儚く消えた想い
「すべてのキミに捧げる」
キミは、消えていった。
いつものような笑顔を私たちにふりまいて、
風のように軽くなった体を空へと投げ出して……。
ううん、いつものような笑顔じゃなかったね。
いつもどおりの明るいキミを演じようとしていたけれども、
キミの心は泣いていたんだね。
それが分かったから、
それに気付いてしまったから……。
私の心も、すごく痛んだ。
キミは私に、私たちに、この大日本帝国に、
多くの希望と幸せをくれた。
そして、終わることのない「平和」をくれた。
「また、笑いながら学校へ行きたいね」
そんな私のほのかな希望も、
叶えてくれたね。
キミがそばに居たから、
どんなときでも前を向いて歩いていけたんだよ。
……でもね。
キミがいたから、前に進むのが怖くなることもあったんだ。
戦争がはじまれば、敵国を倒せば、
平和は訪れるのかもしれない。
けれどもそれと引き換えに、
多くの命を亡くすことを意味していた。
死んでしまったら……。
キミにも、ママにも……会えなくなってしまう。
「今」を生きるすべてのものに、会えなくなってしまうこと。
時にはすごく、怖くなった。
「みんな」のことが、私は大好きだから。
だから、決心が鈍りそうになってしまったこともあった。
「お国のために」と、戦う決意が鈍りそうだったの。
キミと一緒に、キミの街も見てみたかったよ。
キミは私を死なせないようにと、一生懸命だった。
戦いを終わらせるために……って、いつも考えてくれていたね。
すごく、嬉しかったよ。
それなのに私は……。
キミが消えてしまうなんてこと、知らなかった。
想像もしていなかった。
キミが消えてしまうこの瞬間まで。
何ひとつとして、考えてあげられなかった。
キミがどうしたら消えずにすむのか。
考えてもいなかったんだよ。
キミはどれだけ辛かったんだろう。
どれだけの想いを、ひとりで背負ってきたんだろう。
「特攻隊員」は、「片道切符」しか持っていなくて。
キミは……日本国の、夢? 希望?
敵国を倒して全てが終わり、
日本国を包んでいた悲しみの死の螺旋は消えたと思った。
本当の笑顔を見せ合いながら、また、みんなと暮らせるって思っていた。
それなのに……その未来に、キミはいない?
私は足元から崩れ落ちた。
消えてしまったキミの背中が、頭から離れない。
抱きしめようとした手が空を切り、
「万歳」と告げたキミの腕、キミの横顔。
忘れられない。
体中が震えていた。
私は、どうしても守りたかったものを失ってしまった。
本当に、消えてしまったの?
私はまだ、言えていないのに……。
あなたに一番伝えたかった気持ちを、伝えてないのに。
……涙が、止まらないよ。
風が吹いた。
海からの潮風を運んで、優しく私たちを包み込んだ。
そこには今では懐かしい、キミの匂いがあった。
ある日、となり街からやってきたキミ。
同い年のキミ。
キミはまだ、この海のどこかにいるのかもしれない。
そんな想いが私の中に宿る。
「ねぇ……聞こえる?」
お願い、届けて。
私の声。
お願い、届けて。
私の想い。
会いに来て、私を見つけて。
また、一緒に……歩きたいよ。
切なる想いを込めて奏でようとした、私のハーモニカ。
空気を振動させることなく、
虚しく風と同化していった……。
しばらくそのまま立ち上がることもできなかったけれども、
私はようやく、道を見つけた。
あきらめない。
この「ハーモニカ」がきっと、キミと私を繋いでくれる。
『このハーモニカを、わたしだと思ってください!』
そう信じて、生きるしかない。
となり街から来たキミ。
キミはずっと、平和を願っていたね。
きっとどこかの海にいるはず。
待っているから、キミのこと。
キミが得意なハーモニカの、練習をしながら。
キミの背中を追いかけて……。
こんにちは、はじめまして。小田虹里です。
終戦記念日に、何かしらの作品を残そうとは思っておりました。
ですが、いざ……迎えてみますと、こんなものでは現せられない。
もっともっと、辛い、綺麗ごとでは済まされないものが、ひしめきあっている。
そう、感じました。
投稿を、やめようかとも思いました。
ですが、せっかく書いたのだし……と、投稿することに致しました。
戦争はやはり、あってはならないと強く感じました。
どうかこれからも、平和憲法が守られ受け継がれていきますように。