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女帝イェカチェリーナの冒険

「ご用命はございますか?」

「まずは、ノーリと連絡とれる? ノーリとの連絡経路を確保して。それと、魔法国イースキールの教祖、チャールズ・カフリンの動向の監視。まずはそこね」

「すぐに手配します、陛下」

 慇懃に坂本龍馬は微笑んで、

「お代にはたっぷりと利子をつけさせてもらいますよ、女王サマ」

「もちろん。心得ているわ」

「今日中に、スタッフを一人遣わしますね。連絡を取りたい際はそちらを介して頂ければよろしいかと」

「わかったわ」

 坂本龍馬が下がるのを見届けてから、フランシスコ・ピサロが鋭い視線をケイトに向けた。

 口元は笑っているが、目は笑っていない。

 自分がどんな判断を下すのか、見極めようというのだ。

「やるのか? イェカチェリーナ」

 じりっと背中から汗が噴き出した。

 どう答えるべきか?

 フランシスコ・ピサロは自分を匿ってこそいるが、味方というわけではない。

 むしろ、利害はほぼ一致していないといってもいい。

 為政者としては、フランシスコ・ピサロが願うのはティアグロ連邦の平和であるはずだ。

 自らの治める領土が平穏であることこそ、彼の願い。

 ケイトはそう考えている。

 静謐のためならば、チャールズ・カフリン率いるイースキール一強体制は望ましくないとも言える。

 故に、自分が勢力を盛り返し、再びアグリア帝国、ティアグロ連邦、魔法国イースキールの三つ巴の拮抗状態を取り戻すというのは悪い話ではないだろう。

 ただし、ピサロが自分が自由に動くことを許す理由としては弱い。

 ピサロが自分に対して恩義を感じていることも、シンパシーを覚えていることも嘘ではないのだろうがその行為が百パーセント善意ということはありえない。

 今後の展開次第では、自分をチャールズ・カフリンに売り渡すことで恩を売り、ティアグロ連邦だけでも安堵される、という展開を期待しているのは疑う余地がない。

 つまり、ピサロは今、イェカチェリーナ二世のことは手元においておきたい。

 こんな展開になるのならば、ティアグロ連邦に亡命するのではなかった……とケイトは唇を噛んだ。

 もちろん、ティアグロ連邦に逃亡したからこそ坂本龍馬とコンタクトをとることができたわけで、言っても詮無い話だ、ということはわかっている。

 するべきことは、今の状況ですべきことを整理することだ。

「まずは、材料を集めてから判断することとします」

 結局、ケイトがとったのは決断を先送りすることだった。

 消極的な手だが、仕方がない。

 ノーリ=沖田総司がイースキールをどんな形で乗っ取り、ひいては教祖チャールズ・カフリンとどんな関係を築いているのか。

 チャールズ・カフリンがアグリア帝国を征服した後、どんな動きをとっているのか。

 国民の置かれた状況は。

 わからないことが多すぎる。

 この段階で、ピサロの警戒を買うリスクに踏み込むことはできない。

「ごめんなさい、ピサロ。下がらせてもらえる? 少し疲れたわ」

「そうか、そうか」

 何がおかしいのか、ピサロはにやにやと口元に笑みを浮かべているのがケイトの神経をざらつかせた。

「わかった、下がるといい。しかし」

 とピサロはケイトの肩に手を置いた。

「俺に協力できることがあれば、なんでも言ってくれ。人員でも兵器でも、ティアグロ連邦は全面的にあんたに協力するぜ」

 ケイトはピサロの真意が読み取れず、戸惑い気味にピサロに視線を返した。

「ええ、ありがとう、フランシスコ。まだ決断を下せてはいないけれど……あなたには、苦労をかけることになりそうね」


 ピサロにあてがわれた部屋に戻り、どうとベッドに倒れ込んだ。

 疲れたというのはピサロの部屋から下がるための方便のつもりだったが、本当に疲弊していたようだ。

 そもそも、アグリア帝国が陥落したショックからも完全に脱したわけではない。

 街が崩壊するのはまた建てればいいにしても、臣民のことは気にかかる。

 ハイパティアたち、アスクレピオスの面々は無事だろうか。

 行方不明のエドワードやイザベラも心配だ。

 みな、イースキールにとっても有用な人材であろうから、そう悲惨な目にあってはいまい……と考えるのは楽観的というものだろう。

 人類の歴史上、意味もなく人を殺戮した例は枚挙にいとまがない。

 敗北するということはそういうことなのだ。

 頭ではわかっていても、心を苛むことは避けられない。

 ケイトはとりとめない思考を巡らせながら、まどろみの中に落ちる。

 ノックの音に、はっと意識を取り戻した。

「誰?」

 気がつけば既に日が落ち、部屋は暗闇が満たされようとしていた。

 まどろんだだけのつもりが、どうやら眠ってしまっていたようだ。

「坂本龍馬からの遣いで参りました、女王陛下」

 そうか。

 目をこすりながら、坂本龍馬が今日中に人を遣わすと言っていたのを思い出した。

「どうぞ。入りなさい」

 身体を起こしてベッドに座り直して、ケイトは部屋に招き入れる。

「遅くなりました、女王陛下。」

 登場したのは、長身の青年だった。

 一見上品なようだが、戦士のような精悍さがあり、腰には幅広の剣を帯びている。

 職務に忠実でありながら、いざという時は戦闘要員として使える人材といったところか。

 ピサロよりはまだ、利害が一致しているという意味では信用が置ける。

「ねえ、あなた」

 青年が名乗るよりも先に、ケイトは身を乗り出して人差し指で青年の唇に触れた。

「私、ティアグロ連邦を脱出しようと思うの。協力してくれるわね?」

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