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ユートピアより来るバズーカ・ベスパ

「どうやら、お迎えのようだぜミスター坂本龍馬」

 城壁をつんざく轟音は、明らかに敵勢力からの宣戦布告だった。

「ですねぇ……」

 呆れたように坂本は言う。

「こんなに対応が早いとは予想外ですが、まあ、この点からもオズワルドの勢力もわかってもらえると思います」

「まあ、そうだね……」

 困った様子でイザベラは俺を見やる。

「イザベラ、やっぱり相手さんは俺たちを敵だと認識していると思う?」

「まあ、仲良くはできないでしょうよ」

「だよな」

 やれやれ、とため息をつく。

 かなり状況は悪い。

 坂本は戦えない。俺も本調子ではない。イザベラにしたって、本業がスパイなのだから、白兵戦で戦うのは望ましくない。

 そして、この轟音もヤバイ。

「この音は、なんだ? 攻城砲か? アームストロング砲か? よっぽどの兵器を持って来ただろう、これは」

 ただでさえ、火器は弾丸や炸薬が限られているし、持ち運びにも手間や時間がかかるのにそれを持ち出してきたということは、オズワルドが種籾を手に入れることにそれだけ本気だということだ。

 そう簡単には退けることはできないだろう。 

 逃げるか?

 坂本を捨てて種籾を奪えば、逃げること自体はできるかもしれない。

 しかし、その場合砦を失うことになる。

「たぶん、火砲はバズーカ・ベスパですね」

 坂本は顔をおさえていう。

「軍人によって偶然持ち込まれた兵器で……簡単に言うとバイクに搭載された大砲ですが、人を乗せたまま高速で機動するので、普通の自走砲とは全く性質が違う。僕に追いついたのも納得です」

「うまくイメージできないな」

 大砲だということがわかれば充分だ。

「イザベラ」

「なぁに?」

 期待と値踏みを込めて、イザベラは俺を見る。

「どうするの? 教えて頂戴、私のナイト様」

「俺が話をつけてくる。坂本を任せた」

「了解、マスター」

 イザベラはおどけて敬礼してみせた。

「生きて帰って来てね。あたしは、ハッキリ言ってケイトの意図やこの砦の価値よりも、ずっとあなたのほうが大事だから」

「もちろん」

 イザベラの直截な心配の台詞に、俺もまた直球で応じた。

「一度死んだ身だからな。もう一度死ぬのはごめんだ」

 再び、雷が炸裂するような爆音が轟く。

「あちらさんもお怒りだ。行ってくるさ」

 と、愛刀を手に城門を出た。

「ようやく出て来たか」

 と、俺を出迎えたのは髭を蓄えた、軍服の男だった。歳の頃は40代くらいだが、中年らしい肉体のたるみは微塵もない。引き締まった筋肉が服を押し上げている。おそらく、前の世界では軍人だろう。

 傍らにある、バイクに砲身がブッ刺さった珍妙な兵器が坂本のいうバズーカ・ベスパという奴だろう。バイクの機動力と、大砲の火力があるというわけだ。

 さらに、背後にはバラバラの衣装だが、兵隊らしいのが三人いる。

 厄介だな、と小さく舌打ちした。

「初めまして。俺はノーリという」

「私はジャンだ」

 見た目通りの、低く響くような声でジャンは言う。

「ジャンさんね。どうも」

「前置きはなしにしよう。私はオズワルド様の遣いで来た。坂本龍馬を匿っているな?」

「ええ。手当をしました」

「彼を引き渡して欲しい。彼は、我々の国で滞在を犯したのだ」

「大罪ですか。ふぅむ」

 俺はわざとらしくあごに手を当てて考え込む素振りを見せた。

「そうとは知らずに失礼をしました。行き倒れかと思ってつい助けてしまいました」

 目を細める。

「……それで? ミスター・ジャン。彼を引き渡すことで、我々にはどんな利益がありますか?」

「なに?」

 ジャンは眉にしわをよせた。

「どういう意味だ?」

「どうもこうも。人に物事を頼むならば、相応のリターンを提示するのがマナーというもの。違いますかな。まして、この世界は餓鬼地獄のように厳しい。我々としても、その日の食事にも困窮している有様でね」

 これは駆け引きだが、考えてみると食事に困っているのは事実なので滑稽な話だ。

「食糧を供しようか」

 ジャンがおさえた声でいう。

「いらないね。ちょっとぐらいの飯を恵んでもらったところで今日死ぬのが明日死ぬのに変わるだけだ」

 後ろに控えていた兵士が、色めきたつのがわかった。

 オズワルドのカリスマは大したものらしいが、十日足らずでは兵隊の練度までは揃っていないらしい。

 一方でジャンは、このやりとりで逆に冷静になったようだ。片手で口ひげをしごきながら、

「そうか。君はこう言っているのだね? オズワルド様の王国に入りたいと」

「ああ。そうだ」

 それが望ましい展開。

 オズワルドの集落には人が集っているのならば、そのぶん資源や情報も揃っているはずだ。

 オズワルドを倒すのは、その後でいい。

 種籾を奪うのなんて、いつでもできる。

 代わりに坂本龍馬が犠牲になることになるが、それは仕方が無い。

 自然な形で坂本龍馬の命が助かったのならば、それはそれでいいが、敢えて助けようという義理はない。

 いや、むしろ。

 坂本龍馬は俺にとっては怨敵といってもいい存在なのだから。

「坂本龍馬から聞いた。オズワルド様の集落に入れば、食いっ逸れることはないユートピアだってな。俺もそこにいれてもらいたい。ダメかい?」

「オズワルド様は偉大な方だ」

 ジャンは目をきらりと光らせた。

「あらゆる人を、あのお方は受け入れる」

「じゃあ……」

「だが、ダメだ」

 断ち切るような声で、ジャンは言った。

「貴様は危険だ。私の経験がそう言っている」

 ジャンは腰のサーベルに手を伸ばした。

 鮮血が噴水のように飛び散る。

「そうか。残念だな」

 サーベルが抜かれる前に、抜刀した俺がジャンの肩口から股間までを一瞬で切り下げていた。

「あんた、きっと前の世界ではひとかどの軍人だったんだろうな。立派だよ。俺が危険なのは正解だ」

 両目を見開いたまままっぷたつになったジャンの身体がゆっくりと倒れる。

 残り三人。

 それから、ようやく我を取り戻した様子の兵隊たちが散開した。

「判断が遅いよ、モブども」

 片腕を閃かせ、一人をたちまちひき肉にした。

 残り二人。

 機関銃の弾雨をジャンプして回避して、もう一人の首をはね飛ばす。

 残り一人。

 やけくそのように拳銃の引きがねを引きまくる最後の一人の胴を横薙ぎに切り払う。

 その寸前、意識が急に胡乱になって片膝をついた。

 しまった。

 イザベラとの闘いで血を失い過ぎたのが、今になって響いて来た。

 口の中で悪態をつくが、視界が歪む。うまく立っていられない。

 悪夢のようにぐにゃぐにゃ歪む視界の端で、敵が銃を構え直すのが見えた。

 ヤバイ。なんとか、立たないと、避けないと……。

 だが、うまく力が入らない。それどころか血みどろの地面に倒れ込んでしまう。

 畜生。

 こんなところで、俺が死ぬなんて。

 だが、前の人生よりは、まだ……。

 観念して目を閉じた。

 だが、いつまで立ってもとどめの弾丸が飛んでこない。

「ねえ、ノーリ。私がいない間に、随分楽しそうなことをしちゃっているのね?」

 揶揄するような楽しげな声に、顔をあげた。

「全く、あなたが仲間になってからというもの、楽しみが尽きないわ」

 帰還したケイトが、片腕で兵士をつかみあげて、縊り殺していた。

「さ、何があったのか、状況を聞かせてもらえるかしら?」

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