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座敷童のいち子  作者: 有知春秋
【東北編•平泉に流れふ涙】
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終章

ページを開いていただきましてありがとうございます。拙い文章ですがよろしくお願いします。

「それじゃあ、俺といち子は先に帰ってるから」

「んだ! 気をづげんだぞ!」

 小夜は両拳を握り、声に力を入れる。

(小夜……頼むから普通にしてくれ)

 内心で不安になる。額から一滴の汗を流し、小夜が何を喋ったのかを携帯情報端末の画面を見て確認する。

「気をつけるのは花巻空港までバイクを運転する達也と飛行機のパイロットだ」

「んだな! 達也も気をづげんだぞ!」

「う、うん」

 座敷童管理省の門前にはアーサーと八太一家以外は全員が見送りに立っているのだが、翔と達也がこれから中部地方に行くのは秘密にしている。それにも関わらず、鼻息を荒くして気合いを入れる小夜の対応は隠し事をしている分、それが小夜の普通な対応であっても不安になる。特に、普段から小夜といる巴が違和感を感じ、露見しないかを。

 翔は内心がバレないように装い、巴に視線を向けると、

「巴。井上さんを助けてやってくれな」

「…………」

(な、なんだこの間は。バレたか、なんのワードも出てないけどバレたか。無表情だから何を考えているかもわかんねえ)

「問題があれば助けると言ったが、箱入り娘に手を貸すのはデジタル化のみ。私が無条件で助けるのは小夜のみだ」

「んが! わだっきゃ大丈夫だ!」

「ああ、小夜は大丈夫だな」

「んだ! いづ何があるがわからね!」

(バレてない。バレてないけど……このまま小夜を喋らしていたらボロがでる。とっとと去った方がいいな)

 翔はそのまま歩を進め、ドドドドと規則正しく重低音を鳴らしアイドリングするアメリカンタイプの大型二輪を前にし、サイドカーから半坊ヘルメットを取る。いち子に非実体のヘルメットを被せ、乗り込む。

「いち子。ヘルメットがぶかぶかだろ。小さくするんだ」

「うむ」

 いち子が両手をヘルメットにペタッと付けると、ヘルメットがいち子の頭のサイズになる。

「達也。行くぞ」

 言葉を投げながら実体のヘルメットを被る。

「それじゃあず……」

 ギンッ! と鋭い視線を梓に向けられ、言葉を飲み込む。視線を無理矢理杏奈へと向けて、

「あ、杏奈ちゃん。明日、には、百名山に挑戦するから」

「休憩無しで九州まで走破する気ですか?」

「無理……だね」

「おばあちゃんが経営する旅館やホテルなら、座敷童管理省の手帳を見せたら格安で泊まれますので、安全運転で行ってください。それと、八十八ヶ所巡礼では悪しき心が浄化されてなかったので、百名山は一筆書きでお願いします」

「一筆書き?」

「屋久島の宮之浦岳から北海道礼文島の礼文山まで一切の交通機関を使わないでください」

「屋久島? 礼文島? 一切の交通機関って……海は?」

「カヤックです」

「カヤック……? それはさすがに……」

「百名山一筆書きを達成した人がいます。詳しくはご自分で調べてください」

「……、」

 携帯情報端末の画面を何度かタッチすると、

「……、百名山一筆書き、やってるね」

「はい。ちなみに、カヤックや登山装備などは、座敷童管理省の仕事をしていなくても振り込まれる給料やボーナスで買ってください」

「熊が出るとか書いてるけど?」

「熊除けの鈴を金剛鈴に持ち替えて対応してください」

「雷が落ちるとか書いてるけど?」

「登山用ストックを錫杖に持ち替えたら落雷に合う可能性は上がります。が……そこは敢えて錫杖にしてください」

「…………」

「ちなみに、雷は海にも落ちます。天候を見極めてください」

「はぁ、」

 ため息を吐き、肩を落としながらアメリカンタイプの大型二輪に跨がり、ハンドルにぶら下げてあるフルフェイスのヘルメットを被る。一同に向き直り、

「それじゃ。行ってきます」

 アクセルをしぼって出発。

 応援するような小夜の声援が届く。後のことは龍馬と梓に任し、翔と達也といち子は中部地方へと向かった。


 その数時間後、梅田家当主に呼ばれたという理由で梓は座敷童管理省東北支署を後にする。

 龍馬は杏奈と八慶と巴を監視するために座敷童デジタル化計画のマニュアル作成に加わり、小夜は文枝としずかと一緒に南部煎餅を茶受けにしながら庭で遊ぶ座敷童達を見て談笑していた。


 尻尾切りという手段を使い、封印されず地上に出たオロチだが、文枝が小さくした事でオロチとしての力がないこと。そして向かう先が、オロチの習性でもある北海道以外の近くにあるオロチが封印される場所になる。

 二首、三首となる度に力が飛躍的に上がるため、まずオロチを二首にしないためには近くにある封印箇所から離すか、他地域からの座敷童の援軍が来る方向へオロチを誘導し討伐するのがセオリーになる。

 オロチが野放しになった事で二首になる可能性が高くなってはいるのだが、オロチの習性から中部地方に向かうのがわかっているため先手を打てる。

 不利でもあり、有利でもあるのだ。

 先手を打つために中部地方へ向かう翔といち子と達也。東大寺へ向かう梓。


 そしてオロチは……


 岩手県と秋田県の県境。峠道。

 暗い森の中から、サイドカー付きの大型二輪を見送る爬虫類特有の瞳。その体長は正確には計れない。

 白い頭、ギロリと光る瞳をスッと峠道から斜め下に移した先には、大口を開けた月の輪熊。その毛深い胴体には白い胴体が巻き付き、息を吸う事が許されない拘束はギチギチと筋肉を締め、折れた骨が皮膚から突き出、外から締め付けられた内蔵が吐瀉物として口から出される。その瞬間……吐瀉物ごと、頭ごと、骨が砕かれて原型のない身体ごと、クッパァと開いたオロチの口に呑み込まれる。


読んでいただきましてありがとうございます。

東北岩手県中尊寺編は終わりになります。

そして、次は中部編になります(^^)


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