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バネ脚ジャックと沖田総司

 バネ脚ジャック。

 イギリスに伝わる、都市伝説の怪人か。

 その実力はいかほどか。

 ジャックの体格は貧弱にも見えるが、この世界ではそれも当てにはならない。

「行くぞ」

 ばん!

 と、大きな音がして、ジャックの姿が消えた。

「ノーリ! 気をつけて!」

「上か!」

 大振りのナイフが上空から勢いに任せて叩き付けられるのを、辛うじて刀で受けた。

 アスクレピオスの鍛冶職人によってベストコンディションに保たれているはずの刀が悲鳴をあげる。

「なるほど、ジャック・ザ・ホッパー。お前の武器はその跳躍力というわけか」

「ご明察」

 華奢な体格も、人間離れした大ジャンプを活用するためのものなのだろう。

 器用にも、ジャックはそのままナイフに力を込めて、再び上に飛び上がった。

「でも、対応できるかな」

 くるりと宙で一回転したジャックは、再び落下速度を活かして俺にナイフを振り下ろす。

 辛うじて受け止めた一撃で夜闇に赤い火花が散る。

 さらに、そのタイミングで三度ジャックは宙に飛び上がる。

「大道芸め!」

 攻撃を刀身で受けると、そこを反動にして飛び上がるのならば、受けなければいい。

 俺はトンボを切って距離をとる。

「距離をとってしまっていいのかい? 近づかなければ僕を倒せないよ」

 そう、それが問題なのだ。

 銃撃をすれば倒せるが、銃声が集落まで届いてしまう可能性がある。

 銃を抜くのは、本当に最後の手段だ。

「ノーリ……」

 背後で、イザベラが小さく呟いた。

「心配するな、イザベラ。俺に任せろ」

 俺は再び距離を詰める。

 ジャックはやはり跳躍。

 宙空へと逃れ、反転して攻撃。

「……ぐっ……」

 体格こそ貧弱だが、落下速度が加わっているせいで速くて重い。

 しかも、一般的には上空から攻撃してくる相手に対応する武術は存在しない。

 故に、対応がどうしても遅れる。

 ひんやりとするほどの夜の陽気の中ですら、知らず汗が流れ落ちる。

 さらにジャックが跳ね上がろうとしたその時、突然糸が切れたようにジャックは地面に落下した。

「ようやくか。ありがとう、イザベラ」

 後ろで控えていたイザベラが放った含み針が、ジャックを貫いたのだ。

「待たせちゃってごめんね、ノーリ」

「問題ない。むしろ、闇で狙いがつけにくい中でよくやってくれた」

 俺は地面に落下したジャックの容態を覗き込んだ。

「イザベラ、毒の種類は?」

「毒というか、意識を失わせる麻酔だよ。ノーリが殺さないようにしてるみたいだったから、致死毒はやめておいた」

 イザベラも同じようにジャックの様子を見る。

「薬はアスクレピオスにもらったんだ。他にもいくつか種類をもらったから便利。ナイフにも仕込めるしね」

「頼りにしているよ、イザベラ」

 ジャックの瞼を開いて瞳孔の開き具合を見て、意識が失われていることを確認した。

「やっぱり殺さないほうが良かったよね」

「まあな。ここでイースキールの住人を殺してしまったら、それこそ大事になる」

 俺たちがケイトの側近だとバレたら、それが戦争の動機になることすらありえた。

 そもそも空中でぴょんぴょん跳ねるだけの敵など、一般人ならまだしも俺に通用するはずがない。落下する勢いを利用して串刺しにしてしまえば本来は終わる話だったのだが、殺さないように御するのは苦労させられた。

「ナイス判断だよ」

 念のためにジャックの両手両足を縛って、俺は先を急ごうとした。

 その時だ。

「どこへ行こうとしているんですか、総司よ」

 と、聞き覚えのある声がした。

「今ならまだ取り返しがつきます」

「歳三さん……!」

 闇の中で、愛用の和泉守兼定を構えているのは、まぎれもなく土方歳三その人だった。

「全く、こんな夜中に起こされるのは予想外でしたよ、総司」

 欠伸をかみ殺して土方は言う。

 バネ脚ジャックが単身で俺を追いかけてくるはずがない。脱走者を捉えようとするのならば、当然上官や仲間にも連絡がとれている道理。

 それでも、こんなにも早く追手がくるのは予想外だった。

「正直、私は今の状況がよくわかっていないのですが……話は後でゆっくり聞きましょう。今なら内々に収めてやれます。ジャックの件も忘れましょう。だから、私達と一緒に来ませんか?」

 土方の声はあくまで穏やかで、真剣だった。

 おそらく、彼の言う通りに従えば俺もイザベラも許してはもらえるのだろう。イースキールの騎士として忠誠を誓えば、俺たちはイースキールで幸福に暮らせるのかもしれない。

 だが、俺は出会ってしまった。

 ケイトに、イザベラに、ハイパティアに。

 カフリンや土方歳三よりも先に。

 彼らを裏切ることは、頭ではなく心が許さない。

「すみません、歳三さん。今度の人生ではあなたと一緒には歩めません」

「そうですか……」

 寂しそうに呟いて、土方は和泉守兼定を構え直した。

「では、仕方がありません」

「こっちとしても残念ですよ、歳三さん」

「残念……とは私は思いませんね」

 土方歳三はうっすらと微笑んだ。

「総司を斬ることができる日が来るなんて、感激ですよ私は」

 和泉守兼定が、持ち主の気持に応えるように、月明かりを浴びてぎらりと輝いた。

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