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座敷童のいち子 作者:有知春秋

【東北編•平泉に流れふ涙】

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 関山中尊寺の麓。周囲に飲食店が建ち並ぶ駐車場に異様な一団がいる。
 生徒数二○人の修学旅行を思わせる一団なのだが、異様と表現するのはその服装。
 お世辞にも最低限の生活さえできていないと思わせ、修学旅行に出向く子供に対しての親心が見えなく、二○人の少年少女はボロボロになった衣服を着ている。
 その一団が視線を向ける先では、関山中尊寺の観光を終わらした井上文枝と竹田小夜。周りに座敷童管理省の特務員がいて、月見坂の入口で白人女性と合流していた。
 一人の少女が物欲しそうに文枝を見つめながら歩を進めると、頭一つ身長の高い少年が歩を進めた少女の肩に手を乗せる。
「遠くから見るだけと約束しただろ」
「……、……うん」
「ばば様が生きていた確認ができた。それだけで満足するんだ」
「ばば様の小豆飯……」
「我儘を言うな」
「…………」
 少女は唇を噛み締め、瞳を潤ませる。

 アーサーは土佐犬ジョンの背中に乗っしずかと加納の肩にちょこんと座るいち子と仁王像吽型の体勢になる八太の姿に絶句していた。
 いち子としずかは衣服や掌が金箔でキラキラと光り、八太は全身が金色に輝いている。自分がいない間に金色堂で何が起きたのかは聞くまでもなく、引き攣った表情で巴を見る。
「だ、大丈夫、かしら?」
「金色堂の心配をしているなら座敷童が見える側の人間には手遅れだ。気にしても仕方ない」
「座敷童が見える側の人間が金色堂を見たら事件になるわね」
「座敷童側の職人が改修している。時代が時代なら当たり前の光景だが、座敷童が見えない側が大半になった現代では見える側の人間が精神疾患を疑われるだけだ。そんな小事よりも大臣が気にかけなければならないのはオロチに対して座敷童管理省はどうするか、だ」
「鱗の献上は大丈夫よ。問題は加工ね。正直言うと座敷童管理省はオロチに対しては無力だから翔君に頼るしかない。悔しいけど補佐に徹する事でしか座敷童の力になれないのよね」
『黒パンツ』
 アーサーの足元からジョンの野太い声が届く。
「ジョン。黒パンツは履いてるけど私はアイルランドの淑女よ」
『淑女とは慎み深く思慮深くあるべき……だが、黒パンツが勝負パンツであるなら慎みに問題は無い。しかし、淑女としては思慮に欠け、大臣としては考慮に欠けていると思うが?』
 ジョンは駐車場の端で自分達を見ている一団に視線を向ける。一瞬だが、それを見た巴が眉間に皺を作った。
「大臣。小事には目を向けず、今やるべき事を……」
「修学旅行かしら?」
『アイルランドではわからないが、坊主の小学や中学の修学旅行は五月ではなかった』
「ジョン。今は……」
 巴はジョンの続く言葉を止めようとするが、ジョンの言葉は続く。
『それ以前に、あのような見窄らしい服装の子供がいて周囲の誰にも気にかけられていない。座敷童管理省の仕事以前に淑女として何も思わないのか?』
「ざ、座敷童? あんなにいっぱい⁉︎」
『放浪型だ。ノラになるのも時間の問題だ』
「東北支署に連れて行くわ!」
 アーサーは足を踏み出す……しかし、ジョンは止める。
『待て。座敷童だから助けたいと思うなら座敷童管理省の大臣として今はあの者等に何もしてあげられない。おそらくは母上様に甘えたい連中だ。母上様に任せるのがいい』
「淑女としてはできるわね」
 口端を釣り上げながら間髪入れずに返答する。
『……、座敷童の気持ちからの罵声に堪える覚悟があるなら行け。黒パンツらしくな』
 ジョンは走って行くアーサーを口元をニヤつかせながら見ると、
『梅田の小倅。お前にもやる事がある』
「わかってる。加納さんと梓はいち子を見ててくれ。みんなは……」
 言うが先か加納と梓以外の特務員はアーサーの後に続いて走って行く。達也は文枝に……
「文枝さん。出世払いでお金貸して」
「ワシが……」
「俺にお金を貸してくれる文枝さんがいてくれて良かったよ」
 文枝の先に続く言葉を止めると、
「秘密だよ。梅田家は裏方として座敷童を支えないとならないから」
『梅田の小倅。お前に出世など無い』
 ジョンは達也の言葉を否定し、
『そもそも、座敷童の服は生活からくる心境が左右され見窄らしくなるだけだ。新しい服を買ってもその場だけの憂いでしかない。梅田家らしく母上様にできない事を座敷童にすれ』
「文枝さんにできない事?」
『黒パンツや母上様にできるなら梅田家などいらん。松田家や竹田家にできるなら梅田家はいらん。お前はあの父親から何を学んでいた? まぁ、坊主や小娘にも言えるがな』
 まるで文枝の代わりに達也を諭すように言葉を並べるジョン。その言葉に達也は思考し、苦虫を噛んだように表情を変えた巴を一瞥。一拍置いて、視線を小夜に向ける。
「小夜ちゃん。翔の所に行くよ」
「わだっきゃ、ばば様ど……」
 小夜は文枝の後ろに隠れようとするが……
「次代御三家として来るんだ」
 達也は暴れようとする小夜を担いでその場を後にした。それを見ていた加納は。
「御三家として……か。翔君の様子もいつもと違ったし座敷童の世界で何かあったのか」
「オロチが蘇るのじゃ。いち子としずかはどんな顔をしておる?」
「!」
 文枝の言葉に加納は動揺する。気持ちの整理もせずにいち子としずかを一瞥、裏返りそうな声を整えるために唾を飲み込み、
「神童いち子は八太と金鶏山に行くと言っております。しずかはお腹が空いたと言ってます」
「いち子は腹を空かしていないのか?」
「はい。翔君に渡された小豆飯はありますがまだ一個も食べていません。金鶏山で食べると言っております」
「ちと、厄介じゃの」
「厄介とは?」
「お主と梓は座敷童管理省の特務員としていち子と八太と共に金鶏山の麓に行くのじゃ。巴は小夜と坊の所に行ったのかの?」
「いえ、巴はここにおります」
「巴が小夜とおらぬのか……、……」
 悔むように目を閉じ、唇を噛み締めると、
「いち子。坊に内緒にできるならシュワシュワガラナを『秘密の冷蔵庫に入れておく』。巴をいち子の側から離すでない」
「うむ」
 いち子は両腕を胸元でくみながら頷くと、
「ばあちゃんがそこまで言うなら仕方がない。ワタキは巴の側にいる」
「神童いち子は巴の側にいると言ってます」
 加納が通訳すると文枝は安堵を表情に出して視界を移す。そこには駐車場内を走り回り空間を抱き締めるように不審者丸出しにしてる特務員。そしてアーサーと飲食店の店員がワンコ蕎麦を店先のテーブルに御供えしていた。
「しずか。ジョン。巴をオロチと闘わせてはならぬ。よいな?」
『承知』
「ばあちゃん。どのみち巴は足手まといでありんす」
 しずかはジョンの背中から下りて文枝の背中に乗ると、ジョンも足を踏み出し文枝の隣に行く。その背後から……
「しずかはいつも足手まといだがな」
「巴、口に気をつけるでありんす。いつも足手まといなのはいち子でありんす」
「東北のオロチに関してはしずかも足手まといだ。自覚してるなら地上にいろ」
「わっちとジョンでオロチを片付けるでありんす。巴はいち子と一緒に木登りでもしてるでありんす」
「ジョン……お主としずかが闘っている間、魔物化した神使から誰が大臣や文枝様を守る?」
『お前が小事と言ったあの連中を守るのが座敷童管理省の大義であり母上様の大事。一首のオロチ程度で松田家に頼るのを良しとせず坊主に無理難題を吹っかけ、東北の八童として全てを背負う気でいたみたいだが……俺はパンツだけでなく心情も見逃さない。甘かったな』
「甘いのはお前だ」
『甘かろうがいち子が側にいる以上はお前の結果は変わらない。少しでも母上様の負担を減らしたいなら黒パンツを金鶏山に連れて行け』
「一つ、翔が出しゃばらないように監視さしていた私の神使、白黒(はっこく)を文枝様の側に付ける。私がおとなしくいち子の側にいる条件だ」
『好きにしろ。それで今日のいつ頃だ、オロチが蘇るのは?』
「早くて夕刻。翔には自分で確認する事を疎かにした罰として受け入れてもらおうと思ったが……達也では翔や小夜を止めれない。私が傍観している時間は一刻、それ以内にオロチを『関山に封印しろ』」
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