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刺客

「……くッ」

 首元に飛来した針を、紙一重で回避して俺はごろごろと地面に転がった。

「無事か? ノーリ」

 慌ててジェレミーとケイトが駆け寄ろうとするのを、片手で制する。

「心配しなくていい、生きてはいる……」

 針がかすっていたらしく、首元を拭うとべっとりと血がついた。

「かすり傷だ」

 実際には動脈を切り裂いているのかもしれないし、毒針の可能性だってあるが心配を誘うような発言はしないようにした。

 護衛を助けるために指揮官が倒れては話にならない。

「近づくな。他にも罠があるかもしれない」

「罠……というのは、この砦に元々備わっていた罠か?」

 ジェレミーは鋭い視線をこちらに向ける。

「いや」

 俺は首元の傷を袖で拭いながら言う。思ったよりも血の量が多い。深手なのかもしれない。

「建物がこんなに朽ち果てているのに、元々仕掛けていた罠が発動するとは思えない」

 つまり。

「誰かが、ここに潜んでいるということだ」

 ぴしぃ、と緊張感が三人の間に走る。

「俺たちと同じように、ここに堕ちてきた悪人が、ここにいる」

「罠に対する知識がある人だとしたら、仲間に引き入れたいわね」

「おい」

 間髪入れずにケイトが感想を述べたので、まずツッコミをいれてしまった。

「だって、そうでしょう? ノーリ。レンジャー的な素養がある人はレアよ。仲間にしない手はないわ」

「逆だろ、ケイト。罠をしかけているなんて、他の人間を信頼していない証だ。危険人物だよ」

「あら、ノーリだって最初は出会う人出会う人斬り殺していた殺人鬼じゃないの。それに比べれば、罠をしかけている人なんて凪のように穏やかよ」

 掛け合いをかわしながらも、周囲への掛け合いは怠らない。

 銃撃をしかけてくる危険性もある。俺が拳銃を持っている以上、その可能性は充分にある。

「ジェリィ、ケイトを頼む。二人とも下がっていて。俺が処理する」

「オッケー、よろしく」

 軽いノリでケイトは言う。

「任せとけ」

 先ほどがワイヤートラップだったのなら、類似するトラップがまたしかけてある可能性はある。可能ならば複数の種類を織り交ぜておくのが常道なのだろうが、この世界で潤沢なトラップをしかけるほどの余裕があるかは疑問だ。

 俺は日本刀を振って慎重に自分が罠にかからないようにしながら前に進む。

 時折ピン、と音がしてトラップが作動し、矢や針が飛来するのを、余裕をもって回避する。

「罠なんていうのは、罠だとわかってしまえば問題はないんだよ」

 にぃ、と口元を歪めて、これみよがしに宣言する。

 その刹那、背後から衝撃が走った。

「うお……っと」

 これはもちろん想定済みだ。

 飛んできた矢を、日本刀で受け止める。

 これを想定していた理由は、もちろん相手が視界内にいることがわかっていたからだ。

「やっぱりな」

 飛んできた矢の方向を見ると、先ほどの武器庫が見えた。そこか。

 慎重に罠を解除しながら歩み寄って、扉を叩き割る。

 そこにいたのは、思いのほか小柄な少女だった。

 まだ十代の年頃に見える。気の強そうな吊り目が印象的だ。長い金髪を二つに結って、後ろに流している。肌の色や髪色から判断するに、コーカソイドか。埃だらけの火薬庫の中で、ドレスのような衣装が変に浮いていた。

 手を放ったのは、ボウガンのようなものだと推測していたが、手に会ったのはペンのようなものだった。矢を放つ暗器のようなものかもしれない。

 とすると、前の仕事では彼女は暗殺者か何かか? なんにせよ、まともな仕事ではあるまい。

「ようやく姿を見せてくれたな」

「どうしてこっちから攻撃するのが読めたの?」

 薄暗い武器庫の中で、少女は低く囁くように言った。

「武器庫や火薬庫のような、小屋の中に潜んでいることは最初から読めていた、理由は、罠が『最初から敵を殺すためのもの』だったからだ」

 罠の目的には大別して二つある。敵の攻撃を押しとどめる『防御』の罠と、敵を殺すことが念頭にある『攻撃』の罠だ。

 今回僕を狙ったのは明確に『殺す』という意図があった。

 そもそも、防衛を主目的とするのならば、砦をという性質上、もっといい方法がいくらでもある。城門を破壊して侵入できないようにしてもいいし、本丸ならばもっと防衛が容易だ。こんな場所に罠が仕掛けてあること事態が、城内に侵入してその勢いにのって先へ進もうとする相手を殺すという意図に満ちている。

「故に、殺した相手をすぐに回収できる近場に潜んでいるというのは明白だ」

 そこまでわかれば、相手の攻撃を釣って居場所を探り出したほうが安全だ。いちいち家屋を探して回って不意を突かれるよりは、そのほうがずっといい。

「なかなかめざといね、あんた。名前は?」

 かかっと少女は年齢に不釣り合いな蓮っ葉な口調で、嘲るような笑みを浮かべた。

「ノーリ。俺はただのノーリだ」

 俺は刀を構えたままそのままのポーズで火薬庫の入り口から動かない。入り口が一カ所しかないのだから、少女には逃げ場がない。これ以上追いつめる必要がないし、それに家屋に入ると刀が振るいづらい。第一、更なる罠がしかけてある可能性がある。

「そう。ノーリ。いい名前ね」

 少女は薄く唇を歪めた。

「私の名前はイザベラ・ド・リムイユ。あなたを殺す人間の名前よ」

 少女は、嗜虐的に微笑んだ。

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