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すぐ後ろに

 駐車場に謎の影を見てから、浩介の日常は何事も無く過ぎていった。


 いつも通り養成所に行き、バイトに精を出す。


 何事も無い日常でも、全く問題がない訳ではない。


 村田が毎日の様に養成所へ来るようになったからだ。


 以前は週に一、二回しか来ていなかった。来ない週だってあった。それなのにである。


 それは何故か。ドラマの撮影が始まるまで、まだ期間があるから。


 そして、自慢したい。デカい面をしたいのだった。


 村田は養成所に来るなり、やれ共演者がどうとか。やれプロデューサーがどうとか。そんな事を言い始める。


 今まで陰で言っていた不平不満も皆の前で声高らかに言うようになった。


 特に浩介や隆幸等の古株には良く絡んでくる。


 あの演技のここが悪いとか、もっとコネクションを作っていかないとダメだとか。


 浩介達は我慢した。撮影が始まれば、忙しくて来たくても来れなくなるだろう。


 村田は台詞覚えが悪いから、きっと苦労するだろうと言うのが隆幸の予想だった。


 それに村田は前からこういう奴なのだ。皆ある程度の免疫は出来ている。


 そんな日常を過ごすうちに、喉元を過ぎた薄気味悪さ何てものは忘れられていくもの。


 警戒感が薄れるのを待っていたかのように、あの影が現れた。それは浩介がまたバイトで遅くなった日だった。


 深夜二時を過ぎて、浩介はエレベーターの前に立った。


 あの影を見てから、深夜二時を過ぎるのはこの日が初めてだった。


 だから少しでもあの時の出来事を想起したっておかしくなかった。


 だが浩介は不自然な程無警戒にボタンを押した。


 エレベーターの明かりが点滅した時に、確かに浩介は見た。


 エレベーターのガラス窓に映る自分の姿と、後ろの窓際に人影が立っていたのを。


 浩介は振り返ったがそこには何もなかった。


 今更になって以前に影を見た時の事が昨日のように思い出された。


 以前と比べて、今度はハッキリと見えた。


 何と言っても窓のすぐ後ろ、浩介から二メートルも無い距離だ。見間違うはずがない。


今回も真っ黒な影だけしか見えなかったが、その影が自分を見ていたと言う確信めいたものだけはある。


 エレベーターに乗り込むと、浩介は閉まるボタンを連打した。


 浩介にとって、エレベーターの扉が閉まりきるまでがどれ程長く感じた事だろう。


 エレベーターの窓からどれだけ目を凝らしても、影はもう見えなかった。


 前回の時も見えたのは闇ばかり。車が何台停まってるか分からないほど。


 そこで浩介は思い当たった。


『見えなくて当たり前じゃないか』


 そもそも駐車場に明かりが無いのだから、辺りは闇。


 その中に影を見るなんて事は昼間に星を見る様なもの。


 そんな事はあり得ない。


 窓際に立てば廊下の明かりで顔なりが見えるハズ。影にはならない。


 部屋に着くと浩介はいつもしていないドア・チェーンをかける。


 カーテンを閉める時、隙間から駐車場を見る。


 完全な闇。ぽっかりと穴が開いた様に。何処までも何処までも深い穴が。


浩介はテレビを点け、ニュースにチャンネルを合わせた。


 ニュースの内容は政治家の話や芸能人の不倫の話等々。浩介はそれを歯噛みしながら眺めていた。


『違う! そんな下らない事は良いから! 俺が知りたいのは違うんだよ!』


 浩介は自分でも何を期待しているのか分からない。それが更に浩介を苛つかせた。


 近所で不審者が現れていると言うニュースが流れれば良いのか、何もニュースがないのだから安心すべきなのか。


 浩介は暫く部屋の中を歩き回る。そして自分がずっとテレビのリモコンを握り締めていた事に気が付いた。


 テレビを消してリモコンを置く。


 そのまま玄関まで行き、覗き穴から外の様子を伺う。


 向かいの壁が見えるだけで変わった様子はない。リビングに戻りもう一度テレビをつける。だが、もう中身は頭に入ってこない。


 浩介は必死に考えた。


 気にしすぎだ。俺が一体何した?


 マンションの外から眺めてただけだ。しかも遠くから。何かを見た訳じゃない!


 浩介はふと、あの集合住宅に警察が来ていた事を思い出した。


 あの集合住宅に住んでいる奴が、って事も考えらるんじゃないか。


 例えば指名手配犯とかが住んでいて、警官が来たのを俺が通報したと思っているとか。


 いや、それならさっさと逃げるだろうか。


 ……可能性は無くもないか。


 影に見えたのも、ただ黒っぽい服を着てただけじゃないのか?


 浩介は幾分落ち着くと、テレビをもう一度消した。明日は養成所もバイトも浩介は休み。


『少し調べてみるか』

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