女主と疾風
「それで?盗らなかったのかい?」
女主は、ため息まじりに言った。
疾風がかまいたちの衣を盗みに入ってから2日・・・彼は、ある宿屋にいた。疾風の育ての親である女主が経営しているこの宿屋は、彼の家のようなものだった。
疾風は、くつろぎながら、女主を見た。
「うん・・・使い物にならなかったしな・・・・・・」
女主はふか~いため息をついた。
「あのねぇ・・・羽織るだけの衣なんて誰もいらないわよ・・・・・・。2つにちぎれていたほうが、使いみちはあるんじゃないの?」
「・・・・・・今更?」
「もう一度行ったら?」
ガクッ!と疾風がイスからすべり落ちかける。女主が、無理難題を言うのは、とっくの昔に分かっていることだが・・・。本当に無茶苦茶な人だ・・・・・・。
「行けるわけないだろ・・・次行ったら、さすがに殺されるよ」
「同じようなもんでしょ」
疾風は、憎悪のこもった瞳で女主をにらみつけた。
女主は、捨て子であった疾風を拾い、ここまで育てた。いい方向に育ったのか、悪い方向に育ったのかなんて誰もわからない。ただわかるのは・・・女主は後悔していないということ。疾風とともに、生きてきたことに・・・・・・。だが、疾風を育てたのは女主だけではない。ある1人の男も、彼を育てた。疾風に生きるすべを教えたのだ。ちなみに、盗みの技を教えたのも、その男である。そのとき・・・・・・。
「よぅ・・・疾風・・・・・・元気だったか?」
1人の男が、疾風に話しかけた。