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坂本龍馬のセールストーク

「お久しぶりです、女王陛下」

 坂本龍馬は恭しく礼をした。

「坂本龍馬……! あなた生きていたの!?」

 ケイトは目をむく。

 坂本龍馬に会うのは、三年前のポル・ポトとの戦い以来のことだ。

「もちろんですとも。僕にしてみれば、ポル・ポトと戦ったのに生きていたあなた方のほうが驚きですよ……というやりとりはノーリともしたんですけどね」

「ノーリとも会ったの?」

 知らず、身を乗り出してしまった。

 ノーリとは連絡が取れないままだ。

 顛末自体は辛うじて帰国したイザベラから聞いていたものの、その後のことは全くの不明だった。

「ノーリ……沖田総司のことなら、魔法国イースキールで聞きました」

「ちょ、ちょっと待って、坂本。あなた、イースキールに出入りしているの?」

 短いやり取りの間に、情報が多過ぎてうまく受け止められない。

 坂本龍馬は何者なのか?

 どうしてイースキールに出入りできる?

 ノーリとどこで接点を持った?

「ノーリの今を知りたいですか?」

 坂本龍馬はもったいぶるように笑い、

「ならば、お代を」

「お代……なんて言われても」

 ケイトは眉をひそめた。

「今の私に払えるものは限られているわ」

「では、未来につけておいてくれてもいい」

「待てよ、お前」

 ピサロが唐突に話に割り込んだ。

「この国の盟主たる俺様の頭越しに話をするな」

 その手の中にはサーベルがあり、切っ先はぴたりと坂本龍馬に向いている。

「そして、この女は俺のものだ」

「おお、怖い。見事な殺意ですねえ」

 サーベルを向けられても、まるで恐怖を感じていない様子で坂本は言う。

 それでも、ポーズだけは両手を上げてみせた。

「坂本龍馬。坂本龍馬か。貴様の名前は知っているぞ? 高名な武器商人だったな」

「本当ですか? ピサロ様に名前が知られているなんて恥ずかしいなあ」

「アグリア帝国と魔法国イースキールの戦争のおかげで随分儲かったんじゃないか?」

「おかげさまで」

 坂本龍馬はニコニコしながら言った。

「次はこのティアグロ連邦が侵略されるかもしれない……と考える方は多いようで、今は銃器が売れ筋ですね。この世界では生産できないのが残念ですが」

「俺の国を、イースキールから守れる商品はないのか?」

 ゲラゲラと、ピサロは笑う。

「残念ながら手に余りますね」

「使えない武器屋だな?」

「いいえ、ピサロ様。既にピサロ様は既に魔法国イースキールを破るための切り札を手の中にお持ちですよ」

「なんだと?」

「女帝イェカチェリーナ。彼女こそイースキールに勝つためのキーとなる人物です」

「ほぉ……」

 感心した様子でピサロは自身の尖ったあごを撫でた。

「なるほど、商人として大成したのも頷ける。なかなか気を引くトークを見せるじゃないか、坂本」

「過ぎたお言葉でございます」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、坂本!」

 ケイトは焦りながらも言った。

「どういうこと? 私が切り札っていうのは」

「さっきの、ノーリの行方の話と繋がりますね……というか、ほとんど答えなんですけど」

 長くなるので、座ってもいいですか? と坂本が申し出たので、ピサロはそこに座れよ、と椅子を勧めた。

「失礼……話せば長い物語です」

 椅子に腰を下ろして、坂本龍馬は話し始めた。

「僕は以前より魔法国イースキールでも商売をしていました……あの国で商売をしていた人間はかなり稀少だと思います」

「凄いな、イースキールで商売をしていたのか?」

 ピサロが手放しに坂本龍馬を褒めた。

「あの国はガードが固くてな。事実上の鎖国状態で、販路を開拓しようと試みた奴は大勢いたが、成功例を聞いたのは今回が初めてだ」

 敢えてピサロに説明されるまでもない。

 そもそもノーリをイースキールに侵入させたのは、イースキールが閉鎖環境で情報があまりにも少なかったからだ。

「まあ、イースキールだって消費材を100%自国で賄えるというわけではありませんからね。そのあたりを的確に突けば、不可能ではありませんよ……もっとも、人口が少ないので市場としては魅力的ではありませんでしたがしかし情報は得られました。こっちでは結構儲けさせてもらっています」

「もっと早い段階で、私のところに売りにきてくれたら買ったのに」

 ケイトは唇を尖らせた。

「イェカチェリーナ様がイースキールに興味を持っていたとは気づきませんで……話を戻しますね」

 こほん、と坂本龍馬は咳払いをして、

「その中で、ミスター・ノーリと出会いました。生前の名前は沖田総司でしたね」

「ノーリは無事なのね!?」

 思わず、食い気味に声をあげてしまった。

 ぴくりとピサロが反応する。

「ノーリというのは?」

「イェカチェリーナ陛下の側近中の側近ですよ。前世は警察みたいなものです。ちなみに前世で僕を殺したのも彼です」

 坂本龍馬は自分の額を示して、

「ここをバッサリ斬られました。とにかく腕は立ちますし、戦術眼もある。政治家としてのノウハウはないが、短期的視点ではなかなかの男だ……と僕は受け止めています」

「自分を殺した男を、高く買っているんだな?」

 面白がるように、ピサロは言った。

「商売人ですからね。恨みで鑑識眼が曇ったりはしません。それに、俺を優先的に抹消した彼のチョイスは買っています……ともかく、彼と会いまして、彼に仕事を頼みました」

「仕事……というのは?」

 不安に感じながらも、問いただす。

「それは、イースキールの頭領たるチャールズ・カフリンが侵攻で不在の間に、イースキールを乗っ取るように、ということですよ」

「……!」

 それが実行できていたとしたら、状況は全く変わってくる。

「どうです? 結構僕、いい商品を持ってきたと思いませんか、イェカチェリーナ陛下」

「坂本龍馬、どうしてこうまでして私に尽くそうと?」

 ケイトは黒い瞳で坂本龍馬を見つめた。

 ここまで話しても、彼の思惑は充分には読み取れない。

「尽くしたつもりはありませんよ、陛下。僕は武器商人ですからね。このままイースキールがルドウィジアを制圧してしまっては商売あがったりなんです。それだけの話ですよ」

「そうか」

 ケイトは額のあたりをおさえた。

「よくわかった」

 そこにいたケイトは、惨めな敗残者ではなかった。

 坂本龍馬から聞いた情報で、既に女帝としての威厳を取り戻していた。

 それに、ノーリならば、きっとそれをやり遂げてくれるだろうという確信もあった。

「よくやった。アグリア帝国再建の暁には、望むままの褒美を遣わそう、坂本龍馬」

「御意に」

 坂本龍馬は会釈を返した。

「では、新たな武器のご用命はありますか? 陛下」

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