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エピローグ

 早川が戦々恐々とした一夜を過ごした次の日の午後、早川は寝不足の頭と戦っていた。


「おい、早川」


「はい! すいません! 起きてます!」


 早川は飛び起きた。


「仕事終わったらお祓いしに行くからな。予定入れてねえだろうな?」


「大丈夫です! ありがとう御座います!」


「向こうがそれなら急いだ方が良いって言ってくれたんだからな、向こう着いたらお礼言えよな」


「マジっすか! 言います言います! お礼だけじゃなく、ヨイショもジョークも言います! 何でも言います!」


「……礼だけで良いからな!」


 編集長に睨まれながら、早川は神社へとお祓いに向かった。





 あれ以来、早川の前に影が現れる事は無かった。


 早川はその後、浩介の取材を始めた。


 映画撮影時のスタッフに話を聞くと浩介は『決して電気を消さない』事で有名だった。


 その理由は『縁起が悪いから』らしい。


 早川は栗林が何かを恐れていなかったか訊ねた。


「外の撮影と比べて、中で撮る時はなんか落ち着き無かったかな。後、暗い所も苦手っぽい感じだったかな。電気を点けて、完全に明るくなるまで落ち着かないっていうか……」


 早川には分かった。栗林は暗いのが怖かったんじゃない。電気が点く瞬間が怖かったのだ。


 早川は栗林が通っていた養成所にも取材に行った。


 そこでは南隆幸と言う栗林に近しい人間に話を聞く事が出来た。


 その話ではある日、急に電気を怖がるようになった。光が点滅すると影が見える。それが怖い。


 常に家では電気を点け、頻繁に電球を替えていたと言う話も聞けた。


 やっと早川の想像を裏付ける話が聞けた。だが、隆幸はこう続ける。


「急に気にしなくなってきたんです。一度聞いた事があるんです。『そう言えば最近怖がらないなって』そしたら『忘れてた』って言ってました。『忘れたってなんだよ』って笑ったんですが、あいつは全然笑ってなかったな。その後ですよ。映画の主演が決まったのは」


 早川は改めて怖くなった。


 確かに栗林の様に細心の注意を払えば、きっとあの影を遠ざけられるのかもしれない。


 だからあの影は自分の記憶を栗林奪ったのではないか。


 それでも栗林は注意する事を止めなかったんだろう。きっと無意識で。


 そして、次の手を打ったに違いない。


 それは栗林を光の点滅の中に誘う事。今回はフラッシュの嵐の中へと。


 それが夢の先に有れば注意も薄れるだろうし、多少の危険もおかしたくなるのではないか。


 栗林の演技の評価に、『鬼気迫るものを感じる』『心に訴えてくる』なんてものがあったのを早川は思い出した。


『もしそれが、栗林の演技力だけの結果でなければ?』


 そんな思いを早川は禁じ得なかった。





 編集長は私用で出版社に戻るのが遅くなった。辺りはもう薄暗くなっている。


 出版社のドアを開けた時、編集長は誰も居ないのかと思った。


 電気は点いておらず、入り口から見える範囲には誰も居なかった。


 編集長が電気を点ける。


 パチッ


「はわわわわーー!」


 変な声が聞こえてきて編集長は驚いた。


 するとデスクの陰から早川が顔を出した。


「編集長ですか~。驚かせないで下さいよ」


「バカ野郎! それはこっちの台詞だ! 何だ、今の声は」


 早川はモゴモゴと口ごもる。


「さては、まだ影が来るんじゃねぇかってビビってんな?」


「えっ?……いや、そんな事……無いッス、よ?」


「もうお祓いしたんだから安心しろ。うちのお祓いは全部あそこの神社でやってんだ。腕は確かだよ」


「いやぁ、何か栗林の取材してるうちにまた怖くなっちゃって」


 編集長はため息をついて、もう一度電気のスイッチに手を伸ばす。


 パチパチパチパチパチパチッ


「ギャーーーー!!」


 編集長が電気の入り切りを目まぐるしく行うと、早川は悲鳴をあげた。


 だが、早川の様子に変わった所はない。


「どうだ? 影だかは見えたか?」


「……いえ、見えなかったッス」


「だったらもう安心しろ。安心して書け!」


 早川は黙って椅子に腰を下ろし、編集長の所からは見えなくなった。


 パチパチパチパチパチパチッ


「分かったッス! もう安心です! 大丈夫です! ありがとうございました!」


 そして早川は何事もなく記事を書き上げた。





 早川の書いた記事は雑誌の発行部数を伸ばすには至らず、某掲示板を賑わせただけだった。


 早川は雑誌の発行部数を見てため息を付いた。


「……これは何て言ったら良いんスかね」


 ポツリと呟いくと、早川は頭を軽く叩かれた。


 振り返るとそこには編集長が立っていた。


「何もねぇよ。次だ次! どうせ三流雑誌だ。他と違う事書きゃあ良いんだよ」


「分かってます! 取材行ってきます!」


 早川は立ち上がると必要な物を鞄に突っ込む。


「次のネタあるのか?」


「はい、栗林が通っていた養成所は村田誠次も通ってたんです」


「あぁ、村田誠次か。最近見ないな」


「ええ、結構落ちぶれてるって話を聞いたんでチョット当たってみます」


「おう、三流雑誌らしいネタじゃねえか。行ってこい!」


「はい!」


 編集長に見送られて早川は出版社を飛び出した。

 

 今日も早川はフラッシュの嵐を起こしながら、特ダネを求めて走っている。

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