘蛛の子を散らすように離散したし、兵士には全員カフリンを守るように命じている。

 雑兵がイェカチェリーナ二世を相手に戦いになるとは思えないが、しかし時間稼ぎくらいはできるだろう。

 そうでなくては困る。

「そちらこそ、チャーチル。あなたの新しい君主、イェカチェリーナを守らなくていいのですか? カフリンよりもイェカチェリーナのほうが危機的状況だと思いますが」

「構わねえよ」

 ジャックは切り結んだまま、ぎりぎりと体重をかける。

 体格ではジャックに分がある。

 自然、土方は少しずつ押し込まれる。

「別に俺は、イェカチェリーナに君主になって欲しいわけじゃねえ」

「では、何を?」

 脂汗を浮かべて、土方は言った。

「どんな価値が、あの女帝にはあるというのです?」

「そりゃ、お前よ。戦争を起こしてくれる。その一点だろ」

「なんですって?」

「簡単に言えば、有利なほうと不利なほうがいたら、不利なほうについたほうがオモシロイって話だよ」

 ぐいとさらに体重をかける。

「……なるほどな」

 発砲音。

 土方の抜いた短筒の銃口から、煙が立ち上った。

「大した馬鹿力ですが……馬鹿力だけで勝てる時代はもう終わっているのですよ」

「かもな」

 胸を貫かれて立ち上がるジャックを見て、土方は目を丸くした。

「あなたは、一体どれだけの悪業を成し遂げたというのですか」

「大したことはしたつもりがないんだがな」

 ごきごきっとジャックは首を鳴らした。

「剣の時代は終わったっていうのは、一理あるな。土方」

 土方は剣を構え直した。

 やはり剣でしかこの男を止めることはできないか。

「それでも、戦士たるもの剣を携えるべきだと俺は思うんだよ」

「理に合いませんね。やはりあなたは狂っています」

 ばさりとマントを広げて、土方はジャックの視界を覆った。

「……っ」

 マント越しにぬっと突き出た和泉守が、ジャックの身体を貫く。

「ぐっ」

「いくら鉄の肉体でも、あなたは既にハユハの攻撃を何発も受けている。それでは私には届きませんよ」

「やるねえ」

 バチバチとクレイモアと日本刀が激しく衝突する。

「やりますね、チャーチル。私よりもずっと後の時代の人間とは思えない」

「だろ? もっと褒めていいぞ」

「それでも、私達の時代にはほど遠い」

 土方が刀を振るう速度が、急激に上がる。

 一瞬にしてジャックの身体がズタズタに切り刻んだ。

「夢を見させてしまって申し訳ありません」

 血みどろに倒れたジャックを見ながら、土方を言う。

「これが剣の時代に生きたものの強さですよ」

「が……はっ」

「では、私はカフリンの下へ急がせてもらいますよ。彼もそろそろ、いい具合に追いつめられているでしょうからね。彼を助けた私の株も上がろうものだ」

 マントを翻して、土方歳三はカフリンの後を負う。

「さよなら、ジャック・チャーチル」

「……が……」

「……?」

 ふと、殺気のようなものを感じて土方は振り返る。

 まだ、ジャック・チャーチルは奥の手を残している。

 ……のか?

 改めて見ても、ジャック・チャーチルは戦える状態にはない。

 当然だ。

 この土方の剣をまともに受けて立っていられるものなどそうはいない。

 では、何か?

 視界の端に違和感がある。

 マントの内側に、手榴弾のようなものがひっかかっているのを見つけた。

「何……」

「俺を剣を使うだけの時代錯誤の男だと思ったのが、あんたの失敗だ」

「……ッッ」

 耳をつんざく爆発音。

 土方歳三の五体は、バラバラに四散した。



「野郎……」

 ジャック・チャーチルはごろりと身体を寝返りを打ち、仰向けになった。

 恐ろしいまでの剣術の達人だった。

 自分とは全く違うタイプの剣術家。

 剣鬼と呼ぶに相応しい、剣に生き剣に死んだ男。

 それも当然か。

 自分が生まれ落ちた時にはとうに剣の時代は終わっていた。土方歳三は、自分が生まれる何十年も前の人物だ。

 こうして剣を交えることなど天地がひっくり返ってもありえない。

 それが起きてしまった。

 あんな男と出会えるのもまた、ルドウィジアの醍醐味というものだろう。

「あとは知らんぞ、イェカチェリーナ。自分の手で未来を掴め」

 仰向けに倒れたままで、ジャックは空中に向けて呟いた。

 次の瞬間。

「ああ、もう。死んだのは久しぶりですね」

 土方の声に、ゾッと背筋を凍らせた。

 振り返ると、びちびちと肉片が引きつるように動く。

 バラバラに四散した土方歳三の肉体がうようよとうごめいて、一つの肉塊を形作った。

 赤黒い肉のかたまりが不気味に立ち上り、人の姿になる。

「何度体験しても、死ぬのはいい気分がしないものです」

 めりめりと表面が再生して肌になり、ばさりと髪の毛がはえ、ぬっと腕が突き出た。

 そこには、先ほどと変わらぬ土方歳三の姿があった。

「ごきげんよう、ジャック・チャーチル」

 再生した肉体で、土方はぷっと口の中にたまった血を吐き出した。

「全く、『死んでも直後なら魔法で再生できる』というのは良いのか悪いのかわかりませんね。どうしても油断が生じてしまいます。前世ならば大失態だ。総司に笑われてしまいますよ……」

 地面に落ちていた愛用の和泉守兼定を拾い上げて、土方は微笑んだ。

「さて、ジャック・チャーチル。第二ラウンドと洒落込みましょうか?」

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