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ノーリの正体

「まさか君もこっちに来ているとは思わなかったですよ、総司」

 新撰組・鬼の副長、土方歳三はうっすらと笑みを浮かべて手を差し出した。

「歳三さんこそ。あなたもこのルドウィジアにいるなんてね」

「ま、仕方あるまいさ」

 俺と土方歳三は、親愛を込めて笑みを交わした。

「それにしても、随分な挨拶ですよ、歳三さん。いきなり斬り掛かってくるなんて。生前と同じですね」

「ふん。一度死んだぐらいでは、性格というのは変わらないもののようですね。俺はこんな人間のままですよ」

「ねえ……ノーリ?」

 イザベラがちょいちょいと袖を引いた。

「この人は誰?」

「土方歳三。俺の昔の上司で、先輩。新撰組っていう団体のサブリーダーをしていたんだ」

「よろしくお願いします、お嬢さん」

 土方は会釈をする。

「えっと、歳三さん、こっちは俺の連れでイザベラって言います」

 イザベラもぺこりと頭を下げる。それに釣られてツインテールが揺れた。

「総司もなかなか隅に置けないね。この世界でもこんな美しいお嬢さんをひっかけているなんて」

「やだ、美しいなんて」

 照れてイザベラは口元を押さえて頬を染める。

「いくらあたしが美人でも、そんな直截に言われてしまうと照れちゃいますよー」

「ああ。本当に美しいですよ。随分と危険な輝きに満ちている」

「あら」

 イザベラは笑みを止めて、鋭く土方を見る。

「わかりますか、ミスター土方?」

「無論ですよ。新撰組はそういうのが仕事でしたからね。一見してふわふわとフェミニンな衣装に身を包んでいるようでいて、その衣装の下に危険な刃を大量に潜ませている。いつ暴発してもおかしくない危険な美しさの女だ」

「お上手ね。ここで一度、あたしとも手合わせしてみます?」

 土方の言葉を聞いて、イザベラは威嚇するような笑みを浮かべて袖口から滑るように大振りのナイフを取り出した。

「結構強いですよ、あたし」

「いや、やめておきますよ」

 今にも攻撃に転じそうなイザベラとは対照的に、土方はあくまで穏やかに応える。

「その腕前、見てはみたいですけどね。いざという機会の楽しみとしましょう」

「……」

 イザベラはあまりにも凪いだ土方の姿勢に毒気を抜かれた様子でナイフを収めた。

「なるほどね。ノーリの上司だけあってなかなか一筋縄ではいかなそうな人物ね」

「だろう?」

 俺の言葉に、イザベラはこれ見よがしにため息をついた。

「えっと、それで、ノーリ? 沖田? っていうのはあなたの本来の名前?」

「ああ」

 沖田総司。

 一度捨てたはずの、俺の名前。

 新撰組一番隊隊長にして、日の本最強の剣士の名前。

 伝説の剣客。

「俺の名前は沖田総司だよ。敢えて名乗っていなかったのは、前の世界で人を斬り過ぎて恨みを買っていたから、それが原因でトラブルにならないようリスク管理だよ」

 イザベラに告げた理由は当然、口からのでまかせだ。

 俺は別にリスク管理から名前を仲間に伝えていなかったわけではない。そもそもあの時点では、知り合いに再び出会う可能性など考えてもいなかった。

 俺は単に決別したかっただけだ。

 最強と呼ばれながら最後まで戦うことすらできなかった、沖田総司の人生と。

「イザベラは今まで通り、ノーリって呼んでくれていいよ」

「そうする」

「……それで、歳三さん」

 改めて、俺は土方歳三に向き合った。

「あなたはずっとイースキールにいたんですか?」

「ええ」

 土方は頷く。

「私はあの後、転戦を繰り返して函館で死んだんですが……こっちの世界に来てから三年ほど、基本的にはイースキールにいましたね。一時的にアグリアやティアグロに行ったこともありますが」

 三年。

 ということは、俺やケイト、イザベラと同時期にこちらの世界に来たということになるか。アグリアでは『初期組』と俗称される。

「じゃあ、イースキールには相当詳しいんですね? 俺たち、初めてイースキールに来たんですよ。中心部まででも案内して貰えませんか?」

「ええ、案内しますよ、こっちです」

 気軽に請け負って、土方は先に立って歩き始めた。

「イースキールの国土は狭いので、案内するってほどでもないんですけどね」

 土方について歩いていくと左右から山脈がせり出しており、その隙間を縫うような形で辛うじて道がある、という地形だった。確かに土方の言う通り、有効活用できる国土は広くなさそうだ。

「山が多いんですね」

「今判明しているルドウィジアの平野の大部分はアグリアが占有してしまっていますからね。とは言っても、山は山で活用する方法がありますが」

「薪もとれるし、イノシシやシカ、それに山菜や木の実もとれる……というわけですか」

「ええ。わかっているではありませんか、総司」

 ということは、イースキールの文明レベルは予測とそう大きくは変わらない、ということになる。

「アグリアでも似たような話はありましたから」

 むしろ、平野を優先して確保したぶんアグリアは木材の確保に四苦八苦していた。人口が爆発した故の建材や燃料としての需要はもちろんだが、製鉄をするのに莫大な燃料が必要だった。既にいくつもの山を禿げ山に変えてしまっており、災害の発生が危惧されている。

「では、食事はおおむね狩猟採集で賄っているということですか? 歳三さん」

「そういうことになりますね。アグリアではコメ作が盛んなそうですが、私もたまにはコメが恋しくなりますよ。輸入できたらいいんですけど、輸出する資源も限られている有様で」

 狩猟採集の生活ということは、賄える人口も限界がある。ケイトならば国土から人口が算出できるかもしれないが、俺にそこまでのスキルはない。手に入るだけの情報を手に入れておくのが正解だろう。

「総司、アグリアではコメが食べられたんでしょう? 帰るならいまのうちですよ、総司」

「いいえ。そんなつもりはありません。慣れるまでは大変かもしれませんが、歳三さんがここに長く住んでいるということなら、俺も過ごせると思いますし」

「ふん。それはそうかもしれませんね」

「三年間、何をしていたんですか? 歳三さんは、この魔法国イースキールで」

「私ですか」

 土方歳三は戦闘に立って歩きながら行った。

「私の仕事はイースキールの教祖チャールズ・カフリンの近衛兵ですよ。この三年間、その役割を果たしてきました」

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