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鉄血魔王の倒し方

「ああ、もう。なんで私がいない間にこんなことになるのかしらね」

 ケイトはくしゃくしゃと長い髪をかきむしった。艶のある黒髪が顔に垂れ下がってくる。

「まあ、うん。とりあえずは意見を聞くことが大切ね。頭ごなしに怒るのは愚帝の所行というものよ」

 はーっと長く深呼吸をして、ケイトは切れ長の目で改めて俺たちに向き直った。

「それで、ノーリ、そしてイザベラ。何があったのか、話してもらえる?」

 ケイトの後ろには、狛犬のようにエドワードとジェレミーが待機している。

 本丸に戻る時間も惜しく、城郭内でのことである。

 帰還したケイト、エドワード、ジェレミーに加えて、俺、イザベラ、坂本龍馬の六人での会議を開始した。

「あたしはノーリの仲間であってあなたの仲間になった覚えは無いよ」

 ケイトに問いつめられて、一瞬でイザベラは裏切った。

「……。まあ、いいけど」

 困った様子でケイトは顔にかかる髪を払った。

「怒らないから、どういうわけか教えてくれる? ノーリ」

 俺はため息をついて、これまでの顛末を話した。

 坂本龍馬が満身創痍でこの砦へたどり着いたこと。

 彼が懐に種籾を持っていたこと。

 そして、オズワルドからの追手を受けて、俺がそれを撃退したこと。

「うーん……」

 俺の話を聞いたケイトは困りきった様子で首を傾げた。

「まあ、敵対しちゃったものはしょうがないか。私なら、種籾の一部を懐にいれた上でオズワルドと同盟を組むけど。短期的には戦力で負けていても、時間をかければ逆転できる自信あるし」

「だから、相手からサーベルを抜いてきたんだってば」

「私なら相手にサーベルを抜かせないって言っているのよ」

 確かに、彼女の交渉スキルならば、ジャンを言いくるめることも難しくはないのかもしれない。

「でも、私達が勢力を拡大していけばいつかは当たる相手だからね。しょうがないしょうがない。今回は頭を切り替えて今回のコンフリクトを奇貨とするように動きましょう」

「すまないな」

 ケイトがさくっと思考を切り替えてくれて助かった。彼女が本格的に困ったら、僕の首を手みやげにオズワルドとの同盟をするという動きをとっていたかもしれない。

 そのぐらいのことはケイトはするだおうし、そのぐらいの決断はしてくれないと俺も下につく甲斐がない。

「それに、収穫もあったしね」

 ケイトはジャンたちから回収した武装を見やる。

 入手したのはバズーカ・ベスパ一両と彼らが手にしていたサーベルや拳銃などである。

 武装じゃ貧弱な俺たちにとってはかなりありがたい。

「もっとも」

 と、後ろで沈黙を保っていた坂本龍馬が切り出した。

「オズワルドを相手取るには、この程度の火力では全然不足です。歯が立たない」

「まあ、それはそうでしょうね」

 ケイトはばさりと髪をはらって部屋に転がっていた木箱に腰を下ろした。

「追撃に割ける戦力は全戦力の数十パーセント程度。迫撃よりも防衛のほうが大事だからね。ねえ、坂本さん。オズワルドの戦力はどの程度が揃っているわけ? 私達に勝ち目はあると思う?」

「真っ向勝負では無理だ。勝ち目はない」

 坂本は断言した。

「仮に防御を捨てて全力を投入したとしても、鎧袖一触に壊滅させられて終わりでしょう」

「そこまでの戦力差がある?」

「僕もオズワルドの戦力の全体像を把握しているわけではありませんが……機関銃や銃剣を保有してきた人材も入手している様子です。バズーカ・ベスパは今回の追撃に適していたという面もありますが、仮に失ったとしても致命傷ではない、という判断もあったと思います。戦力の多寡でいえば、天地の差があるといってもいい」

「身も蓋もないな」

 絶望的な戦力差を語られて、俺は肩をすくめる。

「あなたが言う?」

 ケイトがジト目で俺をにらむ。

「ノーリが原因がこんなに事態が急なんだけど。緊張関係にするとしても、もうちょっと時間的猶予を持ちなさいよ」

「すみません。僕が急に来たばっかりに」

 坂本が頭を下げる。

「種籾が手に入ったのは嬉しいけどね。誰かお米を作ったことがある人いる? うちの故郷、お米は作ったことないのよ」

「俺の実家は農家で、お米作ってたけど早いうちに実家出ちゃったからよく知らないな」

「ノーリ、頼りにならないわねぇ〜」

 そんなことを言われても、戦闘担当に渉外能力や農業技術を期待されても困る。

「あなたの戦闘能力はもちろん頼りにしているんだけど、でもゆくゆくは取り次ぎのような役目も任せたいと思っているのでがんばって頂戴な」

「ういっす」

 取り次ぎ役、つまり国同士の交渉窓口。随分俺に期待をしてくれているらしい。

 まだまだ数十人程度しか仲間がいないのに、ケイトはまだまだ将来を見越しているということだ。

「そうは言っても、それは追々ね。まずは目の前の問題を片付けることにしましょう」

 ケイトは視線をバズーカ・ベスパへと向けた。

「ねえ、エド。このバイクは使えるのよね?」

「燃料がある限りは走れます」

 背後に控えていたエドワードが答えた。

「ガソリンエンジンを入手するのは難しいですね……松油とかでも、動くことは動くかもしれませんが……。バズーカ部分は既に弾丸があと一発だけですね」

 エドワードは考え込む素振りを見せた。

「いえ、動く事さえわかれば問題ないわ。バイクとして走れるのならば、オズワルドの集落へ向かうのは簡単ね」

 と俺を見た。

「ねえ、ノーリ。オズワルドの王国がオズワルドのカリスマによって成立しているというのならば」

 その目線ですぐにケイトの意図に気づいた。

 だが、本気か?

「暗殺か?」

「ええ」

 にぃ、とケイトは口元を歪めた。

「トップのカリスマによって成立する独裁は暗殺によって瓦解する。あなたなら暗殺はお手の物よね?」

 暗殺は前の世界でも何度も経験がある。状況によっては、全く可能性のない話ではない。

「幸いにもあなたの顔は割れていない。追撃チームの行方が失われたことで、遠からずオズワルドも状況を察するとは思うけれど、通信手段のないこの世界ではタイムラグがある。その間隙をついて」

 ケイトは言葉を切って、改めて俺の目をじっと見つめた。

「できるわよね? ノーリ。私のために魔王オズワルドを暗殺しなさい」

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