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死の妖精(2)

 死の妖精、シモ・ハユハ。

 フィンランドが誇る最強の戦士。

 第二次世界大戦でソ連の侵略からフィンランドを守り抜いた、伝説の兵士。

「シモ・ハユハ。あなたには、私の子孫が世話になったみたいね?」

 マシンガンの掃射を転がるようにして回避しながら、ケイトは言う。

「貴様の子孫は訓練が足りなかったぞ?」

「アグリア帝国を取り戻したら、参考にさせてもらうわ」

 右手で振るった鞭がハユハに迫る。

 しかし、それもマシンガンに撃ち落とされる。

 点の攻撃である狙撃ライフルも、面の攻撃であるマシンガンもお手のものか。

「二次大戦の時は、知らない間に決着してしまったからな。戦いは好きではないが、またソ連と戦えるというのは心が躍る」

 マシンガンも狙撃ライフルも、弾丸が無限にあるとは思えない。いくら魔法があったところで、弾丸精製は不可能だろう。この世界に転移した際に持ち込んだ量が限界のはずだ。

 ならば、弾切れまで粘れば勝てる。

 しかし、今の目的は違う。

 時間をかけてハユハを倒しても、それは勝利ではない。

 あくまでハユハは敵の一人。キングの駒をとらなければ、他の駒をいくらとったところで意味はない。

 ここで時間はかけられない。

 一気に勝負を決める。

 ケイトはリロードの隙をついて、一気に距離を詰めた。

「狙撃手ならば、距離を詰めれば勝てる……ってか?」

 ハユハはすぐに判断して、マシンガンのトリガーから手を離し、懐からナイフを抜いた。

「そっちこそ、皇帝なんてナイフでも殺せるという判断が甘いわ」

 ケイトは躊躇なく左手でナイフにつかみかかった。

 予想外だったのか、ハユハの動きが一瞬止まる。

 ケイトの掌に、ナイフが突き刺さった。

「あう……っ」

 筋肉が裂ける、嫌な感覚があった。だが、これでナイフは封じた。

 右腕に力を込めて、思い切りハユハを殴りつけた。

「ーーーーッッッ」

 ハユハの半分しかない顎をケイトの拳が直撃し、小柄な身体が軽々と吹っ飛ぶ。

「よっしゃあ!」

 マシンガンとライフルさえ封じればこっちが一方的に攻撃できる。

 左手にナイフが刺さったまま、ケイトは鞭を抜いて追撃に移行する。

「待て」

 吹っ飛ばされた姿勢のまま、ハユハは上半身だけを起こして言った。

 鼻血で胸まで血まみれになり、発音が不明瞭になっている。

 その手に、拳銃があった。

「……!」

 不意の銃撃が右臑を貫き、ケイトはその場にくずおれた。

 マシンガンと狙撃ライフルに意識を割き過ぎた。三の矢を残していたとは……。

 追撃の弾丸が肩を貫く。

「あう……っ」

 足に力が入らない。うまく立ち上がれない。

 動かないと更なる追撃が来る。

 銃創が燃えるように熱く、熱を持って頭がうまく働かない。

 気持ばかりが焦って、身体が動かない。

「女帝イェカチェリーナ」

 立ち上がったハユハが、冷たい視線でケイトを見下ろしていた。

「く……っ」

 動け。

 動け。

 こんなところで自分は死ぬのか?

 あと少しで、カフリンの下まで手が届くのに!

「大した覚悟だ。それは認めよう」

 ケイトはギリッと歯を食いしばってハユハを睨んだ。

「消えよ、女帝イェカチェリーナ」

 発砲音。

 ケイトの耳元に、銃弾が突き刺さっていた。

 ハユハが、外した……?

 硝煙の匂いに包まれながら、ケイトはおそるおそる顔を上げた。

「間に合いましたね、ケイト」

 松尾芭蕉の投擲した棒手裏剣が、ハユハの手首を貫いていた。

「徹夜で走ってきた甲斐がありましたよ」

「……まだ伏兵がいたとはな」

 ハユハは血まみれの顔を歪めた。

「随分人望があるようだな、イェカチェリーナ?」

「大丈夫? ケイト」

 倒れたケイトを、駆け寄ってきたシャーロットが抱き上げた。

「ひどい傷ね」

「シャーロット……芭蕉。間に合ったのね」

「ギリギリでね」

 シャーロットに肩を貸される形で、なんとかケイトは立ち上がった。

「ケイト。ここはボクに任せてください」

 両手にそれぞれ忍者刀を構えて芭蕉は言った。

「あなたはシャーロットと一緒に先へ」

「うん……! わかった」

 ケイトは目の奥で熱いものがこみあげてくるのを感じながら言った。

「死なないで、芭蕉!」

「もちろんですよ、ケイト……ボクは戦士じゃないんだ、死ぬまで戦うつもりはないですよ」

 松尾芭蕉がシモ・ハユハに飛びかかる光景から視線を引きはがして、ケイトはシャーロットに支えられながらカフリンの元へ走り出した。

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