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岩手県、花巻市。
翔と達也が吉法師に諭されている頃、岩手県花巻市のわんこ蕎麦屋では、わんこ蕎麦を食べすぎて苦しむ小夜を加納がお姫様抱っこし、杏奈は清算台を前に店員さんへ代金を支払っていた。
「領収書は二枚に分けてください。こちらの宛名は井上杏奈、但し書は交際費でお願いします。こちらの宛名は座敷童管理省東北支署、但し書は同じ交際費でお願いします」
「井上さん。私達の分まで精算してもらってよかったのか?」
表情や言葉は希薄だが、彩乃なりに気をつかう。
「大丈夫です。あくまでも小夜さんの分は私のおごりですが、お二人の分は特務員の加納さんがいるため、接待扱いにできますので気にしないでください」
杏奈の手にある財布は女性が持つにはデザイン性がなく使い古されている。言葉を変えれば男らしい財布だ。加納の財布なのだが、小夜が健に対抗心を燃やして歩けなくなるぐらいわんこ蕎麦を食べたため、小夜をお姫様抱っこしている加納の代わりに杏奈が清算している。
加納は二人の会話の内容がふと気になり、
「参謀。座敷童が見える側との食事は接待になるのですね」
杏奈が自分にだけ経費の使い道が甘いと思ったからではなく、なんとなく聞いただけなのだが。
「接待中に交わした会話内容によります。座敷童の情報を含めた有意義な内容であり、意味ある接待だった場合は経費として認めます。基本的に『座敷童がいれば経費は使えます』が、たとえ有意義であっても、奈良県から北海道までの道中に、ミーティングと称して龍馬さんとキャバクラに行ったのは経費にしません」
「お、俺は、行ってませんよ」
「はい。梓さんとお店に確認取りました。豪遊した特務員には行脚の後に、オプションに剃髪を付けてお寺で修行してもらいます。今後、特務員には、接待で話した内容を報告書として提出すれば、内容から判断し、実用的で有意義な接待でしたらキャバクラでも経費として認めます。姿を大人に変えられるとわかっていても座敷童とキャバクラなんて許したくありませんが……。龍馬さんみたいな座敷童は他にいないと思いたいですね」
前半は経費を使う上での道理を、後半は龍馬に対して呆れを含ませる。黒縁眼鏡を右手中指で押し上げ、
「けして私個人にだけ経費の使い道を甘くしているわけではありません。特務員ではない私と小夜さんの分は自腹ですから」
「いや、そんな事を思ったのではなく、いまいち経費の範囲がわからなかったもので」
加納は自分の発言が杏奈に勘違いされたと思い、しどろもどろに言葉を並べる。
杏奈は清算を済まして店を後にすると、加納のボロ財布に領収書を入れてから返し、自分の領収書はポケットに入れる。
一同は、巴と八慶、美菜と美代を先頭に駐車場へ向かうと、周囲からの視線が集まる。
花巻市には座敷童が見える側の人間が多いという訳ではない。
体育会系の茅野健や寡黙な雰囲気がある高田彩乃や文系の井上杏奈がいれば、自然と視線は集まる。その中に、黒ドレスの美少女が厳ついオッサンにお姫様抱っこされていれば、野獣のオッサン何者なんだ? という感じで注目の的になってしまう。
杏奈は、周囲からの視線に居心地悪くしている加納を見上げると、
「キャバクラの領収書は交際費としては有りです。私としては社会人としての道徳があれば経費がおりない理由や経費の範囲はわかるものだと思っていますが」
「キャバクラは兎も角、サラリーマン時代の広告会社での経費の範囲ならわかります。大臣は『座敷童のためなら全て経費』と言ってましたから、経費の範囲が不透明になっていたのかもしれません。一応、広告会社や梅川のサーカス団で経費として使っていた分を経費として使わしてもらってましたが」
「広告会社やサーカス団の経費の範囲には、サーフボードやスキー板やスノーボード、国産の大型バイクや海外の高級バイクなども含まれていたのですか?」
「そ、それは会社勤めをしたことない達也が……」
「梅田さんだけでなく、梓さんと加納さん以外の特務員は似たような感じです」
あいつ等まで……と表情を引き攣らせる加納に、杏奈は更に告げる。
「座敷童が非実体の物を食べて、遊具も同じく使うとわかった今は、座敷童が欲しがる物という範囲にはなりますが、経費として認められます」
「東大寺から岩手県に青の鱗を持ってきたという実績があるので、達也のバイクも経費という事になりますか?」
「座敷童が欲しがる物という範囲としては、バイクに乗る座敷童に出会った事がないので今のところは認められません。ですが梅田さんの場合、梅田家の活動で全国の座敷童を見て回ります。正確には梅川家のサーカス団が見て回ってますが。……微妙なところですね」
「微妙とは?」
「今回の青の鱗に関してですが、座敷童が理由で人間に何かがあれば、座敷童は生涯背負うことになります。バイクではなく交通機関を利用して帰ってきた方が、座敷童の心を裏切らず、人間として安全に帰って来られました。なので、今回みたいな使用方法は認められません。ですが、梅田家の活動は座敷童管理省の活動にも繋がるので、公用車として自動車やバイクなどはギリギリ認められます」
「ギリギリですか」
「本音を言えば、座敷童管理省の基礎である座敷童保護の会がどうだったのか、梅川家のサーカス団の経費の範囲含めて梅田家当主にご教授いただきたいです。アーサーさんみたいに仕事場と称して松田さんの家の近くに別荘を買ったり、ジョンが神使になったからという理由で、アイルランドから実家で飼っているペットを輸送しようとしたりと。別荘は北海道支署にできますが、神使は色々と不明な点がありますからペットはさすがに……」
(俺達は一五歳の女の子に何を背負わしているんだ)
加納は自分達の仕事にどれだけ向き合っていなかったを杏奈の言葉から実感する。
アーサーのように座敷童と遊ぶのが仕事だと割り切れるなら、経費の範囲は考えなくてもいい。座敷童は実在して、座敷童管理省と称している以上は、座敷童が必要とするなら経費にできるのだから。しかし、実際には座敷童と遊ぶのは座敷童管理省の仕事ではない。
座敷童が居心地良くなる場を作るのが仕事なのだ。
加納達、座敷童保護の会から在籍している特務員が、梅田家当主に経費の範囲を学ぶべきだったのだ。
杏奈の撫肩に重荷を乗せても頼りある頭脳で解決するだろう。だが、それではダメなのだ。
加納の脳裏に流れたのは『加納もお仕事頑張らないとね』という美代の言葉だった。
(座敷童は気持ちがわかる。美代は俺の甘さを見抜いていたんだ。俺の、俺達の仕事は遊びの範囲から出ていないと。情けないな)
そして、一五歳の女の子に自分達の甘さから出る仕事を背負わしていると……、
「参謀……?」
自分に経費に関する仕事ができるかわからない。わからないが。
「どうかしました?」
「あの……」
自分の親が経営する広告会社で経営を学ぶ機会はたくさんあった。
しかし当時の加納は、広告会社が座敷童のためになるとは思わなく、座敷童保護の会の活動を優先し、終いには退職して座敷童管理省に入省した。
「経費の範囲ですが……」
「経費の範囲がどうかしました?」
「……いえ、なんでもありません」
加納は、自分に任せてくれ、とは言えなかった。
「そうですか。……?」
杏奈は考え込んでいる加納を見て訝しむ。
加納は杏奈の訝しむ視線にも気づかずに、内心で焦燥を吐く、
(親父に広告会社の経営だけでも学んでおけば良かった。そしたら自信を持って任せてくれと言えた。会社は兄貴が継ぐからと……いや、違うだろ!)
悔しさから浮かぶ言い訳をすぐに改める。
経営を学び広告会社に勤めながらでも、座敷童管理省の一員になれたのだ。目の前の女の子は、祖母の会社を任され、資格を得るための勉強し、座敷童管理省の仕事までやっているのだから。
(何をしてるんだ俺は……何をしてきたんだ俺は……)
自分の肩には何も乗っていない。自覚すると自分が情けなくなり、うつむき、ため息を吐く。
「加納」
「んっ?」
うつむく先で美代が呼んでいる。
「どうした?」
「任せて!」
美代はジッと加納を見上げながら右拳をビシッと向ける。
「?」
加納は、抱っこしてほしいという催促か? と悩むが、抱っこなら右拳ではなく両手を広げてくるだろうと思う。
美代は握った拳を上下に動かすと、
「自称東北最強グループ【大悪童】はロケットみたいなバイクに乗ってるよ」
「大悪童? ロケットみたいなバイク?」
加納は美代の脈絡ない言葉に疑問符を浮かべる。
しかし、加納と美代の間に脈絡がないだけで、美代の言葉は加納と杏奈の会話には脈絡がある。
杏奈はその言葉を聞き逃さず、
「美代ちゃん。座敷童は交通ルールを守っているの?」
「人間の交通ルールなら人間の暴走族以上に守ってないよ。でも、事故はないよ」
「事故がない? なんで?」
「ん〜〜〜〜……説明が難しい……」
「美代。見せれば早い」
美代の姉、美菜は懐に右手を入れると、迷彩色にペイントされた掌サイズのジープを出す。
「ミニカー?」
加納は懐かしむように見る。
「家主に貰ったラジコン」
地面に小さなジープを置くと、
「大きくなる。小さくなる」
言葉の順に掌サイズの小さなジープは大きくなり、大きくなったジープはラジコンサイズに小さくなる。
「人間にぶつかりそうになったら小さくすればいい。なんなら消してもいい」
ぱっとジープを消す。
「手品みたいだな。そういえば、懐に入れてる時ってどうなっているんだ?」
「家主がお姉ちゃんにあげたから、お姉ちゃんの物だよ」
「「???」」
美代の言葉に加納と杏奈は疑問符を浮かべる。
そんな二人を見かねた健は、チッチッチと舌を鳴らしながら二人の前に行くと、
「家主は座敷童にオモチャをプレゼントするだろ。それは人間側では実体としてある物だけど、座敷童側では非実体の気持ちとして存在する。ここで大事なのが、家主の気持ちの向き先になる。家主が個人の座敷童に向けてプレゼントしたなら、その気持ちはその座敷童のモノ。まぁこの辺は人間側でも当たり前の事だよな」
「決まった相手へ気持ちと物品をプレゼントする、誕生日プレゼントみたいな感じだな」
「加納さん、そんな感じ。そのプレゼントを座敷童が懐から取り出してるように見えるのは、人間でも座敷童でも気持ちは胸に届くモノだから、懐から出しているように見えるだけなんだ」
「人間は実体として現物がその場にある。座敷童は非実体の気持ちとして胸にあるって事かな?」
「正解。加納さんは飲み込み早いな。プレゼントなど、その気持ちが胸に届いているから、懐から出す仕草をするんだ。座敷童は今までに貰ったモノ、気持ちなら、言葉は変だが非実体化できる。俺は座敷童の懐を四次元ポケットやアイテムボックスみたいに解釈してる」
「なるほど。……しずかちゃんが懐から色々なモノを出すのを見てましたが、直垂に収納していると簡単に思ってました。新情報です。それに、小さくしたり消したりできる上に身体能力が高く、気持ちを大事にする座敷童ならバイクも危険はありませんね」
「そういうこと。井上さんの役に立ったかな?」
「……はい。……」
杏奈は健の視線から逃げるようにポケットから携帯情報端末を出すと、新情報を打ち込んでいく。ふと視線を感じて横を見ると、ムッとした表情を作った美代が見上げてきていた。
「?」
杏奈は疑問符を浮かべる。
新情報は、杏奈と加納が経費の範囲を話ていた後、美代の言葉から会話が広がり、座敷童の懐事情(?)という新情報を得られた。
座敷童から得た情報なのだ。
どうでもいい人間とは会話しないのが座敷童。
その座敷童が新情報を提供したのだ。
美代の頭を撫でてあげるのが人情だろう。
だが、加納の両腕は小夜で埋まっている。
しかし、美代がムッとした表情で杏奈を見ているのは頭を撫でて欲しいからではないし、ましてや褒めて欲しいからでもない。そして、姉の美菜が家主から貰った大事な宝物を見せたのも、妹の美代を褒めて欲しいからではない。
彩乃は、美代のムッとした表情に疑問符を浮かべた杏奈に対して呆れ気味にふぅと鼻から息を吹くと、
「井上さん。健の話を参考にしたなら、加納さんに言う事はないか?」
「加納さんに、ですか?」
黒縁眼鏡を右手中指で押し上げながら、きょとんとする加納を見上げると、
「なるほど。そういう事ですか」
杏奈は納得するように美代へ視線を移す。
彩乃はそんな杏奈に、
「組織の仕事に順番はあるが、人間のそんな事情は座敷童に関係ない。そして、加納さんは残念なほど鈍感だ」
「そうですね。とりあえず加納さん」
「鈍感ってなんですか?」
「美代ちゃんがバイクの話をしたのは、経費の範囲の会話を聞いていたからです。協調性のない私でも、美代ちゃんは加納さんのために言ったのだとわかりました。すぐわかりました」
胸につっかえたモノを吐き出すように言うと、口端を上げながらふふんと鼻を鳴らす。
「そうですか……あの、協調性がないように言ってたのは翔君で、いつの時代も箱入り娘は周りを見ないと言ったのは巴ですから、俺に対して根に持たれても困ります」
「別に加納さんが私だと勘違いした事を根に持っていた訳ではありません。私が協調性ないのを自覚しているように、加納さんも鈍感で不器用で筋肉なのを自覚してほしいだけです」
(根に持っている)
何故、根に持つ矛先は俺なんだ。と思いながら、
「鈍感なのはわかりませんが、不器用で筋肉なのは自覚してます」
「美代ちゃんは加納さんに経費の範囲を決める仕事をやってほしいみたいです。理由は、協調性がないのでわかりませんが」
「…………いや、経費の範囲をまとめろと言われても、一般サラリーマンぐらいの知識しかないので業務に支障が出ると思いますが?」
「不器用を自覚しているなら大丈夫です。鈍感なのは鈍感だから気づかないようなので、筋肉で補ってください」
「事務仕事をどうやって筋肉で補えばいいかわかりませんが?」
「私、手伝う。任せて!」
美代は右拳をビシッと加納に向ける。
「…………」
さっきの右拳はこういう意味だったのか、と美代の優しさに内心で感動する。しかし、横にいる杏奈に『今さら気づきました?』という風にふふんと鼻を鳴らされ『やはり鈍感です』と強調されるのは納得いかない。
(気づかなかったのは事実だが、あの時は色々考えていたから気づかなかっただけだ)
と内心で言い訳を並べていると、横でふふんと鼻を鳴らした杏奈が黒縁眼鏡を右手中指で押し上げ、これ見よがしに美代と視線を合わせる。
「美代ちゃん。私は座敷童管理省で勤めているのではなく、臨時のアドバイザー。特務員に業務を任せる場合はアーサーさんの許可が必要なの。けして美代ちゃんの気持ちを蔑ろにしたのではなく、加納さんみたいに気づかなかった訳ではないから、誤解しないように。それと、何かわからない事があれば、協調性はないけど、それなりに経理業務はできるから……」
「参謀」
「なんですか? 加納さんが美代ちゃんの足を引っ張る前に予防線を張っているのですが?」
「周囲の人達に、残念な人を見る目で見られています」
「…………!」
杏奈は周囲を見て、自分が好奇な視線を集めているのに気づくと、
「加納さん。鈍感、不器用、筋肉と言ったのを根に持っているからといって、こういう悪質な復讐をするのは大人としてどうかと思うんですけど。どうかと思うんですけど!」
「二回言われても……根に持っていないし、周囲の目は俺ではなく、参謀の不注意だと思いますが……?」
「もういいです。私は協調性がないので周囲にどんな風に見られても気になりません。もういいです」
(また二回言った。思い込みが激しいのかな。それに、いつもより口数が多い気が……あぁ、そうか、彩乃ちゃんや健君がいるからか)
杏奈から出ていた違和感に気づく。
彩乃や健と平泉まで同行する事になったのは杏奈が言い出したのが始まりになり、立場を言えば加納は運転手で杏奈はホストになる。
教科書やノートとしか向き合って来なかった協調性のない杏奈がホストなのだ。
彩乃と健に加納がどんな人間かを杏奈なりに二人へ伝えていたのかもしれない。
体育会系の健とは話が合うんじゃないかと思って筋肉を強調し、気難しい印象がある彩乃には加納は鈍感で不器用だからと。
そして協調性が無いと何度も言っていたのは、二人とは会話の間が持たない杏奈から加納に助けを求めていた可能性があり、それが伝わらないから鈍感と強調していたのかもしれない。
杏奈が膝を折って美代と会話したのも、美代が座敷童だというのをど忘れし、会話を広げるために対応しやすい方へと行った結果なのかもしれない。
そう考えると、杏奈は普段から人を寄せ付けない雰囲気があり、協調性皆無で言葉に棘のある女の子だが、年相応に可愛く見える。
「参謀は不器用ですね」
「不器用ではなく協調性がないだけです」
「そんな堂々と言う事じゃないですから」
「「…………」」
彩乃と健は二人の会話を聞いて視線を合わせる。
なんとなくだが、杏奈に違和感を感じていたのだ。
その違和感を感じたのは、健の言葉に返答するだけなのに携帯情報端末を出して自分の世界に入ろうとした時。
初対面の男子と気楽に会話ができるほど、杏奈の対話力は高くないとわかり、その点だけを見ると、松田翔は杏奈の中では例外に当たるのかもしれないと。
そんな杏奈だから、彩乃は自分達に気を使って美代の事をど忘れした杏奈に呆れて、相槌をうったのだ。
彩乃と健は、鈍感、不器用、筋肉というワードでだが、加納がどんな人間なのかを自分達なりに理解した。しかし、杏奈は井上文枝の孫であり今後も翔を通して付き合いがあるかもしれないため、自分達なりにとはいかない。
翔からは偏った情報しかなく、現在進行形で翔からの情報に役に立つモノはない。いや、二人が翔から得ている杏奈情報は間逆と言ってもいい。
杏奈の対話力を数字で出すなら、翔は杏奈の評価を『相対性理論を笑って語れるんじゃね?』とか適当に言って対話力を十段階中の十段に置くが、彩乃と健は休み時間を図書室で過ごす小学生ぐらいの二段に置く。
この差は、翔のなけなしの洞察力も杏奈に対しては根詰まりしたフィルターがかかっている状態だからなのだが。
役に立たない翔に嘆息を漏らしても仕方がないため、彩乃と健は正確な杏奈情報を得るために行動を起こす。もちろん、直接杏奈本人に。
健は加納を見上げている美代を肩車して、美代と加納の目線が合うようにする。
杏奈は無意識に健へ視線を向ける。
子供を利用したオーバーアクションから距離感を縮める方法は如何にもだが、そんな如何にもが自然と似合うのも健だ。好奇な視線を集めた後の人間に対して効果的なのは言うまでもないだろう。一般的には、と付けなければならないが。
「井上さん。まだ俺達と同じ年だよな?」
「はい。松田さんの同級生であるお二人と同じ一五歳です」
聞かれた事を答える。
業務的な感じは杏奈ならでは。加納と会話していた時の気楽な表情とは違い、言葉どおりの業務的な表情に変わる。
もし健が杏奈に思春期男子らしい好意を向けていたら肩透かしだが、健が杏奈に向ける好意は翔や彩乃に向ける好意と同じ。その距離感も慣れ慣れしいと思う女子はいるかもしれないが、杏奈は一般的な女子ではない。
自分の知識にあるデータで事象を判断する協調性皆無の教科書女、それが井上杏奈。
従って、健からは『誕生日いつ?」『血液型は?』などのナンパな言葉もなく、先ほどの会話を補足するのみ。
「加納さんが経費の仕事をやらなかったら井上さんがやってたんだろ? 翔から詳しい事は聞いてないけど、今の話を聞く限り、座敷童管理省は組織として活動しているみたいだし、大臣の参謀って色々と大変なんじゃないか」
健は会話を途切らせないように、返答できる会話を杏奈に振る。
「大変ではありません。お二人が学校で学ぶ時間や家に帰った後の予習復習の時間を、私は資格取得のための勉強時間にしています。それ以外の休み時間や必要なら寝る時間を座敷童管理省をお手伝いする時間にしていますので」
「必要なら寝る時間もって、十分に大変だと思うけど?」
「私が座敷童管理省のお手伝いをする条件の一つに、アーサーさんに家庭教師になってもらうというのがあります。アーサーさんは大臣に任命されるだけあってかなり優秀……いえ、異常に優秀です。お陰様で大学院や高レベルの国家資格の勉強が捗っています。私としては今までにない有意義で意味ある時間を持たせていただいてますので、大変な事はありません」
(それを大変だと思わないのが異常だな)
と思いつつ、
「遊んだりとかしないの?」
「先ほども言いましたが、座敷童管理省のお手伝いは休み時間や必要なら寝る時間を使っています」
「それは遊びではなく、仕事なんじゃないかな?」
「茅野さんの仕事が学校での勉強のように、私の仕事は資格の取得です。資格の取得に関わる時間以外は休憩もしくは遊びの時間になり、座敷童管理省のお手伝いは座敷童を知りたい私の趣味の時間になります」
「…………」
健は杏奈節に言葉を失う。
もちろん、杏奈は健の心情に気づかないため、杏奈は言葉を繋げる。
「その趣味の時間には、経費の管理や特務員の育成、吉法師さんという歴史や時代を超えた偉人との出会いなど、将来に役立つ実践からの知識と経験を得られます。趣味が将来の大きな糧にできる私は有意義な時間を毎日送っています」
(一人に慣れすぎて危うい所がある。翔やいち子が井上さんといるのは、こういうことだったのか。座敷童の世界にこのままいたら、人間の世界で不便するだろうな)
健は表情には出さないが、年頃の女子らしくない杏奈に将来は有望でも人間的な幸せは無いだろうと思ってしまう。座敷童の世界を知るからこそ、今のままでは危うい、と。
それは彩乃も同じく感じとり、これ以上の会話は情に熱い健では脱線するとわかり、二人の会話に割り込む。
「なるほど。座敷童管理省の仕事は座敷童を知りたいという井上さんの趣味に合致し、資格取得という仕事を大臣の経験から学べる。限りある時間に、趣味と仕事を有意義に両立できている。井上さん『的』には、と言わせてもらうがな」
杏奈に一般的ではない事を理解させるため『的』を強調する。
「はい。私的には送っています。ですが……」
杏奈は彩乃が強調した『的』という言葉を理解。踏み込んで欲しくない内容に話を変えようとするが、うつむきながら止める。
「どうした?」
(男っぷりがある娘だな)
加納は彩乃の言葉使い、うつむく乙女杏奈に言葉を添えるイケメン彩乃に男らしさを感じる。聞き耳を立てていた美代や美菜も感じている。八慶に関したら(ますます巴に似てきたな)と、ため息を吐く。
杏奈はうつむいていた視線を右手中指で黒縁眼鏡を押し上げながら上げると、
「私は松田さんの事をよく知らないので幼馴染であるお二人に聞きたいのですが……」
(翔に春が来たか!!?)
(参謀からまさかの恋話!?)
健と加納の心音が跳ね上がる。
しかし彩乃は、
「翔はあのままだから何を聞かれてもあのままの事しか答えられないが……。見たままの翔という事でなければ、長い付き合いで私が知るのはチン毛が白髪では無く色素が薄いだけだと……」
「お前何言ってんだ!」
健は彩乃の後頭部をぶっ叩く。
「なにをする!」
「幼馴染の俺等に聞きたいって言われてんのに、なんでチン毛の色になんだよ! ここは恋話だろ!」
「恋話? あんな生まれた時から頭髪と脳みそが老化してるバカ男を好きになる女子はいない。私はクラスの女子や先輩後輩に翔の事を聞かれる度に恋話だと期待し、毎度毎度チン毛は何色だと聞かれて散々裏切られてきているんだ。井上さん、いち子から得た情報だから間違いない」
「プライバシーが無いな!」
「あの……申し訳ありません。松田さんの恋愛事情や身体的な特徴を聞きたいのではなく、中身を聞きたいのですが?」
「中身?」
彩乃は期待を削がれた健を押しのける。
「私は限りある時間を有意義に使わしてもらっていますが、松田さんは松田家としても学生としても座敷童管理省が枷になっていると思います。仕事熱心なのか、それとも今後の松田家のために座敷童管理省の仕事をしているのか、どちらだと思いますか?」
「それはどっちでもないな」
間髪入れず否定する彩乃。その横では「そんなことか」と期待外れに頭を掻く健。二人は顔を合わせ、杏奈が異性に対しても一般的な女子ではない事をアイコンタクトで共有する。
杏奈は質問を続ける。
「どっちでもない、ですか。どんな理由ですか?」
「理由か。理由を話すには少し知ってもらわないとならない事があるな」
健は杏奈の「お願いします」という言葉を頷きで返し、彩乃へ視線を向けて続きを促す。
彩乃は杏奈へ向き直ると、
「小学の頃。翔はいち子が見えない連中にからかわれ『蕎麦屋を継ぐのは決まっているから学校に行かない』と言いだした。白髪というのもあり、イジメの対象になりやすかったんだ。私と健で座敷童はいる、いち子はいる、チン毛はまだ生えていない、と翔をからかう連中にヤキを入れ、ばあちゃんの家の池に投げ入れたりジョンの小屋に閉じ込めたりした」
「彩乃。チン毛はイジメていた連中ではなく、女子から聞かれていた事だろ。それに、翔がイジメられていたのは小学の低学年頃だろ。まったくよ、お前等女子はいつから翔のチン毛を気にしてんだ」
「小学の高学年頃、一部の好奇心旺盛な女子達が翔を女子更衣室に呼び出し、チン毛の確認をしようとしたら、いち子が御立腹して『まだ産毛じゃ!』と暴露したようだ」
「したようだって、なんだ。いち子が御立腹したのを見えるのは俺等だけだったろ。一部の好奇心旺盛な女子の中に間違いなく彩乃がいるだろ。お前が筆頭だろ」
「いち子とチン毛協定を結んだ一部の女子達が、全男子のチン毛情報を得た中学二年の頃。翔は、蕎麦屋を継ぐのに高校に行くのは無駄だと言いだし、私と健も翔の言うとおりだなと思ったため、蕎麦屋を大きくして私達三人といち子が食べていく計画を練った」
「一部の女子と言うのをヤメろ。そして、女子のニヤニヤする視線に怖くなっていた男子の相談を受けていた俺の労力に謝れ」
「労力と言えば、私達が蕎麦屋の支店を出店するために練った計画書をママさんに見せて泣いて喜ばれた時、地獄だったな」
「山奥に連れて行かれて、まさかの開墾からだったな。ママさんはいなくなるし、いち子とジョンがいなかったら死んでたな」
「あの……松田さんの中身を聞きたいのですが……?」
杏奈は思い出話にチン毛を咲かせて本題から脱線する二人に先を促す。
「わるいわるい」
「自分達の支店を出すなら自分達の蕎麦の実をゼロから作れ、というママさんのこだわりに、翔は高校に行く事を決めた。翔が座敷童管理省や松田家のためって考えているなら、翔の働きに見合わないが、とりあえずの収入はあるから蕎麦屋の支店は必要ないし、高校に通う必要もない」
「話を聞く限り、松田さんは学校生活に前向きではありません。蕎麦屋の支店も開墾からなら諦めています。収入源の座敷童管理省を得たのに、松田さんが学校に通っているのは何故ですか?」
「俺等が学校にいるからって言ったらわかる?」
「友情ですね」
健の問いに即答する。
「そう。翔は友情で自分の都合を棚置きするんだ。これで座敷童管理省の仕事をする理由がわかっただろ?」
「?」
「井上さんはどう思っているかわからないけど、あのめんどくさがりで傍観者体質の翔が座敷童管理省の仕事に首を突っ込むのは、井上さんが無知なまま座敷童の世界に首を突っ込み、話を聞く限り大臣がかなり危なっかしいからだ。二人を、今は座敷童管理省の人達を友達だと思っているから、俺達から見たらナメてる収入でも、翔といち子は楽しんで仕事をしているって感じだな」
「一つ、井上さんは翔の事で勘違いしていると思うから言っておく。あの男は一般の人間とは違うが、スーパーマンや物語の主人公のようになんでも解決できるチートではない」
「抜けているんだよな」
「頭髪と脳みそが生まれつき老化しているからな。井上さんや座敷童管理省が翔に頼れば、できる限りのことはすると思う。だが、翔だ。スーパーマンや主人公ではない。その点だけは心に留めておくんだ。それと収入だが……」
ピリリリリリ、ピリリリリリと着信音が鳴る。杏奈はポケットから携帯情報端末を出して画面を見る。
「松田さんからです。授業中のはずでは……?」
「授業どころでは無いんじゃないかな」
平然と答える健だが、行方不明だった翔からの連絡は動揺を隠すのでやっとだった。
「授業どころではない……ですか?」
杏奈は、翔は健と彩乃と座敷童管理省に用事があると思い、全員と会話ができるように画面にあるスピーカーボタンを押す。
『もしもし、井上さん。俺と達也と梓さんと小夜と龍馬でなんとかしようと思ったんだけど……怒らないで聞いてくれる?』
「内容によります」
『八慶と龍馬が白のオロチを封印したんだけど、オロチは尻尾切りして野放しになったんだ』
「「「「!!!!!!!!」」」」
『尻尾切りに気づいたのは昨日。たぶんオロチは封印した日には野放しになっているから、四日ぐらい外にいる。岩手と秋田の山間部で神隠しがあったという記事が新聞にあるから、着々と佐渡島に向かってる。おにぎり女っていう裸族が山の中でオロチを見かけたらしく、大きさは予測で三◯メートル。たぶん四◯メートルになったら中尊寺と毛越寺の池で眠る魔獣が蘇るから、巴としずかに待機させて。平泉から魔獣が出ないようにするため、八慶に座敷童を集めさせて包囲網を作らせるのがいいかも』
「……尻尾……?」
翔からの情報に杏奈は言葉が出ない。
不意な状況に考えがまとまらない杏奈を見た彩乃は、携帯情報端末に向けて、
「翔。今、どこにいる?」
『んっ? 吉法師、井上さんの言葉使いが変わったぞ。やっぱり怒られる。フォローしてくれよ』
『黙って怒られるのだ』
「彩乃だ。吉法師もいるなら今は佐渡島か?」
『彩乃! なんで、いや! 彩乃がいるなら健もいるな!』
「いるよ。つか、自分だけで解決しようとするのはいいけどよ、携帯の電源切る前に俺達に言えよ」
『悪い悪い』
反省の色が無い翔の口調に呆れる健は、
「反抗期中の息子を連れ戻してくれ、というママさんからの依頼で俺と彩乃は岩手県に来ているんだが、予想どおりのジョーカー付きのファイブカードに笑っていればいいのか?」
『母さんの依頼?』
「俺らが翔といち子に何かがあったと予想できたぐらいだし、ママさんなら翔の行動ぐらい御見通しって事だ。とりあえずママさんの助けは期待するな、翔といち子が遭難した時ぐらい通常運転だ」
「翔。どうするんだ? ママさんなら『こうなる事』を見越して、私達を佐渡島ではなく岩手県に送ったと思うが?」
「ど、どういう事ですか? 松田さんのお母さんがオロチに……」
彩乃と健の言葉に未だ考えがまとまらない杏奈は情報を集めようとするが、翔の言葉が割り込む。
『佐渡島は吉法師とお濃でなんとかするから、中尊寺と毛越寺の魔獣は巴としずかと八慶に任して、健と彩乃はばあさんと井上さんと小夜と座敷童管理省の特務員を守ってくれ』
「!」
彩乃と健に全幅の信頼をする言葉、自分や座敷童管理省への戦力外通告にも似た言葉に、杏奈は困惑する。
だが、松田翔という人間は井上杏奈や座敷童管理省を無下にする事はない。
『健、彩乃。今の東北座敷童には座敷童管理省の協力が必要だ。俺の判断が甘かったから急な展開になっちまったけど、井上さんなら上手く特務員を動かす。二人は直接的な被害を生む魔獣に専念してくれ』
「だとさ、井上さん」
「…………」
「私としては今後の座敷童管理省も見たいから魔獣の対処もしてほしいんだがな」
『健、彩乃。吉法師だ。陣頭指揮を杏奈に任せ、お前達は魔獣からの直接的な被害を防げばいい。それ以上は首を突っ込むな』
「井上さん。吉法師から信頼されてるんだな」
「健、甘いぞ。吉法師の事だから、信頼ではなく、今後、井上さんが座敷童の世界で生きていけるか見るだけだ」
「…………」
『それじゃ、船がでるから切るな。けして井上さんに怒られるのが怖いからじゃないぞ。船に乗るからだからな』
「船に乗っても沖に出るまでは電波があるぞ」
『…………。あっ、吉法師! バイクでターミナルに入るな!』
プッ、ツーツーツーと通話が一方的に切れる。
健は、額から汗を流している杏奈へ、
「わかったか。翔といち子のやる事は高確率で『おもしろい』事になる」
「健、甘いぞ。この程度で終わるとは思えない」
「だな。井上さん。そういうことだから、チャチャっと魔獣を天に返してやるぞ」
気楽に会話する健と彩乃。
「オロチが……野放し……」
杏奈は翔の話を頭の中ではまとめきれずに困惑し、更に吉法師からの試験に動揺。困惑し動揺している最中に話が終わってしまった。確認するように通常運転の彩乃と健を見ると、
「松田さん、梅田さん、梅川さん、龍馬さん、小夜さんでなんとかしようと思った。と言ってましたね」
チラッと加納にお姫様抱っこされる小夜を見るが、満腹に満足したように寝ている。視線をそのまま巴と額にタンコブを作る八慶に移し、
「巴さん。吉法師さんがいるとはいえ松田さんへの援軍が必要かと思いますが?」
「吉法師とお濃なら、いち子が御立腹するぐらいの予定外がない限り、大丈夫だ。私達は平泉から魔獣を出さないようにするのが最善。一応、私の神使白黒をすでに佐渡島に向かわしている。心配なら、文枝様に頼んでジョンを佐渡島に向かわせろ」
「わかりました」
「杏奈殿。尻尾切りに気づかなかった私と龍馬のミスだ。せっかく文枝殿にオロチを倒してもらったのに。……申し訳ない」
「二人のミスなら、人間側から封印したのを確認しなかった座敷童管理省のミスでもあるよ。問題は、そのミスを黙っていた龍馬さんや何も言わず対応に向かった松田さんと梅田さんと梅川さん。……なんで言ってくれなかったのかな」
小夜の名前を出さなかったのは巴がいるからではない。蛇だけでなくドジョウでも怯える小夜を杏奈は見ているから、小夜をオロチのいない東北に残したと思ったからだ。
だが、巴は違う。翔が小夜を残したのは自分をオロチと関わらせないための気づかいだと、翔の性格から判断する。屈辱である。
巴は肩に乗る白黒に視線を向け、空に向けて軽く首を上げる。白黒は飛び立つ。
「箱入り娘。翔なりに、東北の八童になる八慶に落ち度を作らせたくなかったのだろう。だが、詰めが甘い。いや、おにぎり女という者からオロチの大きさを聞き、翔の中で予定外になり、吉法師に諭されて箱入り娘に連絡してきたという事だろう」
「とりあえず、私と巴は一足先に東北支署に戻り、八重と落ち合う。美菜と美代は杏奈殿等を頼むぞ」
「わかった」
美代が右拳をビシッと向ける。しかし、美菜は左右に首を振る。
美菜はため息を吐くと、八慶の胸をドンッと殴り、
「八慶。冷静になれ。オロチがいないってわかったら、八慶が八童になるのを反対してる連中、ていうか秋田県のお祭りバカが魔獣と闘わないで縄張り争いする。八慶の穴を埋めるために、私だけ八太の所に行った方が良策」
「美菜の言うとおりだ。八慶、ミスを引きずるのは後にして、頭を切り替えろ。私が毛越寺、しずかが中尊寺に分かれるから、八慶は金鶏山で秋田のバカと遊んでいろ」
「……うむ。わかった。それでは健殿、彩乃殿、杏奈殿を守るついでに美代をよろしく頼む」
「ついでに、ではないな。座敷童管理省という座敷童を守る組織の経費で飯を食わしてもらったんだ。一食分の仕事はする。とりあえず、八慶は自分が八童になる事だけ考えていろ」
「感謝する。それでは失礼する」
八慶は巴と合わせて踵を返す。
二人はアスファルトを蹴った瞬間、初歩から猛スピードで駆け、人々の間を縫い、車を飛び越えて、平泉へと向かった。
「それじゃ、私も行ってくる」
美菜は美代に手を振る。
「お姉ちゃん。頑張って!」
「うん。八太の所に行くだけなんだけどね。加納も魔獣は心配しなくていいから。こんなの座敷童の世界では自衛隊の訓練と同じぐらい日常茶飯事だし、美代と経費の仕事していればいいから」
ミナは加納の反応さえ見る事なく懐に手を入れながら広場へ行くと、懐からヘリコプターのラジコンを出して地面に置く。たちまち、ヘリコプターのラジコンはミナが乗り込めるほど大きくなる。更に、懐からラジコンのコントローラーを出すと、電源を入れ、ヘリコプターに乗り込む。
「ラジコンヘリ?」
「家主から貰ったおもちゃだよ」
加納と美代が見上げるヘリコプターは街中に強風を生み、平泉方面へと飛んで行った。
杏奈は黒縁眼鏡を右手中指で押し上げると、
「今さらですけど、座敷童ってなんでもありですね」
「人間なら、ラジコンでも街中でヘリコプターなんか動かしたら刑罰ものだからな」
「私達も平泉、座敷童管理省東北支署に向かうとしよう」




