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呂布vs沖田総司&エイレーネ

「何故……呂布、貴様……」

 地面に倒れたまま、ジョゼフ・フーシェはぱくぱくと口をうごめかせた。

「これだけ目をかけてやったというのに……」

「ふん」

 呂布は鼻を鳴らして、フーシェの頭部を槍で貫いた。

「敗者は大人しく去れ」

 頭蓋骨がぱくりと割れて、脳漿が飛び散る。

「おい、呂布。話が違うんじゃねえか」

 俺はナイフで苦労して自分自身の腕を縛る縄を切り裂いた。

 これで、五体満足で動ける。

「前世での反省から、裏切ったりはしないんじゃなかったのか? そんなことを言っていたような気がするが」

「私とお前達の間に、認識の齟齬があるようだ」

「なに?」

「私の過ちは、利のための造反をしたことだ」

 狭い洞窟の中で、呂布は器用に槍を構え直した。

「それは過ちであった……裏切りは裏切りのためにあるものなのだ」

 静かに呂布は言い放った。

「利のために裏切るのは不純なのだよ、沖田総司よ。裏切るなどとは信じられない相手から、信じられないタイミングで裏切られた時、その時の人間の信じられないという表情。思えば、丁原を裏切った時がそうだった」

 丁原を、父を……裏切った。

 乱世の梟雄たる呂布の、始まりの裏切りだ。

「それ以来、裏切りを繰り返したが、あの時ほどの快感を得られないでいた……。そして、その快感を得るために裏切りを繰り返した。そして死んでようやくわかったのだよ。裏切るための裏切ることこそ裏切りの神髄」

「自分語り、うるせぇな」

 日本刀があれば、踏み込んで刻んでいたところだ。

 手元に剣がないことがもどかしい。

「俺は手前の思い出話なんて、興味ないんだよ」

「ひどいな」

 呂布がうっすらと笑みを浮かべた。

 初めて、彼が笑うのを見たような気がする。

「沖田総司。お前が先に聞いてきたんじゃあないか」

「そうだったな。悪かったよ」

「お前も上官である芹沢鴨を殺したのだろう? シンパシーを感じてくれるかもしれないと思ったのかもしれない」

「残念だが、俺は人が斬りたいだけだ。わかりあえないよ」

「そうか。では」

 と呂布は槍の穂先を向ける。

「死んでもらおうか」

「……ッ」

 こちらは二人。俺とエイレーネがいる。

 とはいえ、あちらは槍がある。

 しかも、中国最強と名高い呂布である。

 勝ち目はほぼない。

「あー! やってられねえな!」

 呂布が、動く。

 槍の穂先が驚くほどの速度で煌めき、頬をえぐった。

 あまりの鋭さに、感動すら覚える。

 美しい一撃の非現実さのあまり、恐怖すら湧かない。

 だが、槍は一撃目さえかわし、その隙に距離を詰めればこちらの土俵だ。

 生前、原田左之助とじゃれていたのがこんなところで役に立つとは予想外だ。

「ハッ」

 肘を鳩尾に叩き込み、股間を蹴上げる。

 それと連携して、エイレーネが回り込んで呂布を殴り飛ばした。

「やるな」

 壁に叩き付けられた呂布が静かに言った。

「殺すには惜しいと思えるほどだ。徒手空拳で私に抗しようという意気も賞賛に値する」

 そして、呂布は笑う。

「故に、殺したくなる」

 ひええ……と口の中で絶望する。

 あれだけ殴られて怯みすらしないのか。

「なあ、呂布。俺たちの命は助けてくれてもいいんじゃないか? 俺とあんたで組むのは悪い話じゃないと思うぜ」

「生憎、その未来はない」

 呂布はにべもない。

「わかっていて聞いているのだと思うが、私のフーシェ殺しを目撃した以上生かしてはおけない……っと」

 つっかけたエイレーネの攻撃を、呂布は槍で防ぐ。

「油断も隙もないな、沖田。会話で釣っている間にエイレーネで攻撃か」

「仕方ないだろ、正攻法じゃあんたには勝てないんだから」

 なにしろ、こちらの武装は袖に潜ませていたナイフ一本だ。それで呂布の相手をしなければならないのだから冗談がきつい。

 仮に、俺に日本刀、エイレーネにパリングダガーを備えての完全武装でも荷が重い。

 辛うじて自分たちに有利にな要素があるのだとしたら、この狭さか。

 高さも横幅も2メートルにも満たないこの通路では、槍を充分に使いこなすだけの広さがない。

 ほとんど突きしかくり出すことができず、槍のポテンシャルを充分に発揮できない。

 それでも、素手よりは間合いの面で遥かに優位性があるが。

「行くぞ、エイレーネ。呂布さえ倒せば俺たちの勝ちだ。魔法国イースキールは俺たちの手に落ちる」

「仕切るなよ、総司! 私が上官だぞ!」

 今度はエイレーネから仕掛けた。

 素早く槍の穂先を向けて、たたらを踏むところを俺がナイフを投擲する。

 バチッと鋭い音を立てて、呂布は槍でナイフを弾いた。

「一気に決めるぞ!」

 この隙に、弾丸のようにエイレーネが突っ込む。

 呂布は冷静に、油断なく槍を構え直した。

 エイレーネと呂布の槍が激しく衝突して、鮮血が飛び散った。

「が……はっ」

 呂布の槍の先端が、エイレーネの脇腹を貫いていた。

 エイレーネの小柄な身体のどこにこれだけの血が眠っていたのかと思うぐらい、大量の血が身体から滴り落ち、地面を濡らしている。

「何やってんだ、馬鹿!」

 一瞬動きを止めた俺に、エイレーネが激を飛ばした。

「私が槍を封じている間にさっさと決めろ!」

 そうだ。

 そうだった。

 エイレーネに槍が突き刺さっている以上、呂布には手がない。

 呂布は槍を手放し、腰に備えていた小刀に手を伸ばす。

 もう遅い。

 俺は組技のような形で呂布の肉体に組み付いた。

 首に回した手に、呂布が噛み付いてくる。

「締め落ちろ……っ このまま倒れろ……っ」

 力任せに呂布の首をへし折ろうという勢いで力を込めた。

 いくら天下無双の大力だろうと、窒息に対しては鍛えようがない。

 とにかく、力を込めて呂布の首を締め上げた。

「が……はっ」

 永劫の如き時間だった。

 時間にすればせいぜいが数十秒だったのだろうが、それでも俺にとっては永遠のような時間だった。

 もがく呂布の身体が、がくりと力を失う。

 それでも不安で、しばらく力を込めて締め上げて、さらにとどめに呂布の佩刀で首を切り落とした。

 狭い空間に、むせ返るほど血の匂いが立ちこめていたことにようやく気づいた。

「よくやった、総司」

 ぜえぜえ、と荒い息をついてエイレーネが言った。

「エイレーネ!」

「安心しろ。臓器には傷がついてねえから」

 槍で身体を貫かれたまま、エイレーネは地面にへたりこんでいた。

 たっぷりと流れた血が足下にたまり、白い衣装を赤く染めている。

「失血は深刻だが、命には別状ないよ」

 やった。

 俺はその場にへたり込みそうになった。

「私達の勝ちだ。喜べ、総司」

 照れたようにエイレーネは微笑んだ。

「だが、勝利を喜ぶ前に包帯をもってきてもらえるか?」

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