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君は誰だ?

 君はどの時代から来た?

 ハーヴェイ・リー・オズワルドのその荒唐無稽とも言えるクエスチョンを受けて、俺は混乱『しなかった』。

 同じ一週間前にこの世界に堕ちてきた人達にとっての『元の時代』はバラバラだということはわかっていた。

 何しろ俺が本来いた時代にはバイクなどない。

 俺はあのバズーカ・ベスパを見て、どうやって使うのか、それどころかなんのための道具かさえわからなかった。

 それはケイトやイザベラも同じようだった。たまたま、エドワードやジェレミーがより未来の技術に知悉していたからなんとかなったものの、そうした仲間がいなかったとしたらエンジン一つかけることができなかっただろう。

「いきなり聞いても話しづらいだろうからな。私のほうから話を聞かせてやるよ」

 オズワルドは余裕のある笑みを浮かべたままで言った。

「私が死んだのは、西暦1963年11月24日のことだ。ジョン・F・ケネディ大統領の暗殺し二日後にジャック・ルビーによって暗殺されたのが私だよ」

「大統領の……暗殺犯」

 オズワルドの前の世界での仕事は暗殺者か。

 ハーヴェイ・リー・オズワルド。悪業は『大統領暗殺犯』。

 暗殺犯という言葉には特段怖気を振るうことはない。仕事の内容では俺も似たようなものだ。

「その反応だとジョン・F・ケネディのことは知らないようだな。もっと以前の時代から来たか? アメリカ建国以前の人間か?」

 オズワルドの瞳がぎらりと輝いた。

「それとも、アメリカが滅亡した後の人間で、アメリカなんて国は知らないとでもいうつもりか?」

 ジョン・F・ケネディ。

 その名前には聞き覚えはないが……。

「俺の知っているアメリカ大統領はアブラハム・リンカーンだな」

「そうか。アブラハム・リンカーン。わかるとも、我が国の最も偉大な大統領だよ」

 オズワルドは頷いた。

「私が生まれる前の大統領だ……できれば未来の人間だと、未来技術を持ち込んでくれる可能性があるので嬉しかったのだがね」

「未来技術ですか。たとえばどのような?」

「例えば、か。そうだな」

 オズワルドは傍らにあった長銃を示してみせた。

「これはある傭兵が持ち込んだアーティファクト……私が未来技術をアーティファクトと呼んでいるのだが……アンチ・マテリアル・ライフルというものらしい」

「アンチ・マテリアル?」

「対物ライフルともいう。私の時代にも似たようなものはあったがな、対戦車ライフルから進化した代物らしい。より安価な対戦車兵器が発達したことで別の進化を遂げた代物らしい……いや、そもそもリンカーンの時代では戦車自体を知らないか」

 君よりも後の歴史ははおいおい説明しよう、とオズワルドは話を打ち切った。

「さて、ノーリ。前の世界ではどんな仕事をしていたのかね?」

「俺は……治安組織で働いていました。官僚ではなく現場の人間です」

「ふむ。なるほどね」

 オズワルドは俺の腰の刀に目をやった。

「君の世界は、まだ銃ではなく剣の時代だったというわけだね」

「ええ……既に火縄銃は広く知られていましたが、規制のためにほとんど使われてはいなかったですね。一部で輸入の闇拳銃が使われていたくらいです」

「なるほどなるほど……よくわかるよ」

 にこにことオズワルドは微笑んで続きを促す。

「もっと詳しく君の話を聞きたいね。単に治安組織で労働に従事していただけでは、この世界に堕とされるには至らないと思う。私が聞きたいのは生前の君の話だ」

「俺の住んでいた国は、長年鎖国をしていたのですが、ペリー提督の来航……奇しくもあんたの祖国ですが……によって帰路に立たされていました。開国か、攘夷か、です」

 オズワルドの問いかけに、どこか違和感を覚える。

 生前の話なんて、どんな意味があるのだ?

「その二者択一は、俺の祖国を大きく二分する議論となっていました。俺の祖国は天皇の威光と将軍の威信という二重構造によって成立していたこともまた、議論を複雑にしていました」

 前の世界から持ち込んだ技術を欲するというのならばよくわかる。先ほど話した、アンチ・マテリアル・ライフルのような未来技術ならば、この世界で生きていく上で非常な助けになるだろう。

 あるいは、情報を欲するのもわかる。技術そのものでなくても、未来で何が起きた、あるいは未来ではどういう技術がある、というのならば益するところは大きい。情報を元にそうした技術を再現できるかもしれないし、あるいは敵組織がそうした未来技術を持っている『かもしれない』と想定できる。

 知識の有無、情報の有無は時として決定的な違いを生む。

 ケイトが必死になってネットワークを張り巡らせているのもまた、情報を獲得することに執心しているからだ。

「……オズワルド様」

「なんだね?」

「質問を一つよろしいですか?」

「もちろん。なんでもいいたまえ」

「どうして俺なんかの話を聞こうというのですか?」

「そうか」

 オズワルドはニィィと口元が裂けそうなほど禍々しい笑みを浮かべた。

「単刀直入に聞こう。私が気になるのはね。君が剣客に過ぎないにも関わらず、恐ろしいほどの邪気をどうして備えているのかだよ」

 ゾゾゾゾゾ、と全身の毛が粟立った。

「君は誰だ? 答えなさい」

「俺は……」

 どうするか?

 答えは、もちろん抜刀だった。

 神速の踏み込みで、オズワルドの首を斬り飛ばす。

 はずだった。

「良いね」

 オズワルドはおよそ考えられないほどの速度で、剣の切っ先から身体を反らしていた。

 まるで、初めて戦った時のケイトが、俺の斬撃を回避してきた時と同じように。

「素晴らしい反応速度だ。是非とも私の手駒に加えたい」

「くっ」

 倒せないと決まったわけじゃない。剣を返して心臓を貫く。

「無駄だよ。『今の』君ではまだ私は倒せないよ」

 なんなく俺の攻撃を回避したオズワルドは笑みさえ讃えている。

「治安組織に属していれば、邪悪なことに手を染めざるをえないこともあるだろう。時として、仲間を切り捨てることすら必要かもしれない。だが、君の背負っている邪気はそういうレベルではない。君は、一体どんな罪を犯してこの世界に来たのだ?」

 返事をするつもりはない。

 黙って剣を振るう。

 かつて多くの悪を断ち、多くの仲間を殺めた攻撃が当たらない。

「聞く耳なし、か。残念だ」

 オズワルドは懐に手を差し入れた。

「おやすみ、ノーリ」

 抜く手も見せぬ手さばきで取り出された拳銃が火を吹く。

 腹部に強烈なインパクトを受けて、俺の意識は、暗転するーー。

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