神器の力
神器の力に魅せられた人間は、その力を戦争に利用した。神器を使った戦争は、ひどいものだった。神器を1回振るだけで100の人間が骸と化し、神器を天にかざすと100の人間がよみがえった。人が人ではなくなっていくのを、その戦争は物語っていた。死んでも死んでも、神器の力で生き返る兵士たちのことを、人間たちは神兵と言った。神兵たちは、決して神々しいものではない。血だらけの、愚かな兵士である。
神兵が生み出されようとも、人間たちは神器を手放さなかった。
そして、今・・・・・・老人も、少年さえも、神器を持っていた・・・・・・。その力が、己を蝕んでいるとも知らず。
あるところに、盗人の少年がいた。少年の名は、疾風。その名の通りすばしっこい少年で、その速さを生かして盗みを繰り返す、悪ガキだった。
今は盗人の疾風にも、夢はあった。その夢は・・・・・・世界を旅すること。実に単純な夢なのだが、彼の目は、はっきりととらえていた。広大な大地を踏みしめる、自分の姿を・・・・・・。
そんな偉大な夢を抱えていながら・・・・・・疾風は今日も盗みを行っていた。
狙うのは、神器「かまいたちの衣」。かまいたちからはぎ取った毛皮から作ったと言われる、丈夫で軽い衣である。かまいたちの衣があるらしい館を、彼は見上げた。さっさと盗んで帰ろう。まぁ・・・・・・気付かれたとしても、どうにかはなるのだが・・・・・・。疾風はマスクを鼻まで押し上げると、館の窓に手を付けた。