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"秘密警察"ジョゼフ・フーシェと呂布

「おい! 総司! 大丈夫なのかよ!」

 両腕を後ろで拘束されたエイレーネが俺の耳元で囁いた。

「ダメかもしれないですね」

「ふざけんなよ、おい……」

 怒鳴りかけたエイレーネの声が途中で力を失い、しょぼくれる。

「マジかよ……おい」

「まあ、まだチャンスはありますよ。希望を捨てないことです」

「両腕を縛られて、なんのチャンスがあるっていうんだよ……」

「フーシェと呂布が突然お腹を壊して倒れるとかですかね……」

「おい、何を喋っている」

 呂布から背後から槍の柄で小突いた。

「ふぅむ……まさか猊下の部屋の地下に隠し通路があったとはな」

 俺が示した隠し通路をためつすがめつしていた"秘密警察"ジョゼフ・フーシェはにやりと笑みを浮かべた。

「しかし、ということは僕たちにとってメリットではないのでは? 猊下は当然ご存知ということになろう」

「まさか。フーシェ様」

 両手を後ろ手に縛られた俺は、不自由なポーズで肩をすくめてみせた。

 言うまでもなく、武装は既に取り上げられている。

「フーシェ様なら、チャールズ・カフリンよりもこの国を活用できるのでは?」

「ふん。わかっているじゃないか、沖田総司」

 わかっているというほどのこともない。

 ルドウィジアには悪人しかいないのだから、機会さえあれば下克上を狙うのは当然の発想だ。

 人を斬れればそれでいい俺や、戦争さえできればいい土方歳三のほうが少数派である。

「この先にナザレのイエスがいるんだな?」

 と、フーシェはチャールズ・カフリンの部屋の隠し穴を示した。

「先に入りなさい」

「両手を縛られているので、流石に無理なんですけど」

「突き落としてもいいぞ?」

 俺の言葉を、フーシェは一笑に付した。

「あまり僕を舐めないほうがいいぞ、沖田総司」

「ですよねー」

 まあ、ここであっさり拘束を解除してくれることを期待していたわけではない。ダメ元で、できることを試そうと思っただけだ。

 もっとも、狭い穴なので実際に突き落とされたら詰まってしまうと思うが。

「では、先に参ります。狭いので、気をつけてくださいね」

 俺は隠し穴へ身を投げた。

 身体を引きずるようにして、穴を器用に降りる。

 全身泥だらけにはなったが、一度来たことがあるおかげでなんとか地下へとスムースに降りることができた。

「えっ、嘘、やだ、これに入るの? ねえ、総司!」

 次に降りてきたのは、エイレーネだった。

 俺と同じように両腕を縛られている上、エイレーネはここに来たのが初めてだったので悲惨だった。

 ずるずると無様に隠し穴を転げ降ちて、頭から地面に衝突しそうになるのを俺が肩で支えた。

「大丈夫か?」

「大丈夫じゃねえ……殺すぞ」

 泥だらけの顔でエイレーネが毒づいた。

 自慢の白を基調とした衣装も泥だらけで、元々の色合いがわからなくなりそうだ。

「おい、来いよ、フーシェ。暗いから気をつけろ」

「ふん、いやに丁寧じゃないか」

 俺たちを先に行かせて安全を確認してから、フーシェ、そして呂布も降りてくる。

「その先の鉄扉がある。それの先だよ、ナザレのイエスは」

「素直だな。何か思惑でもあるのか?」

「ないですよ。俺は、あんたがたがちょっとでも起源を直して、俺の命を助けてくえたらいいなーって思っていますよ」

 じっとフーシェは俺を見つめた。

 俺はアグリア帝国のスパイでありながら近衛兵として寝返るウルトラCを決め、さらに呂布をたぶらかそうとする前科持ちなので疑われるのはわかるが、そんなに見つめられてもこれ以上のカードはない。

 全てのカードは切ったのだ。

「扉を開いた途端、罠が発動したりする、ということはないな」

「ないですってば。なんなら俺が先に行きます?」

「いや……いい」

 俺の言葉に納得したのかそうでないのか、フーシェは先に立って進むことにしたようだ。

「呂布。扉を開けよ」

「了解」

 呂布が大柄な身体を窮屈そうにして進み、鉄扉を押し開けた。

 ぎぎ、と重たげな音を立てて鉄扉が開かれる。

「……これは」

「それがナザレのイエス。前回のゲームの優勝者だ」

 ぼろぼろの姿のナザレのイエスを見て、フーシェは言葉を失っていた。

 前に立つ呂布も、愕然とした様子でナザレのイエスの姿を見つめている。

 当然だろう。

 まさか、ナザレのイエスという名前から、こんなミイラ然とした、生きているのか生きていないのかもわからない人間を提示されるとは思わないだろう。

 すなわち。

 好機!

 俺は袖に潜ませていたナイフを抜き、エイレーネの腕を縛っていた縄を断ち切った。

 この段になれば声をかける必要すらない。

 エイレーネがバネじかけのように跳ね飛びて、フーシェの背中に飛びかかる。

 呂布の謀反を誘発するのが失敗した時点で、結局は暴力に頼るしかないという決断は下していた。

 ただし、彼女の手に愛用のダガーがないことが唯一の不安要素だった。

 エイレーネの格闘能力がどこまでのものなのか、俺のデータにはない。

 前世が息子殺しの女帝である彼女の実力を見くびるわけではないが、呂布とフーシェを同時に相手取るのは難しいだろう。

 奇襲の一撃でどちらかを消すしかない。

 優先するのは当然、司令塔である肉体強度で劣るフーシェのほうだろう。

 結果、彼女の拳がフーシェを捉えることはなかった。

 何故なら。

「貴様……っ どうして」

 呂布の槍の先端が、フーシェの胸板を貫いていたからだ。

「私が私であるためです」

 飛将軍呂奉先は、静かにそう言い、槍を引き抜く。

 ジョゼフ・フーシェの身体から、噴水のように血が飛び散り狭い洞窟の中を濡らしていった。

「さて……次はそちらか? エイレーネ、沖田総司」

 呂布は静かに俺たちを見る。

「降伏することを勧めよう。何故なら今、私は降伏した人間を蹂躙したい気持だからだ」

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