ヒゲの黒騎士
田中大次郎、58歳。
薄ら禿げたバーコード頭のでっぷりとしたちょび髭の商社の社長である。彼は豊かな日本をスローガンに『田中商社』を一代で築き上げた人物。
この革張りのぜいたくな社長席に座るのも今日で最後だ。
妻には数年前に先立たれ、一人息子が実質的な経営を行っていた。それが名実ともに息子に譲渡されることなった。大次郎は名ばかりの会長職に身をひき、息子が代表取締役に就任する。これは本人が決めたことだ。
金もあれば人望もある。そのうえ見た目からは信じられないが健康診断では軽肥満いがいの問題点はない。息子という後継者もいて、会社も安泰。順風満帆の老後が待っている…はずだった。
「明日から何をしようか…」
大次郎は乾いていた。
勉強と仕事に人生を捧げた彼はこれといった趣味もなく仕事を辞めたあとにすることがなかった。この年になって酒や女というのも悪くないが大次郎の好みではない。ゴルフや乗馬などの嗜みもたたき上げの大次郎には似合わないだろうと自嘲した。だが心のどこかに青春を燃やしてみたいという情熱、いや渇望があった。
高そうな彫刻がある木の扉がノックされた。
「入れ」
そこには大次郎の跡をついで新社長となる息子の大悟がいた。勉強ばかりさせたせいでお坊ちゃんという印象を受けるが、会社でそれなりに鍛えたこともあり現在はたくましい精神になった。もっとも身体はまだ細いのだが…
「父さん、今夜一緒に食事でもどうかな。会長就任祝いでもと思って」
「麗子さんは?」
麗子というのは大悟の婚約者である。勉強漬けの大悟と正反対で、海外を一人旅してきたタフな女性であり見目麗しい美人。いまだに大悟の何が良かったのか聞きたくなるほど不釣り合いな女性だ。
「麗子も会長就任祝いにご一緒させてほしいって言ってた」
「ふむ、それよりも新社長就任パーティーはやらんのか。引退する儂よりそっちのほうを優先しなさい」
「いまどきそんなパーティーで社員を拘束するより、簡単なあいさつで済ませてさっさと帰してあげたほうがいいよ。そもそも休日だしね」
「なっ…仕事させなくて大丈夫なのか!?」
資源の乏しい日本では労働することで経済を発展・維持させてきている側面が強い。資源豊富な列強欧米諸国と同じ方針で、なんてことをすると緩やかに衰退してしまう。そんな発想がある大次郎は一抹の不安を覚えた。
だが口は出すまい。現に実質経営を息子に渡してからというもの経常利益はうなぎのぼりなのだから。これもまた大次郎の乾きを増している原因でもあった。
「大丈夫だよ父さん、今月も前年比20%増だから心配しないで」
「そっそうか…ならいいんだ。それよりも今夜は行きつけのバーで昔馴染みと呑ませてくれないか。麗子さんと2人で楽しんできなさい」
「それなら邪魔しちゃ悪いね。それじゃあ、あまり呑みすぎないでよ父さん」
「お前こそな」
「わかってるよ、それじゃあまた」
「ああ、またな」
二人はふふっと笑うと息子は社長室をあとにした。
行きつけのバーは老朽化で取り壊された。マスターもそれと共に引退した。水にこだわっていたあのブランデーは消えた。昔馴染みも仕事に追われてたり、病気で早死にしたりともう集まることはないだろう。
大次郎は椅子から立ちあがり、社長室から眺める風景に郷愁の念を抱いた。
幼い頃、山奥で毎日山遊びをしていたのを思い出した。ただ川で泳いだり、友達と駆けまわったり、時にはウサギを捕まえたりもした。なんでもないようなことが幸せだった。
老いた母もだいぶ前に天に召され、田舎は公共事業でダムの底に沈んでいる。
(屋上にあがったら遠くに山くらいは見えるのではないだろうか)
大次郎は一度も昇ったことのない屋上へと向かった。最上階から屋上にあがるためには階段を登らねばならぬのだが、肥えはじめてた大次郎にはひとしごとだった。
「はっはっはっ」
額に脂汗をにじませながら屋上の扉を開いた。颯爽とした風が大次郎のバーコードを散らせてしまう。落ち武者になってしまった大次郎はそれも気にせずに柵まで歩いた。
「ああっなんで今まで気づかなかったんだろう。こんなにいい景色があることに」
灰色の町の遠くに微かだが緑の山々が望めた。大次郎はもっと高いところに上がれば、もっと良く見えるのではないだろうかと考えた。ちらりと周りのビルの高さを確認した。いくつか候補があがったが、とりあえずすぐ真後ろにある階段の続く建物によじ登ることにした。
野山で駆け回ってたことを数十年忘れた重い重い身体でステンレスの梯子を登り切った。
「なんだこれは?」
そこには『自動ドア(高速)』と書かれた『透明のガラス戸』が中空にたっていた。
大次郎も場に相応しくないそれに度胆を抜かれたが、近づいたら開くのかという興味が湧いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ちゃらららららーん、ちゃららららー♪
「いらっしゃいませ『雑貨屋ひまじん』へようこそ」
薄暗いホームセンターのような屋内でスウェット姿の男がそう言った。
「なんだここは、私のビルの屋上ではないのかここは」
「ここはお客様の要望にあわせて様々な物やサービスを提供する雑貨屋です。どのような商品をお求めでしょうか」
狐につままれたような気分になった大次郎は一抹の期待をして店主らしき男へ要望を伝えた。駄目で元々である。
「それは、刺激が欲しい、と受け取ってかまわないでしょうか?」
「そうだ。できれば少年時代に感じれるようなものがいい」
「お客様はネットゲームをおやりに…」
大次郎は手を振りそれはいらんという身振りで言葉をさえぎった。
「そういうのは儂は好かん。なんというか―」
そこからの話が長かったので、店主は近くに併設されているバーカウンターへ案内した。残念ながら料理ができないのでインスタントコーヒーを出すことにした。
「なんだ店構えだけ立派で出て来るのはインスタントコーヒーか」
「まだスタッフもおらず、私も料理ができないもので申し訳ないです」
湯気のたつコーヒーを大次郎は冷ましながらずずっと啜った。ただのコーヒーのはずが美味しかった。日常ではない空間で飲むことで錯覚しているだけなのだろうか?
「ただのインスタントですが美味しいでしょう。かなり特別な水を使っていますので」
「待て。これは特別な水というだけでは納得できる代物ではないぞ」
「この味をわかるとは中々舌が肥えてらっしゃいますね」
「これはどこの水だ。今まで飲んだものでも最高峰を超えている。体が喜んでいるぞ」
「そちらは、お客様が先ほどお断りになられたネットゲームのような世界から輸入しました。精霊の加護がある水です」
大次郎は混乱した。ゲームの画面から水が湧き出るわけでもないし、この若者の説明がいっさい理解できなかった。
「これが貴様の言う刺激のある商品なのか」
確かに久々に感動したが、やはりこの程度かとも落胆した。この水を使って久しぶりにブランデーの水割りでも作ろうか、それとも豆を挽いたコーヒーを淹れるのも悪くないと考えた。
「いえ、違います。このような数百円しか稼げないような商品はうちではサービスなので。できれば先ほどのお話を具体的にお聞かせください。相応しい商品をご用意したいと思いますので」
店主はあまりの話の長さに途中でうんざりし始めていた。自分の分のコーヒーも淹れ、そのうえ煙草にまで火をつけてしまった。そして話し方も本来の粗雑な喋り方になる。その雰囲気のかわりように自覚はあったが、これが俺のやり方だと本人があきらめてしまった。
「んで、子供のような冒険心をくすぐる青春をもう一度したいと。もう少しで還暦だけどはっちゃけたい…で合ってるますか?」
「そ、そうだ。悪いか」
すると店主はおもむろにランスロットを案内した武具コーナーへと歩いていった。大次郎はそのまま倉庫を見渡しながら店主を待つ。
数分すると大量の荷物を乱雑に抱えた店主が戻ってきて、それらをコンクリートの床に適当に落とした。倉庫内に金属がぶつかる音が反響する。
目が点になってる大次郎に店主はぶっきらぼうに命令した。
「ほら、そっちのパソコンあるほうの椅子に座ってくれ。俺はまだ準備あるから」
そう言うと店主はマウスを動かし何度かクリックするとパソコン画面に画面が表示された。
「まさかパソコン使えないとかはないですよね」
「だ、大丈夫だ。これでも初心者講習は受けている」
「はー、まあそのマウスクリックしていけば画面進むから勝手に見てて」
すると店主はまたも倉庫の奥へと消えていった。
カチッ
【はじめての異世界講座】というタイトルが真っ白い画面に表示されていた。
カチッ
【はじめに】あなたはこれから地球の日本を離れて旅をします。そこは数えきれないほどある世界の中からあなたに適合する異世界になります。一番はじめに選べる職業は、冒険者のみです。
カチッ
【準備をしましょう】武具を準備して装備しましょう。武具は装備をしないと効果を発揮しません。それから言語翻訳ソフトをインストールするので画面をよく見ていてください。
カチッ
その瞬間、閃光にも似た様々な色彩が大次郎の網膜に焼きつく。唐突のことに驚きとわずかな眩暈を覚えたが興味津々になってしまった大次郎はクリックを続けた。
カチッ
インストール成功です。
カチッ
【準備ができたら】ナビゲーターの指示にそって実際に冒険してみましょう。
カチッ
【広告】初心者無料パック(一週間コース)
初級セット(冒険装備一式、金貨100枚、スキル有、帰還1回)
中級セット(玄人装備一式、金貨300枚、ユニークスキル、帰還3回)
上級セット(英雄装備一式、金貨500枚、チートスキル、帰還5回)
中級・上級セットには『鑑定』『収納』スキルサービスします。
「なんじゃいったいこれは。仮装でもして遊べというのか儂に」
「あーダイジロウさん?終わったならこれ着てください」
そこには西洋の騎士が着るような金属の胸当てや籠手などが乱雑に置かれている。やはりエンターテイメント施設なのだなと思い、あきれて帰ろうと思った。だが帰ってもやることはない。会社は息子に継がせ、家にはもう妻はいない。すこしだけ遊びに興じるのも悪くはない。
「これでどうじゃ」
「おーなかなか騎士っぽい」
スーツの上から装備をつけていった大次郎は髭もあいまって歴戦の老騎士となっていた。武器はちょっと洒落てるロングソードと念のため小さいハンマー。それと盾も用意してあげた。
「これは軽いがアルミか?良くできてるな」
「ここの二階で手作りしてるんですよそれ。材料はミスリルっていう軽い材質を使ってます」
「最近の科学技術はすごいな」
「俺もそう思います。それとこれ金貨10枚はいってる麻袋とポーション10本セット」
「最近のゲームとやらは凝り過ぎだ。この金貨も本物みたいに重いし、そっちの栄養剤も入れ物がおもしろい」
店主は忘れ物がないかと考えていた。今回は無料の初級セットだからお会計はいらない、社長だから初級セット(一億円)も買ってくれそう、一週間というのは黙っておこう。そこまで考えて思い至った。
「ダイジロウさんは『青春のような』じゃなくて出来れば『青春そのもの』を希望してるんですよね」
「ああそうだ。なんか儂もだんだん楽しみになってきてるぞ」
「ならば…青春を!」
カッと目を見開き煙草に火をつけると急いで奥にアレをとりにいき大次郎に押しつけた。
「それを飲んでくれ。元気満点栄養ドリンクだ」
「これで活力をつけて遊べということだな」
ゴクリと一気に飲み干すと喉がやけそうな熱さをもち、体がほてりはじめてきた。まるで二十歳ごろのような活気に満ち溢れてくる大次郎。
「はっはっはっこれは効き目抜群だな!」
「それじゃー行きましょうか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ちゃらららららーん、ちゃららららー♪
「この自動ドアのことをすっかり忘れていたな。ここは?」
「異世界アルスフェルド。剣と魔法の世界だ。とりあえず冒険者カードを登録しないとな」
西洋のどこかに似せて造ったにしては規模が大きすぎるし細部にまでこだわっていると感心していた。道も石畳がきっちり詰められており、年月が経ってゆがみまででている。しかもエキストラも実際に暮らしているような雰囲気の演技。
大次郎は冒険者ギルドとよばれるところに入ってもそのクオリティーに感嘆としていた。
(これだから最近の若い連中はゲームゲームとうるさいわけだ)
「ダイジローで登録しいちゃいますね」
「ああ…そういうのは任せる」
「それとお金落とさないでくださいね。一週間帰れないので。それとあそこの女性に『パーティー』しませんかって話してください」
店主は大次郎の首に鎧と同じ材質の板をかけてあげた。
(なるほど。冒険者ごっこか。あちらの女性…子供ではないか)
「あの女性というか子供か?エキストラなのか、それとも参加者みたいなものか?」
「こっちでは15歳で成人なので大人扱いでお願いします。それとエキストラではないのでそれなりに対応してくださいね。では…一週間後に迎えにきますので」
ちゃらららららーん、ちゃららららー♪
「あっ、待ってくれ。もう行ってしまうのか?」
すでに店主の姿はなく大次郎は呆気にとられていた。本当に一週間も顔を出さないつもりなのだろうか、もしかしてこの施設は宿泊所もあり、この金貨で泊まり、それすらも楽しめということか。大次郎は納得した、これが店主のサービス商品かと。
「御嬢さん。よろしければパーティーなどいかがでしょうか?」
大次郎は役者になりきってそれらしく丁寧に彼女をさそった。ふわっふわの金髪で愛くるしい背の小さい彼女はきょとんとしている。
(やりすぎたか?まあいい)
しだいに彼女は顔を紅潮させていき、モジモジしはじめたことに首をひねりそうになった。
「あっあのっ私なんかでいいのですか?私回復魔法しか使えなくてっ…あの凄腕の騎士様の足手まといになっちゃいそうで…」
「ん、俺もさっき冒険者になったばかりさ」
(俺など何十年ぶりに使ったやら)
「で、で、でもそのミスリル装備はAクラスの冒険者様とお見受けします。私なんて最低のJクラスなんですぅ」
少女は胸元からさきほどと同じ板をとりだして大次郎に見せた。ならと同じように大次郎もその板を彼女に初心者の証明として提示しようとした時だった。
板には10代後半のときの精悍でりりしい時代の大次郎の写真が載っていた。ただひとつ違うのは『ヒゲ』があることぐらいだ。
ハッと自分の顔に手をあてて、ガラスのあいまいな反射ごしに自分の姿を確認した。それはまぎれもない若い自分であった。
「本当にJクラスなんですね。嬉しすぎてクラクラしますぅ」
「なにが嬉しいのだ」
その彼女から送られる熱い視線からだいたいの予測がついた大次郎は心の中で呟いた。
(やってくれるな店主)
こうして大次郎は彼女と旅を始めることとなった。それから数日後、美しいハーフエルフの魔法使いと小人族のシーフを仲間にし楽しく熱く危険に満ちた胸躍る一週間を過ごした。
ちゃらららららーん、ちゃららららー♪
煙草をふかしながら店主が迎えに来てしまった。どうやらお別れの時間くらいはあるようだ。たった一週間、されど一週間。仲間たちと潜り抜けた戦いやたわいもなく話した夜が思い出される。
「どうしても、どうしても行ってしまわれるのですか?」
「…許されるのなら戻ってくる」
大次郎ははじめに出会った少女にそう伝えると、男泣きした。その太ももを無言でぱんぱんと叩く小人族。ハーフエルフは加護がありますようにとまじないをかけてくれた。
少女が声を殺して泣いた。安いセリフだが胸が痛くて張り裂けそうだった。
「あ!」
「ダイジロー、あの悪魔から逃げる算段でも思いついたか」
「罠にはめて亡きものにしようか?」
「ちがう、ちがうんだ!!聞いてくれすぐに帰ってくる」
「ほ、本当でしょうかダイジロー様」
みんなの手をとりすぐに戻ってくると誓った。だから、泣かないでくれ。証拠に冒険者カードを置いていく、すぐに取りに来るから絶対になくさないでくれ。そう残して大次郎は自動ドアをくぐりぬけた。
「店主!!」
「一応、ひまじんという名前がある」
「ひまじん殿!価格と商品の説明をしてくれ!なんとかセットが!!」
嫌らしくにちゃあと笑うと煙草に火をつけて店主はぼったくりの値段を提示した。
「初級セット1億円、中級セット10億円、上級セット50億円」
「よし、いますぐ持ってくるから自動ドアを開けてまっておれ」
すると、ちょうど一週間すぎた大次郎の容姿がもとのかっぷくのいい姿に戻ってしまった。だが筋肉がついたのか以前より軽やかに動いている。
「次の日・祝までお休みですよってすでにいないし」
店主はいつもの定点に戻りネットゲームの世界へと帰って行った。傍らには山になった灰皿と飲み残しのコーヒーのカップが転がっている。
【ひまじん:こん】
【x俺最強x:こん】
【ショクキング:おひさ】
【x俺最強x:ショクキングさんお久】
【ひまじん:レアキャラきた。珍しいね日曜にいるなんて】
【ショクキング:そっちこそ日曜は営業日じゃなかった?】
【ひまじん:たぶん売れたから閉店した】
【x俺最強x:今日も金貨?】
【ひまじん:今回は珍しく「円」で売れた】
【ショクキング:相変わらず謎】
そうして今日もいつもと変わらずネットゲーム三昧をする『雑貨屋ひまじん』の店主であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2週間後、息子に譲り渡すもの以外は全て売り払い9億円ちょっとの現金を数回にわけてトランクケースで運んできた『タダの大次郎』がいた。会長職も放棄し、旅に出ると言ってきたらしいが、入口は会社の屋上だったはずと店主は苦笑いをした。
そして10億円には届かなかったが色々と条件をつけて『中級セット』をお買い上げになられた。そして今このときより『冒険者ダイジロー』が誕生した。
「金足りなかったくせに装備に色つけろとか…」
「条件を飲んだのだ。しっかりしてもらわねば命を落として約束が守れないではないか」
「へいへい」
そこには多重に魔法が施された漆黒の鎧に纏う大次郎がいた。その腰には魔法の加護により盾を必要としない日本刀が二本帯刀していた。ランスロットに渡したものよりは劣るのだが、それなりに値は張る。
「んじゃあ、杖と弓と罠回避の腕輪ね。ったく本当に生きて帰ってきてくれよ。ほらこれで完璧」
自動ドアがすっとそこにたたずんでいた。
「まだだアレがない」
「なんかぼったくられてるのこっちじゃないか?」
頭をこれ以上ないってくらいに掻き毟ると『アレ』を嫌そうな顔で大次郎に投げてやった。大次郎はうまいぐあいに受け取りグイッと一本飲みつくした。
それは『永久持続する若返り薬』だった。前回よりも喉に熱さを感じるらしく喉をかきむしり、目を白黒させている。すると若い頃の大次郎がそこにはいた。
「それでは、ひまじん殿いってくる」
「あいあい、いってらっしゃいませ~」
ちゃらららららーん、ちゃららららー♪
自動ドアの前には3人が待ってましたとばかりに待機していた。
みんなに抱き着かれて転倒する大次郎…ダイジローの影が夕暮れの草原に伸びていた。
伝説のパーティーの『ヒゲの黒騎士』の生誕話はこれにて閉幕。