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人斬り・沖田総司と武器商人・坂本龍馬

「僕と手を組みませんか? 沖田総司。坂本龍馬と沖田総司。夢のタッグですよ」

「けほっげほっ げほげほっ」

 激しく咳き込むと、血の塊が口からでてきた。

 これが喉につかえていたらしい。

 ようやく、辛うじて会話ができるようになった。

「……坂本」

「はい。なんです? 沖田さん」

「いくつか質問がある」

「どうして俺と手を組もうと思った?」

「?」

 坂本龍馬が首を傾げた。

「それはどちらの意味ですか? 僕がアグリア帝国の騎士たるノーリと手を組む理由ですか? それとも」

 坂本龍馬は意味深に言葉を切ってから、

「僕を殺した新撰組の沖田総司と手を組む意味ですか?」

 ぐっと息を飲んだ。

 知っていたのか、この男は。

 僕が坂本龍馬を殺したって。

 前世での話だ。

 坂本龍馬暗殺の下手人は俺だった。

 俺が病死したあと、局長がその咎で処刑されたと聞いた時は複雑な気分になったものだ。

「てっきり、最初に俺に会った時に反応がなかったから、俺が殺したは知らない死んでいたのかと思っていた」

「まさか。そこまで愚鈍な僕ではありませんよ。あの時は痛かったですねえ」

 おかしそうに坂本龍馬は微笑む。

「あの時は別に、前世の因縁を持ち込んでも意味がないと思っただけです。僕だって恨みを買っている相手は多いですしね」

 それはそうだ、と今となっては割り切れる。

 土方歳三も敵となれば迷わず斬り合える。

 だが、ルドウィジアに転移させられた直後にそこまで割り切って、自分を殺した張本人と協力しようと思えた彼の胆力は素直に驚嘆する。

「流石だな、坂本龍馬」

「商売人としては当然のことですよ。武士と商人の価値観の違いじゃないですか?」

「俺は農民出身だけどな。坂本こそ、武士の出身だろ?」

「そうはいっても土佐郷士ですからね。農民みたいなものですよ」

 話を戻しましょう、と坂本は続ける。

「どうしてノーリと、アグリア帝国と手を組みたいかの話ですね?」

「そう。そっちが知りたかった」

 というのは、坂本の立場で考えるとイースキール側についたほうが明らかに有利だからだ。

 イースキールの遠隔回復魔法があるのならば、アグリア帝国は魔法国イースキールに一方的に蹂躙されるだろう。

 土方歳三クラスの人材が複数揃っていたら、すぐにでも侵攻が可能だ。

 アグリア帝国に勝ち目はない。

 イェカチェリーナ二世も、ハイパティアも、その住人も徹底的に踏みにじられることだろう。

「アグリア帝国が負けるのに、どうしてアグリア帝国につくのか? それは簡単な話で、僕が商売人だからですよ」

「……?」

「つまりですね、ミスタ・沖田。このままだと魔法国イースキールがルドウィジアを席巻してしまう。冒険者の国ティアグロ連邦だって、アグリア帝国が征服されたら即座にイースキールとの同盟を結ぼうとするでしょう。正面上は同盟で、実際には属国になるような同盟をね。それは武器商人としては困るわけですよ。平和になってしまいますからね。平和は武器商人としては商売あがったりなわけですよ。ならば少しでもアグリア帝国と魔法国イースキールを拮抗させておいたほうが僕たちは儲かる」

 俺はしばらくぽかんとしていた。

 思考回路が俺とは違いすぎる。

 俺は人を斬って喜ぶ殺人鬼ではあるけれど、基本的には平和であったほうが望ましいと考えていた。

 それは俺の願望とかそういうものではなく、当然の価値観だと思っていた。

 この世を生きる人は全て、平和を渇望しているのだと思っていた。

 坂本龍馬は突如そこへ、全く異なる価値観を持ち込んだのだ。

 戦争が継続していたほうが、坂本龍馬にとっては都合がいい。

 それを言ったら、新撰組だって混乱が終わってしまえばその存在は不要になるわけだが、だからと言って平和にならなくていい、とは思わない。

「実はこの三年間は、アグリア帝国が一強になると踏んでいたから魔法国イースキールと冒険者の国ティアグロとの間で、両国が少しでも勢力を増すように商売を中心にしていたんですけどね。この状況は僕にとっても予想外です。ティアグロならともかく、イースキールがここでダークホースとして存在感を増してくるなんてね。イースキールは外界との関係をほとんど断っているような国ですから、取引を始めるのには苦労しましたのに」

「……邪悪だな、あんた」

「はい。邪悪なんですよ、武器商人というものは」

 からっと坂本龍馬は言う。

「死の商人と呼ばれているくらいですから。言われ慣れています。誇りなんて、真っ先に値札を付けて売っちまえというのが商売人の生き様でございまして」

「まあ、言っていることはわかったよ」

「で、どうです? ノーリさん。この悪魔と手を組んでくれますか?」

 坂本龍馬はぬっと手を差し出した。

「言っておきますが、声をかけるのはこれが最後ですよ。いくらイースキールで取引をしている数少ない業者と言っても、地下牢に出入りするのはリスクがありますからね」

「……だろうな」

 露悪的に振る舞っているが、坂本龍馬がここで俺に声をかけたのは打算が全てではないだろう。

 彼ならば、アグリア帝国とコネクションを繋いでケイトと直接やりとりをすることもできる。既に顔見知りなのだから、それは簡単な事だ。

 わざわざ危険を冒して地下牢に入ってきたのは、俺を気遣ってのことということになる。

 坂本龍馬を殺した俺を、坂本龍馬がどう思っているのか、その心中は定かではないが。

「いいよ、手を組もう、坂本龍馬」

 どちらにせよ、俺に手はない。

 この地下牢で拷問を受け続けては未来がない。

「あなたはそう言ってくれると信じていました、沖田総司」

 にこりと笑って、坂本龍馬は俺の拘束された手を握った。

 まるで人の手を握ったような気がした。

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