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座敷童のいち子  作者: 有知春秋
【中部編•想いふ勇者の義】
96/105

11

 白のオロチの沈黙から時計の短針は半周し、海面に積もっていた雹はすっかり無くなっていた。

 穏やかな波と微風が運んでくる潮の香りは、先ほどまでの異様な天候など無かったように海岸を絶景にしている。

 いつ白のオロチが暴れ出すかはわからない。しかし、平泉の毛越寺から魔獣がいなくなるまでは、白のオロチを第三形態のままにしておかないとならない。それは毛越寺の魔獣を一掃した後には、白のオロチとの再戦を意味しているのだが。

 今は三つの問題があると虎千代は考えている。

 一つ目は、先にも述べた白のオロチとの再戦。

 二つ目は、橙のオロチが封印の外にいる理由とその危険性の有無。

 三つ目は、義に反した関東の八童と座敷童への責任追及。

 沈黙している白のオロチの頭頂部に虎千代はいる。幼児化してたぬきフードに戻っているため威厳は無くなっているが、まがまがしいオーラの中に毘沙門天を幻視させる雰囲気と警策(きょうさく)を手にしてウロウロしている姿は、悪い事をしていなくても胃をキュッとさせる怖さがある。何かやましい事があれば、胃をキュッとさせるどころではないだろう。

 吉法師と勝千代も幼児化して白のオロチの頭頂部にいる。坐禅の姿勢になって額から大量の汗を流している姿は、見るからに明らか、やましい事を抱えている、抱えすぎている節が見える動揺ぷりだ。

 警策を構える虎千代はまさにお寺の和尚様。やましい事を抱えすぎて雑念だらけの吉法師と勝千代に、現代では体罰と名を変えた精神修行をつけてあげている。

 虎千代は勝千代の左肩に警策の先を付けると、勝千代は首を右に曲げて左肩を差し出す。が、右斜め上から振り下ろされた警策は五分刈りの頭頂部に炸裂する。

「ぐっ!?」

 頭頂部への不意な暴力に声を出すと、間髪入れず、警策は左側頭部にパァンと炸裂。更に右側頭部、更に左肩、更に右肩、頭頂部頭頂部頭頂部と警策は光の速さで舞い踊る。

 声を漏らせばソレはもう雑念だと言わんばかりの暴力。もはや精神修行ですらない。ただの憂さ晴らしと言っても良い。しかし、やましい事がありすぎる二人は、ここを我慢すれば解放されると歯をくいしばって我慢する。

 そう、毛越寺の魔獣が一掃されたら精神修行と書いた憂さ晴らしは終わる。逃げようとは思わない。もし逃亡を計れば、長弓からの殺人的な矢が容赦なく飛んでくるのをわかっているからだ。

 そんな彼らを梓と白黒は砂浜から見ていた。

 沈黙を続ける白のオロチを監視するために、ぷかぷかと浮かぶ姿を眺められる砂浜にいるのだが。

 一時間ほど前に座敷童が見える佐渡島の人達がやって来て、バーベキューの用意をしている。串に刺さった肉や野菜、網の上を飾る海産物は食べ頃になり、座敷童三人が来るのを待っている。もちろん、バーベキューは吉法師と勝千代への嫌がらせではない。三人のために用意しているバーベキューは、やましい事がありすぎる二人のせいで、お預けという形で精神修行のオプションに加わっただけなのだ。

 白黒は三人を待っている人間達にため息を吐く。言葉が通じるなら言ってやりたい。三人は白のオロチを警戒して食事をしないのではなく遊んでいるだけなのだ、と。

 神使と人間は会話ができない。それでも心で通じ合うことはできるのだが、神使や座敷童の心の内をわかる人間なんてそうそういない。それこそ人生の大半を座敷童に捧げて来た井上文枝や巴四天王かよこが常駐している旅館【こよか】の女将さんぐらいだ。

 白黒はぴょんぴょんと梓の前に出ると、片羽根をバッと広げてバーベキューを差す。

「あら、食べたいの?」

『違う』

 と言っても通じるわけではなく、わかっていても『しかたないな』と言ってはぁとため息を吐いてしまう。

 白黒には、人間との会話方法にトサカを放電させてのモールス信号があるのだが、長点と短点の小難しい配列を理解している者にしか使えないため需要はほぼ無いに等しい。しかし今は、砂浜というのもあり、もっと簡単な会話方法はあるため、砂浜に嘴を刺して会話を始める。

 梓は、頭を左右前後に動かして砂浜に何やら書いている白黒を物珍しく見ていると、ソレが文字になっているのに気づく。

「【三人】【は】【遊んで】【いる】【だけ】【。】【先に】【食って】【いろ】【。】」

 コクと頷く白黒に、

「本当に遊んでいるの」

『そうだ。三人を待っていても、どのみち吉法師と勝千代は虎千代に食わせてもらえない』

 伝わるとは思っていないが、嘴を動かす。白黒は優秀だがお人好しではない。砂浜に文字を書くのはめんどくさく、待つ意味はないと教えてからも三人を待つというのなら、勝手にやってろ、自分は旅館に戻れば良いと思っている。

 すると、白黒の冷めた一面を知ってか知らずか、梓は佐渡島の人達に白黒の書いた文字を見せて「白黒もこう言ってますし、食事にしましょう」とあっさり言うと、佐渡島の人達も白黒が言うなら間違いないとあっさり納得を見せた。

 巴の神使という信頼と白黒自身の優秀さからの信用からの発言力。言うまでもないが、いくら井上文枝という家主(バック)がいても、しずかの場合はこうはあっさりとはいかない。

 梓は海に浮かぶ白のオロチ——精神修行中の三人——のいる方向へ向くと、肺に空気を貯めるように潮の香りを吸い込み、

「吉法師、先にバーベキュー食べているから、遊び終わったら来なさいよ」

 と、大声で呼びかける。

 もちろんそんな呼びかけは雑念しか生まない。

「この場に来て新たな誘惑ぞ!」

 パァン!

「虎千代、ひとまずっ!」

 パァン!

「お前らは飯抜きだ!」


 パァンパァンパァンパァンパァンパァンと勝千代と吉法師が警策で叩かれる音を聞きながら、梓と白黒と佐渡島の人達は食事を始めた。


 ***


 翔一行はお濃と梓がお世話になっていた旅館で待機することになり、今は昼食を待っていた。

 ひとまずと付けなければならないが、白のオロチとの闘いは終わったため、部屋にいる座敷童は幼児化している。

 壊れたラジコンを並べてorzになっている美菜。

 その横で申し訳なさそうな表情を作る狸の置物。

 頭にコブを作ったお濃は一升瓶を片手に美菜をお風呂に誘っている。

 翔はオロチの鱗が融合されている朱槍を握って気絶してから、まだ目は覚めず、今は布団の中で寝ている。

 世話役が朝から今の今まで寝ている状態なため、いち子の御機嫌がいささか心配になるが、いち子は理子と達也と一緒にラジコンの修理に勤しんでいる。しかし、美菜が落ち込み続けている事からわかるとおり、修理は進んでいない。

「いち子ちゃん、私の建築技術を屈指しても直せる気はしないのだけど?」

「うむ、ワタキの積み木技術を屈指しても直せないようじゃ」

「僕のプラモ技術なら直せるよ」

「そうは言っても、ラジコンを見ながら携帯をいじっているだけで、何もしていないじゃない」

「いやいや、今は直せないから、同じ物があるか調べていたんだよ」

 携帯情報端末を理子といち子に向ける。画面には大和型の図面。

「戦艦大和の図面?」

「破損したパーツの代わりに、最初は同じのが売ってるか調べていたんだけど、美菜のラジコンはほぼオリジナル品なんだよね」

「ほぼオリジナル品って市販のを改造しているとか?」

「少し違うかな。砲台の中身やモーターは市販のを使って、船体は図面を元に加工しやすい金属でパーツ一つ一つを作っているんだよ。さすがに全てを図面どおりにはしてないけどね。ほら、ここを見て……」

 船首側の看板と船尾側の船底に穴が空いた戦艦大和を理子といち子に向けると、船首側の看板に空いた穴の中を見せる。

「なんで玉切れしないか疑問だったんだけど、前の看板の下にはエアガンで言うところの弾倉があったんだよ。でも、これだと重心が前になっちゃうから……」

 船尾側の船底に空いた穴を見せると、

「プロペラを動かしているモーターの重さに合わせて弾倉を作っている、と普通なら考えるんだけど、それだと玉を排出した時に重心は後ろに傾いちゃう」

「そうね」

「まぁ、ラジコンだからさ、大まかな浮力の計算は必要だけど、重心をなんだかんだ言って理詰めにする必要はないんだけどね。たぶん五キロか七キロぐらいあると思うし、グラム単位しかない弾倉と玉の重さじゃ、この船の浮力に何か影響があるとは思えない」

「…………」

 先の説明はなんだったんだ? とイラッとする理子。

「とりあえず、破損箇所をパーツごとに割り出してから、材料と道具を揃えて、作り直さないとならない。今はその割り出しだよ」

「うむ。そうじゃな。達也の言うとおりじゃ」

「そうね。私といち子ちゃんも破損箇所の割り出しをしましょ」

「何してんだ?」

 三人の耳に届いた声音には寝起きの気だるさが混じっていた。

 翔は上半身を起こすと、あくびを一つして、壊れたラジコンが部屋に溢れている現状を寝起きの頭で考える。倦怠感が残る頭では聞くのが早いと思い、

「美菜のラジコンだな。どうしたんだ?」

「三郎に壊されたんだ」

「……三郎に? …………うおっ、三郎!?」

 落ち込む美菜の横にいる狸の置物を見て、驚く。

「翔、あんたも破損箇所の割り出しを手伝いなさい」

「破損箇所の割り出し?」

「壊れた戦艦を直すのよ」

「そんなもん人間側のラジコンに戻せば直るだろ」

「「「はっ?」」」

「いや、はっ? じゃなくて。コレは美菜が持っていた方のラジコンだろ。気持ちが形になっているだけなんだから、現物という気持ちの元があれば問題ない」

「そうなの?」

「いち子が壊したオモチャはそうやって直している。松田家秘伝でスライムにしちまったら、たぶん気持ちの上塗り作用かなんかが働いて、現物とプレゼントした人間の気持ちが必要になるけど、壊れただけなら現物に戻したら元に戻る」

「うむ。翔の言うとおりじゃ」

「あっ、井上さんには松田家秘伝を秘密にするために、座敷童から気持ちを奪うってニュアンスで言ってあるから、現物とプレゼントした人間の気持ちがあれば元に戻るってのは秘密な。まぁ、プレゼントした人間が亡くなっていたら同じことだから言い訳はあるんだけど、念のため秘密ということで」

「うむ。家宝として受け継いでいればギリギリ可能じゃ。抜かりはないか?」

「いち子、井上さんなら言いそうな事だからちゃんと言い訳を用意している。プレゼントした物の価値が一一〇万円以上なら贈与税がかかるし、プレゼントした人間以上の気持ちが必要ってな」

「うむ。完璧じゃ」

「「…………」」

 いち子の遊びに付き合わされていたのか、とここで気づいた理子と達也だった。ソレはそのまま、座敷童と生活した事がない自分達が知らなかっただけで、人間からプレゼントを貰ったことのある座敷童はもちろん知っている方法だったと。ということは——

「美菜、現物はあるんだろ?」

「ある。今の家主に貰ったからスライムにしても大丈夫」

 今までの落ち込みはブラフ。お濃も「もう終わりかよ」と言う始末。

「なら大丈夫だな」

「美菜、飯の前に風呂かよ」

「もうちょっと三郎をからかって遊んでいたかったけど、そうだね。お風呂に行こうか」

「…………」

 狸の置物は哀愁を漂わせる。

 三郎は人間と生活した事がなく、家主を持った事がない。プレゼントではなくお供え物としてオモチャは貰ったことあるが、壊さずに大切に大切に胸にしまってある。座敷童の世界で孤立し、物持ちが良すぎる三郎ならではの無知だった。

 理子と達也が三郎に同情している横で、翔は、三郎がいることに嬉しくなった。もちろん昔会った時みたいに今回も喋ってくれないだろうと思っている。でも、三郎は自分達の前にいる。哀愁を漂わせてはいるが、元気だ。翔は三郎の家が火事になっていたのを知ってから動揺していた気持ちが安堵に変わった。

「三郎がいるってことは、白のオロチは倒したん……だよな……って、おい、お濃、ちょっと待て」

 一升瓶を片手に美菜と部屋を出て行こうとするお濃を止めると、「なにかよ?」という返答に、

「その一升瓶に入ってる、橙色の蛇はなんだ?」

 お濃の持っている一升瓶の中では、橙のオロチがいい湯だなと言わんばかりに浸かり、元は透明だった液体も心なしか薄っすらと橙色になっている。

「三郎自慢のダイダイ(ざけ)かよ」

「ダイダイ酒かよって……」

 品名を聞いているのではない、と言いたかったが、今は話を脱線させずに、白のオロチの行方を聞く。

「白のオロチはどの瓶に入っているんだ?」

 翔はテーブルにある一升瓶を見るが、封は切られていない。テーブルの回りに転がる一升瓶は空になり、開いた口から酒臭を漂わせている。片付けろよ、と言いたい気持ちを我慢していると、理子が返答してくる。

「白のオロチなら海岸で寝てるわよ。今は吉法師らが監視しているわ」

 翔の視線の先で散らかっている空瓶を見て、お濃が散らかしているのに気づかないぐらいラジコンの修理に没頭していた、と理子は今になって気づいた。立ち上がって空瓶の片付けを始める。

「そうか。でも、それだと、オロチを酒に漬けているってことは、橙のオロチは三郎に屈服しているってことになるよな。まゆつばな伝承だと思っていたけど……オロチは屈服するんだな」

「当たり前かよ」

 当然とばかりに言うお濃。その横で美菜は「当たり前なんだけど、当たり前とは簡単に言えないかな」と言ってから、

「八岐大蛇になってからは屈服……というか友達になったオロチはいないからね。いち子が屈服させようとしなかったから、いなかっただけかもしれない。それに……ダイダイは八岐大蛇になる前から三郎に懐いていたから、たぶん三郎だから、屈服させて友達の関係に戻れた、と私は思う」

「八岐大蛇になる前のオロチ、か。そういえば松田家の書庫にもあったな……ちゃんと読んでおけばよかった」

 自分の勉強不足をしみじみと感じながら、視線をお濃の持っている一升瓶に向けると、

「本当に飲めるのか?」

「いち子や三郎や美菜ぐらい気合いが入っていないと最高純度のオロチ酒は飲めないかよ。これぐらいの純度なら、私でも大丈夫かよ」

「酒呑童子みたいなもんか」

「翔、あんた本当に勉強不足」

 美菜はやれやれと左右に首を振ると、翔のいる布団に歩を進めながら、

「オロチ酒は人間が作った酒にオロチを浸けるからアルコール酒。酒呑童子にはアルコール成分は一切入っていないから『ノンアルコール酒』。どちらも、未熟な座敷童や人間が飲む場合は、その時の力量に合わせて飲まないと『記憶が無くなるほどに酔う』。絶対に、翔はいち子の許可なく、酒呑童子やオロチ酒に手を出さないこと!」

「んなもんわかっている。ガキの頃に遭難した時、ヒグマから逃げ回るために、ちょっとずついち子に飲ましてもらって命を繋いだからな。それ以来飲んでもいない」

「…………」

「文句でもありそうな顔だな? 今回、飲んでチートになろうとしていたのを怒ってんのか?」

「違う。それ以来飲んでもいない、て言えるのは『記憶がない』だけなんじゃないの? って言いたかっただけ」

 心の中を見るようにジッと翔の両眼を見つめる。

 翔はそんな美菜の両眼を「バカ言うなよ」と言って見つめ返し、

「今なら酒呑童子の一口や二口、ギリで四口はいける」

「四口ねぇ……二口で好きな女との大切な記憶をぶっ飛ばした甲斐性無しを私は知ってるけど」

「なんだよそれ。記憶が無くなるって言っても、せいぜい飲んだ前後の事だろ。その男は、どんだけ短い時間でその女を好きになってんだ。美菜が大切な記憶って言うぐらいだから、バカ男よりも、忘れられた女の方が可哀想だな」

「……そうだね、それをわかってあげられるなら、バカ翔は成長したってことだね。とりあえず、翔はいち子の許可なく酒呑童子とオロチ酒は飲まないように。まだまだ、お子ちゃまなんだから」

「ぐっ……ま、まぁ、とりあえず、オロチの問題が無くなったんなら、飲む気はない。……美菜も、酒盛りはまだするなよ」

「なんでかよ!?」

 美菜に言った言葉にお濃は声を挙げると、翔に飛びかかる。

「東北ではまだ魔獣と闘っているからだ」

「関係ないかよ!」

「お濃に関係なくても、東北座敷童の美菜や座敷童管理省の達也や梓さんには関係ある。それに、今回は三郎や虎千代や佐渡島の人達に迷惑をかけている。はっきり言って、酒盛りできる立場にないからな」

 お濃の持っている一升瓶を取り上げる。

 翔としても座敷童から物を取り上げるようなことはしたくない。しかし、理子が片付けている空の一升瓶の量が異常すぎる。一本二本三本と六本を数えたあたりで一〇本以上はあると目算し、

 ——昨晩からある空の一升瓶だとしても異常な数だ。

 ——それに、ここは旅館だろうし、お濃がいない間に旅館の仲居さんが部屋を片付けているはず。

 ——帰ってきてから飲んだ分だとしたらバカの極みだ。

「三郎、せっかくのダイダイ酒だけど、酒盛りは筋を通してからにする。ごめんな」

「…………」

 問題ない、と言ってそうに狸の置物はとぼけた表情になる。

「たぶんオッケーって感じだな。お濃、お前は禁酒だ」

「何を言ってるかよ!」

「禁酒だって言ってんだ。そもそも、お前は今回なにかしたのか?」

「!?」

「おまっ、マジかよ!? 俺が寝ている間に何かはしていると思っていたけど、マジで何もしてないのか! 酒盛りする理由も酒を飲む理由もないだろ。つか、何もしてないくせに高級酒ばかり飲みやがって、座敷童でもさすがに遠慮するレベルだぞ!」

「お前は本当に松田の子かよ!? 松田が一〇〇悪くても、梅田や竹田を一〇〇悪くして酒盛りするのが松田かよ! 理由なく酒を飲むのが松田かよ!」

「それはどこの松田さん()の話しだ。とりあえず今はダメなだけだ。今回の騒動が終わってから、ちゃんと三郎や虎千代や佐渡島の人達に筋を通してからだ。つか、佐渡島から追い出されないだけありがたいと思えよ」

「ぐっぐぐぐ……」


 これから三日間、毛越寺の魔獣が一掃されるまでの間、お濃は禁酒させられ、吉法師と勝千代は虎千代からの精神修行という名の憂さ晴らしに、それぞれ自分を見直すことになった。

 そして平泉の中尊寺と毛越寺では、一部の座敷童以外は東北座敷童の本領を発揮し、勇猛果敢だと証明するように魔獣を天に返していった。

 そんな騒動の終着が見えてきた頃——

『私は適材適所を弁えて指揮を離れ、茅野さんと高田さんに現場を任せただけです。これから二人にはできない一手を作るところですから』

 と言っていた井上杏奈は、携帯情報端末の画面に指をのせ、一手、その準備を始めた。

「この一手は必ず必要になる」



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