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女帝イェカチェリーナの冒険(4)

「どうします? 僕を」

 シャーロット・コーディと名乗った女は挑発するように言った。

「僕を殺したら、ピサロ様と、つまりはティアグロ連邦に宣戦布告したも同然ですよ?」

「……殺すのは、やめる」

 ケイトは絞り出すようにして言った。

「今、フランシスコと対立するわけにはいかないから」

「良いんですか? ケイト」

 気遣わしげに、芭蕉が顔を覗き込む。

「彼女は今、完全に殺す気で来ていましたよ」

「殺しませんよ〜」

 けらけらとシャーロットは微笑む。

「ただ、眠らせようとしただけですって」

「そこは問題じゃない」

 ぴしゃりとケイトは言い放った。

「ここで殺す殺さないというのは問題じゃない」

「はい?」

「あなた、シャーロット・コーディと名乗ったわよね?」

「ええ、僕の名前はシャーロット・コーディです」

 悪びれる様子もなく、シャーロットは答えた。

「そして、さっき前世では暗殺の罪で処刑されたとも言っていた」

 つまり、とケイトは言葉を繋げる。

「あなたは『暗殺の天使』と呼ばれたシャルロット・コルデーね?」

「そんな名前で呼ばれたこともありました」

 シャーロットはぺろりと舌を出す。

「恥ずかしいですよ、そんな昔の話は」

 マリー=アンヌ・シャルロット・コルデー・ダルモン。

 フランス革命期の暗殺者。

 その美貌から暗殺の天使とも呼ばれた、レジェンド級の暗殺者だ。

「随分お詳しいんですね? イェカチェリーナ陛下」

「かつて私が生きた時代でもあるからね」

 フランス革命とは直接関わったわけではないが、ヨーロッパを侵略した身であるのでそちらのほうへの情報は生前から仕入れていた。

「僕のほうこそ、伝説の女帝イェカチェリーナにお目にかかれて光栄ですわ」

「伝説の女帝だなんて、お上手ね、シャーロット」

「……それで、どうするんです? ケイト」

 芭蕉は油断なく、シャーロットを見る。

「そんな伝説の暗殺者ということならば、ますます生きて帰すわけにはいきませんが」

「それは逆よ、芭蕉」

 微笑んで、ケイトはそんなに警戒する必要もないわ、と今にも剣に手を伸ばしそうな芭蕉に言う。

「伝説の暗殺者ならば、その本来の仕事をしてもらいましょう」

「……と言いますと?」

 シャーロットは大きな瞳で上目遣いにケイトを見る。

「どういうことです? イェカチェリーナ様」

「あなたには、私の剣になって欲しいの」

 ケイトは地面に直接膝をついて、シャーロットの手を握った。

「どうか、私に協力してもらえないかしら? シャーロット」

「ケイト……ッ」

 焦ったように芭蕉が言うのを、ケイトは片手で制する。

「芭蕉。どちらにせよ、今の私には手札が足りないわ。こんなに強力な人物が現れた以上、スカウトしない手はない。そうではなくて?」

「面白い方ですね、イェカチェリーナ様」

 シャーロットは口元を歪めて笑う。

「確かに、あなたの目的からすれば、僕は有用だと思いますわ。僕の美貌ならば、男どもの警戒の下でもアグリア帝国に潜入してチャールズ・カフリンの寝首を掻くのは難しくない」

「ええ、あなたならそうでしょうね、シャーロット」

 ケイトはシャーロットと繋いだ手に力を込める。

「どう? 力になってもらえない?」

「しかしですね、イェカチェリーナ様」

 手を握られたままで、しかしシャーロットは反論した。

「あなたの剣になって僕にどんなメリットがあるというのですか?」

 シャーロットは鋭い視線で探るようにケイトを見た。

「今の僕は、ピサロ様の下で高待遇を受けています。ちょっとやそっとの話じゃあなたにはなびきませんよ」

「確かに、ピサロ以上の待遇を約束することは私にはできない」

 ケイトは自身を持って応じる。

「でも、私の下にいれば殺人をさせてあげられるわ。好きなだけ、殺せば良い」

「ほーぉ……」

 シャーロットはふん、と鼻から息を吐き出した。

「それは、良いですね?」

「でしょう?」

「わかりました、イェカチェリーナ様」

 手を離して、シャーロットはケイトの下に跪いた。

「このマリー=アンヌ・シャルロット・コルデー・ダルモン。暗殺者として仕えさせて頂きます」

「よろしい。シャーロット。活躍に期待しているわ」

 これで、松尾芭蕉とシャーロット。

 二人の手駒が手に入った。

「さて、行きましょうか」

 ケイトは戦いで乱れた服装を直して、歩きはじめた。

「シャーロット。フランシスコの動向を教えてもらえる?」

「はい。イェカチェリーナ様」

 シャーロットは切り替えが早い。

 完全にケイトの臣下として意識を切り替えて、フランシスコ・ピサロの動向を喋りはじめた。

「追手は僕を入れて三人放たれていますわ。まあ、これは僕が適当に対処しましょう」

「頼りになるわね、シャーロット」

「これで、ティアグロ連邦の国境を越えるまでは安泰ですね、ケイト」

 松尾芭蕉はあくびをしながら言う。

「仕事とはいえ、ずっと神経を張っているのは疲れるので助かります」

「あ、イェカチェリーナ様。僕、イェカチェリーナ様の計画に失敗したら、ティアグロ連邦にまた戻りたいんで、僕は国境まで人質にとられているって体でいいですか?」

「ちゃっかりしているわね、ケイト」

「こっちも生活があるんで。暗殺者も生きているんですよー」

「もちろん、好きにしてくれていいわ」

 三人で談笑しながら、ティアグロ連邦へと向かう。

 忍者・松尾芭蕉と暗殺者シャーロット。

 魔法国イースキール打倒と、アグリア帝国復興に向けた人材としては全く足りないが、しかしこれが今の全力だ。

 いや、まだ一人いるか。

 ノーリこと、沖田総司。

 彼こそが、この逆境を切り開く切り札になる。

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