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始動する暗殺計画

「チャールズ・カフリンを暗殺するチャンス?」

 ケイトは目を見開いた。

「そんなチャンスが早速あるというわけ?」

「最終決定を下すのはケイトですね」

 松尾芭蕉は目を伏せた。

「あなたの手足である我々としては、情報を供することしかできません。私に言えるのは、ノーリよりそういった連絡があったということです」

「……。そうね」

 ケイトは頭に巻いた包帯をおさえて言った。

「どういうことなのか、詳しく教えてもらえる? 芭蕉」

「御意」

 芭蕉は頭を下げた。

「現時点での情報ですが……カフリンは首都を移すという情報が入っております」

「ん……」

 ケイトは反応してじっと芭蕉を見た。

「それはつまり、イースキール領から旧アグリア領に拠点を移すってこと?」

「そのようですね。実際、そのほうが便利でしょう。イースキールの神殿は山の奥地です」

「アグリアは私が築いた帝国だしね……もちろん、そっちのほうが便利だわ」

「どうやら、かつてアグリア帝国の首都だったモスコを首都にするようですね」

 ケイトはため息をついた。

 当然の動きだが、自分の首都がついに完全に乗っ取られるようで気分は良くない。

「それで? それがどういうわけでカフリンを暗殺するチャンスになるの?」

「それに関連して、首都移転パレードを行いカフリンは皇帝に就任する、という運びになっているようです」

「……つまり、民草の前にに身を晒すということ?」

「それが暗殺のチャンスだと、ノーリ……沖田総司は考えているようですね」

 ケイトは顎に手を当てて考え込んだ。

 確かに、それならば可能性がありそうだ。

 執務室の奥に引っ込んでいられるよりも、よほど暗殺の成功率は高くなる。

「ノーリは? 沖田総司は出席するの?」

「彼も出席するようですね。ですので、彼の旗下に潜んでいれば一段と高い確率での暗殺が見込めるのではないかと」

 松尾芭蕉は目線を上げた。

「やりますか?」

 確かに、場は整っている。

 山田浅右衛門の手で武器を支給し、一揆を多発させればガードも薄くなるだろう。

 一度パレードの開催を発表してしまえば、一揆の多発によって護衛が減っても取りやめるわけにはいかない。

 絶好の機会だ。

 問題は、それまでに一揆の準備が整うか。

 そして、どこまで精緻な暗殺の準備ができるかどうか。

 恐らく、チャンスはこの一度しかない。

 カフリンは未だ、自分が旧アグリア帝国領に潜んでいることを知らないだろうし、ノーリが内通していることも確信してはいまい。

 これがギリギリの線。

 ここで失敗したら、二度とチャンスはない。

 失敗したらチャールズ・カフリンは草の根をわけても自分を捜し出して殺すことは違いない。

 ここで確実にチャールズ・カフリンを殺し、アグリア帝国を乗っ取り返す。

 そこまでの過程に、なんの失敗もあってはいけないのだ。

「日程は?」

「一ヶ月後……正確に言えば、35日後ですね」

 35日。

 今から複数の集落にコンタクトをとり、武器を支給して一揆を誘発する。

 それから、カフリンに戦士を派遣させて魔法国イースキールへの戦力を削ぐ。

 そして、パレードに乗じてチャールズ・カフリンを暗殺する。

「ノーリも速すぎると感じたようですが、どうやらこれはカフリンが早くモスコで皇帝に即位することで、求心力を高めたいという意図があるようです」

「時間が……足りなすぎる」

 準備が間に合わない。

 確実にできないというのならば、次のチャンスを伺ったほうがいい。

 半端な確率に賭けるのは絶対にしてはいけないのだ。

「芭蕉」

「はい。如何なさいますか、ケイト」

「ノーリに連絡して。その日程で決行すると。それに関連して、いつノーリが首都に入るのかも教えて欲しい」

「……よろしいので?」

「次のチャンスがいつあるかわからない。いつあるかわからない未来に委ねるよりも、今を掴んだほうがいい」

「御意」

 芭蕉は頷いて闇に消えた。

 恐らく、近くに坂本龍馬の傘下の仲間が潜んでいるのだろう。

 もう後には引けない。

 今回のチャンスを確実に掴む。

「ん〜、ケイト、何してんの?」

 空を見ながら考えていると、背後からシャーロットが寄ってきた。

「大丈夫? シャーロット」

「うん。なんとかね」

 シャーロットは誤摩化すように笑った。

「もっと戦いでも役に立てるかと思ったんだけどな」

「今回は相手が悪かったわ」

 肩をすくめた。

「ジャック・チャーチルは第二次世界大戦で戦った高名な戦士なのだそうね。あなたとは土俵が違うんだから、考えすぎなくていいのよ。それに、暗殺というあなたの得意技は今後役に立ちそうだしね」

「僕の特技が役に立つのはもっと先じゃないの? 本丸のチャールズ・カフリン暗殺はまだまだ先でしょ」

 きょとんとした表情でシャーロットは言う。

「それが、意外とすぐにその機会があるかもしれないわ」

「ホント?」

 シャーロットは目を丸くした。

「それは嬉しいな。即物的な話になるけど、今のフワフワした身分はあんまり落ち着かないのよね。ティアグロ連邦にも属しているような、ケイトの部下でもあるような。だから、ケイトの目的が早く達成されるのは嬉しい」

「安心して。そう長くは待たせないわ」

 成功するにしろ、失敗するにしろ。

 35日後。

 ルドウィジアで最強の国を治めるに相応しいのは一体誰なのか、審判は下される。

「どうしたの? ケイト。怖い顔をしてる」

「今日はゆっくり休むといいわ、シャーロット」

「それはつまり、今後は一段と忙しくなるということ?」

「察しがいいわね」

 ケイトはニヤニヤと口元に笑みを浮かべた。

「明日からは、別行動をとりましょう。私とシャーロット、芭蕉は三人に別れてできる限り多くの村をの一揆を煽動する。とにかく時間がないから、手分けをするってことで」

「おっけー。任せといて、ケイト」

 シャーロットは胸を張る。

「あ、そうだ。でも、僕、アグリア帝国民じゃないんだよね。僕が独りで行っても話を聞いてもらえないかも」

「私だって、民衆にまで顔を知られているわけじゃないんだけどね」

「でもほら、ケイトにはカリスマがあるじゃん。僕にはそういうのないからさ」

 それもそうか。

 ケイトは頷いて、懐から指輪を取り出した。

「これ、アグリア帝国の国章が入っているから。私からの使いってわかってもらえると思う」

「ありがと〜。助かる」

「詳しくは芭蕉や浅右衛門殿、それにジャックにも合わせてまとめて話すから、今日はそろそろ休みましょう」

「そうだね。また明日から、がんばろー!」

 休むためにジャックの家に戻ったシャーロットを見届けて、ケイトは再び空を見上げた。

 決戦まであと35日。

 どうあっても、決着はその日に下される。

 二度目の生でまで悔恨を残さないためにも、全力を尽くさねばならない。

 大丈夫。

 自分には仲間がついているのだ。

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