砂
今はもう見かけなくなったが、その昔、砂かけ婆という妖怪がいた。
夜、山道を一人歩いていると、突然砂をかけてきて驚かす妖怪である。
江戸の時代、ある所に権助という若者がいた。権助は山を一つ越えた所にある隣村まで出掛け、帰る頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
「うー、すっかり遅くなっちまったなぁ。」
提灯の灯りを頼りに、権助は山道を急いだ。と…、
パラパラと何かが権助の頭に降ってきた。「何だ?」と手で払うと、それは砂だった。
「はて?」と思っていると、暗闇の中から突然砂かけ婆が現れ、砂を投げてきたのだった。
「うわ、ぺっ、口に砂が!!何しやがんだ!!このババア!!」
権助は片手で砂を防ぎながら、落ちていた木の棒を拾うと砂かけ婆の頭めがけ、思い切り降り下ろした。
「ぎゃっ」
という悲鳴とともに頭を抱えてうずくまる砂かけ婆。しかしそこは砂かけ婆、妖怪なので人間より丈夫に出来ているらしい。だが痛かった。
権助は砂かけ婆に言った。
「どこの婆さんだか知らねぇが、くだらねぇ事してねぇでさっさと帰って寝ろ!!」
権助は棒を投げ捨てて行ってしまった。
だいぶ頭の痛みは引いていた。自分の手のひらを見てみる。手のひらからジワっと砂が出てきた。
砂かけ婆は考える。
「何故自分は妖怪で、何故こんな事をしているのだろう?」
しかしいくら考えた所で答えはわからなかったし、そこで考えるのをやめる。気付けば妖怪で、当たり前の様に人間に砂をかけてきた。そしてそれはこれからもずっと続くのだろう…。
砂かけ婆の頬を一粒の涙がつたい落ちて、地面の砂へと吸収されていった…。
時は流れ、
平成27年もそろそろ終わろうとしている。東京のとある駅から徒歩5分程の所にその店はある。
『スナック 砂かけ』