教祖チャールズ・カフリン
「歳三さんが、魔法国イースキールの教祖チャールズ・カフリンの近衛兵ですって?」
「どうしました? 総司。そんなに驚く事ですか」
先に立って歩いていた土方が首だけで振り返って言った。
「いえ……流石は歳三さんだと思ったんですよ」
声を出してしまったことを取り繕うように言った。
「トップと既に結んでいるとは驚きました」
「ふん」
得意げに土方は鼻を鳴らした。
「私の強さならば当然でしょう」
「ですよねー」
俺たちのやりとりに、イザベラは目線でそんなに? と問いかけた。
「歳三さんは強いよ」
「ふうん……ノーリよりも?」
「竹刀でやったら俺が勝つけど、真剣でやったらわからない、ぐらいの力の差だよ。トータルで見れば互角くらい。歳三さんより強い人はそうそういないよ」
ただし、生前は、という但し書きがつく。
死後、悪意によるブーストを受けていることを思えば土方のほうがきっと強い。
この人は、それだけ新撰組の汚れ役を引き受けてきた。
立場のある人間のほうが責任を負うことが多いぶん、邪悪だと判断される傾向になるというのは、イェカチェリーナ二世たるケイトが俺よりも強いことからも推測できる。
つまり、魔法国イースキールに土方歳三がいる限りは、そう簡単には侵略できないということだ。土方歳三はこれ以上ない守護神として、侵略者の前に立ちはだかるだろう。
「歳三さんに守られているカフリンさんはさぞ心強いことでしょうね」
「場合によっては君も近衛兵雇ってもらえるかもしれませんよ、口添えしましょうか」
「ありがとう、歳三さん」
俺は応えた。
「でも、まずは色々イースキールの中を見てみたいな。近衛兵になるとしても、その後でいい?」
「構いませんよ。その間は私の家で過ごしてもらってもいい」
「何から何まで、お世話になります歳三さん」
「気にやむことはありませんよ、総司。私と君の仲です」
土方は懐かしむように目を細めた。
「近藤さんはこの世界に来ているんでしょうかね。また会いたいような、こんな世界にはいて欲しくないような複雑な気持です」
「近藤さんは天国に行っているんじゃないでしょうか。俺はそうあって欲しいです」
「それもそうですね……」
それにしても、と歩きながら考える。
土方歳三と再会できたのも、彼がカフリンの近衛兵になっていたというのも良い報せだ。
ならば、土方を介してチャールズ・カフリンに接近するのも難しくはない。イースキールについて詳細な情報を得るのも困難ではない。
なんなら、土方が言うように俺自身が近衛兵となって接近してもいい。場合によっては、俺がイースキールの内側から手引きをすれば、簡単に崩壊させることができるだろう。
実際に行うかはともかく、だ。
「もうすぐですよ、総司」
土方が指差すと、もう見える範囲に集落が見えていた。山の谷間にある程度まとまった土地があったのを、集落にしたように見える。
「関所が破られたような有事の際は、ここで迎撃を行う……というイメージに見えますね」
イザベラが感想を述べた。
「山の間の道は大量の人員で押し通ることを許さず、この集落に戦力を集中させて確実に潰す、というような」
「よくわかっていますね」
彼女の感想を、土方は笑顔で受け入れた。
「もっとも、三か国しかないこの世界で、誰が攻めてくるというわけでもありません。拠点として配置したというよりも、平地が限られているのでここに住まざるをえない、というような話です。イースキールの神殿に至るまで、集落が作れるほど広くなっている場所ごとにこうした街がありますよ」
「そうなんですね」
イザベラが考え込む仕草を見せる。
「思ったよりも厳しい環境ですね。生活が大変そう」
「慣れてしまえば大したことではありませんよ」
微笑みかけながら、土方は言う。
「それに、山の恵みを存分に受けられるという利点もありますから。イースキールにとってはこれが当然の生活です」
そうこうするうちに、集落へとたどり着いた。
「この集落に、私の家があります。家というよりも、寮みたいな感じですが、ともかく今夜はそこへ泊まることにして、今後の君たちの身の振り方を話すとしましょう」
「わかりました、歳三さん……ん?」
土方の言葉に頷きかけて、違和感に気づく。
「歳三さん、近衛兵なんじゃないんですか? 近衛兵ってことは、教祖チャールズ・カフリンに侍っているんだと思っていましたが」
「近衛兵というのは、便宜上のネーミングですね」
家へと向かって歩きはじめながら、土方は説明を開始した。
「実際には教祖の近臣として侍るというよりも、単にある程度以上の地位の兵士だと思ってくれればいい。近衛兵が持ち回りで、前線の指揮官として赴任してるというわけです」
「住人同士のトラブルを防ぐ治安維持と、野生動物駆除とかが主な仕事って感じですか」
「山がすぐそばに迫っているせいで、イノシシ害とかが馬鹿にならんのが最近の悩みなんですよ。イノシシやシカが獲れると結構な食糧になりますから痛し痒しではありますがね。あとは時間が許せば、山に罠を仕掛けてひたすら食糧の確保ですね」
「はっは。どこの国も大事なのは食事なのは変わりませんね」
見ていると、家の多くは木造だった。山が多い国だけあって、木材には事欠かないようだ。
土方はこの集落ではだいぶ顔が通っているようで、通る人通る人に挨拶を交わしている。
「あ、ここに私の家があります。どうぞ」
土方が示したのは、一際大きな平屋の建物だった。どうやら、ここが兵士の集合住宅となっているらしい。
「みんな個室があるんですか?」
「個室があるのは幹部級と、近衛兵だけです。私も相部屋でいいんですけどね、どうやら私がいると他の兵士の気が休まらないみたいです」
歩きながら、すれ違った兵士と挨拶を交わしながら奥の部屋へと進む。
「新撰組の頃を思い出しますね……」
あの頃、土方は隊士から大いに恐れられていたものだ。鬼の副長の二つ名は伊達ではない。必要以上に丁寧な喋り方も相まって、まるで妖怪のように囁かれたのが平隊士の間での常だったようだ。
「そうですね、総司。あの頃は不快な思い出もありますが、楽しかったものです」
「マジですか……楽しんでたんですね」
実際のところ、俺も結構怖かった……というのはここだけの話だ。流石に一番隊隊長としての示しがつかない。
土方歳三の一番恐ろしいところは『どこまで考えているのかわからない』ところだった。何を考えているのかわからない以上に、どこまで思考しているのか周囲からはわかりづらい。
どこまで、というのはそこまでしなくても、というところに踏み込むことに躊躇がないという意味だ。
そんな土方を使いこなす局長のことは尊敬していたが、チャールズ・カフリンにはそれができているのだろうか。
「ここが私の部屋です。ちょっと会わせたい人がいるので、少し待っていてください」
部屋まで案内して椅子に座らせると、そう言い残して土方は部屋を後にした。
「……どうするつもり? ノーリ」
二人っきりになるなり、イザベラは椅子を寄せて耳元で囁く。
「ここを正攻法で攻め落とすのはキツいな」
「地形的な話?」
「そう。堅牢な割りには地形が山ばっかりでリターンがない……という印象が強いな」
とはいえ。
それはそれで使いようはある。
当初予定していた目的からすると攻め入る価値はなさそうだが、それに代わる理由はでてくるかもしれない。
「とにかく、魔法国の『魔法』というキーワードは気になるしな」
「魔法国、という言葉はインパクトが強いけれど、今のところそれらしい様子はないね。もっと、こう、魔法使いのおどろおどろしさみたいなものがあるのかと思っていたけど、のどかといってもいいくらい」
イザベラは拍子抜けした様子でため息をついた。
「とにかく、まずは調査を重ねることだよね、ノーリ。そんなところ?」
「そうなるかな」
土方が戻ってくる気配を察して会話を中断した。
「待たせましたね、総司、イザベラさん。こちらが会わせたい人物ですよ」
土方が連れてきたのは、痩せて背の高い、壮年の男性だった。
「こちらはチャールズ・カフリンだ」
ガタっ、と俺は椅子を倒してしまった。
そのぐらい驚いたのだ。
「イースキールの王である、チャールズ・カフリンか!?」
ええ、とその男はうっすらと微笑んだ。




