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座敷童のいち子  作者: 有知春秋
【東北編•平泉に流れふ涙】
33/105

行間2

 

「待でども待でども来ね! ざすくわらす管理省、ひどっごひどりサこねぇでねか!」

「分署を建てたからと言って来るとは言っていないからな。それに、座敷童管理省の特務員に教育する期間を……」

「会いサ行ぐ! ざすくわらすの家サ建でてもらう!」

 旅館の一室、木製のテーブルと座椅子があるごく普通の一○畳和室。黒ドレスの少女を羽交い締めにしてセーラー服の少女は説得している。

「アーサー大臣と井上杏奈が龍馬から言伝を聞けば何かしらの連絡がある。押し掛けても良い結果は生まない。今はまだ……」

「一週間だぞ! ざすくわらす管理省できで一週間だ! アホたれ龍馬は忘れてるにちげぇね! 任せでらんね!」

「それは私も思ってる。だが、確かにアホたれ龍馬だが『お互いに良い』話し合いの場が作れるのも龍馬だ」

「ん〜〜〜〜にゃ、龍馬はただ忘れているだけでがんす。会いサ行っで直接話さねば、ざすくわらすの家サでぎね」

 黒ドレスの少女は顔を真っ赤にしてセーラー服の少女の腕の中で暴れている。

 デパートのおもちゃ売り場で見かける手が付けられない子供と言えばいいのか、そんな黒ドレスの少女にセーラー服の少女は端麗な表情を変えずに冷静に進言する。

「梅田に連絡してアーサー大臣に一報を送ってもらい、それでも竹田との話し合いをしない場合は……」

「会いサ行ぐ!」

 間髪入れず言葉を被せて買って買って攻撃……ではなく、反抗期さながらに意見を変えない。

 それでもセーラー服の少女は表情を変えず、冷静に進言する。

「まずは連絡してからだ。松田家も関わる座敷童管理省に下手をうつと『予算以前の問題を掘り返される』。今は堪えろ」

「…………、」

 問題を掘り返される。その言葉が決定打になり、黒ドレスの少女は暴れるのを止める。数秒無言になり、悲壮感を表情に出すと、

「松田はざすくわらすサ可愛くねぇのか?」

 聞こえるか聞こえないかの小さな声音、表情も身体も脱力して真っ赤な顔色も白肌に戻る。

 そんな黒ドレスの少女のサラサラな頭髪を撫でるセーラー服の少女は、端麗な表情を微笑ませ、優しく言葉を繋げる。

「宮城や岩手の震災で家を失った座敷童……被災地の座敷童だけを優遇できるなら松田家も竹田家も優遇してる。だが、東北には青森•秋田•山形がある。他の地域にも座敷童はいるんだ。悲劇を繰り返さぬために予算や財産を蓄え、今後に備えねばならない問題もある。……人間側は座敷童を平等に見ていかなければならないのだから」

「岩手ど宮城のざすくわらすサ平等でねぇでねか……」

「秋田や山形や青森、他の地域で同じ被害があった時、前回のように備えがなかったらまた文枝様に負担を……」

「ダメだダメだ!」

 間髪入れず言葉を被せ、首を大きく左右に振り、

「ばば様に苦労サかげだらダメだ!」

 文枝殿とは井上のばあさんのことだ。猪突猛進な黒ドレスの少女が声を上げるのは、それほどの恩が井上のばあさんにあり、それほどの負担を井上のばあさんに背負わせた結果だと予想ができる。その証拠に、涙目になった瞳の奥には強い意思が込められている。

 セーラー服の少女は一先ず落ち着いたと判断して畳の上に黒ドレスの少女を下ろす。そのまま両膝を畳に付けて視線を合わせると。

「井上杏奈は文枝様の孫と聞いてる。確信は無いが……良い答えを出してくれる」

「ばば様の孫なのが⁉︎」

「言ってなくて悪かったな。……、」

 黒ドレスの少女に言わなかった理由はその猪突猛進な性格にある。井上のばあさんの孫だから杏奈も同じだとは限らなく、黒ドレスの少女が傷付く結果になり兼ねないのだから、それに、

「龍馬も井上杏奈が関わる以上『座敷童に災難があれば私財の破産を厭わない文枝様の負担を考えて悩んでいた』。竹田家としても松田家と同じく文枝様には負担をこれ以上掛けたくない。……だからこそ、座敷童管理省からの予算が東北には必要なのだ。今はアーサー大臣と井上杏奈の裁量に任せるしかない」

「……家サ建でねって言ったらどうすんだ?」

 一抹の不安。いや、口に出した時点で一抹ではなく大きな不安になる。

 もしも、座敷童管理省が震災で家を失った座敷童に家を建ててくれるなら……分署よりも先に一軒でも座敷童のために建てているというのが黒ドレスの少女の考えなのだから。

 セーラー服の少女も口には出さないが黒ドレスの少女と同意見。しかし、座敷童には常駐型だけではなく放浪型やノラもいる。全体を見なければならない座敷童管理省として判断するなら全体の○.五パーセントしかいない常駐型よりも大半の放浪型やノラを選ぶ。それが、座敷童の足休め場である座敷童管理省分署の建設を最優先した結果に思える。

 セーラー服の少女には全体を見た結果、最優先に何をすべきかをわかっている。だが、黒ドレスの少女にソレを言っても納得しないのもわかっている。従って、今は予測の範囲でしか応えれない。

「ソレが松田家の意思ならいち子の真意を確かめる。アーサー大臣や井上杏奈の意思ならば……竹田家として動くのみ。前者は『期待しない事だ』」

「……ばば様の孫ば敵にサするのが?」

「文枝様が座敷童に寛容であっても孫がそうであるとは限らない。座敷童と人間、双方に生活があり政治があるのだから」

「んだな……、」

 言葉を止めると物思いにふけながら歩を進め、窓の外を眺める。

「ばば様の……小豆飯サ食いでぇなぁ」

 呟きながら、田園風景の中にポツンと建つ一軒の日本家屋を見る。

 セーラー服の少女は黒ドレスの少女の後ろに立ち、一軒の日本家屋に視線を向け。

「今、私達が文枝様に会いに行けば負担を募らせてしまう。我慢してくれ」

「………………、うん」


 座敷童管理省東北支署が完成し待ち続ける事一週間、杏奈とアーサーからのアプローチを待つ事しかできない二人の少女。待っている時間は一秒一秒が長く、一分一分が待ち遠しい。

 黒ドレスの少女が真っ赤になって自分から会いに行くと興奮するのは当たり前だと思う。我慢した方だと思う。

 一方、セーラー服の少女は凡その予想はできている。龍馬が伝言を忘れていなければ『言い出せない理由』があり、機を見計らっていると。


 二人の少女が窓越しに見る一軒の日本家屋。

 東北岩手県、中尊寺がある関山と対面の大の字が描かれた束稲山をパノラマで見れる位置、田園の中にひっそりと建てられた二階建ての日本家屋が座敷童管理省の分署、東北支署だ。

 外観は庭が広めのごく普通の民家。内装は旅館のように部屋数が多く住み心地よりも泊まり心地を重視した作りで、放浪型やノラのために作られている。



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