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座敷童のいち子  作者: 有知春秋
【東北編•平泉に流れふ涙】
31/105

3

 

 ジョンが神使になって帰ってきた。その一言に井上のばあさんは「これからはしずかの残りではいかんな」の一言で終わらした。

 井上のばあさん以外全員が座敷童が見えてるため、見えない側の常識がない井上のばあさんの受け入れっぷりにある種の神々しさがあり、慈愛の神かと思わせた。

 ジョン用の御前には、生前に使っていたプラスチック製の器に山盛りの野菜炒め混ぜ黒飯。

 四九日を忌明けとして肉を解禁するのが一部の人間側の常識になるが、座敷童側の忌明けは翌日になる。そのため、一同の御前台にも精進料理だ。

 席順は、正面左側からしずか•八慶•八太•龍馬•いち子と座り、少しずれた位置にジョン。

 しずか側に、井上のばあさん•杏奈•アーサー•体格の良い特務員と他八人の特務員と並び、いち子側に俺が座り残り一一人の特務員が座る。

 俺といち子の間にジョンの御前台があるのだが、一同はすでに食事を始めているのに、ジョンは四つ足を畳に付けて食事を前にしているだけ。一切、食べようとはしない。

 俺はジョンを見やる。

「ジョンどうした? 食え」

「…………」

 ジョンは何の反応も見せない。

「神使にはコレぜよ!」

 龍馬が懐から出したのは布袋。中からオロチの鱗(黒)を出すとジョンの元に行く。

「神使の大好物オロチの鱗ぜよ! 奮発じゃ! ふりかけにしたるぜよ!」

 龍馬はオロチの鱗を両手で握り締める。バキバキと音を鳴らしながら手の中で砕くと、ジョンの器にふりかける。

「食うぜ……」

 ズガンッと一同の耳に打撃音が届いた瞬間、黒い結晶を散りばめながら龍馬が畳の上を転がり、大部屋の端まで飛んでいった。

「「…………」」……一同額に汗を溜める。

 井上のばあさんは一同が振り向いた大部屋の端に視線を向ける。

「どうしたんじゃ?」

「飯を食わないジョンのためにオロチの鱗をふりかけた龍馬が……ジョンに殴られて吹っ飛ばされた」

「元気一杯じゃな」

 井上のばあさんはジョンの御前台へ視界を向け、

「ジョン。食べるんじゃ」

『この世の食材と母上様に感謝を込めて……いただきます』

「「ぶっ‼︎」」……一同吹き出す。

 ハードボイルドな野太い声で感謝を言葉にしたジョン、吹き出した一同を気にした様子なく、ゆっくり立ち上がり食事を始める。

 井上のばあさんは更に言葉を繋げる。

「明日はジョンの好きな熊肉を仕入れておる。楽しみにしてるんじゃぞ」

『心より感謝いたす』

「「マジか‼︎」」……一同突っ込みを入れる。

「ばあさん! ジョンが見えてるのか⁉︎」

「見えん」

「いやいや! 会話が成り立ってるし!」

「ジョンは賢い子じゃ。人の言葉ぐらい理解しておる」

 会話ができない相手との会話は一方的な独り言になる事をわかってる。だからこそ気持ちを向けるのだが、井上のばあさんレベルになるとしずかやジョンとの独り言は会話になる。

 杏奈とアーサーは師匠に感服する気持ちになり、特務員は内心で慈愛の神に手を合わせた。

 立ち直りが早かったのは杏奈、井上のばあさんから視界を正面に移す。

「松田さん。しずかちゃんとおばあちゃんみたいに心で繋がってるなら理解しますが……会話が成り立ってる時点でおかしいです。喋ってます。生体上から、犬の声帯で言葉を表現するのは有り得ません。神使は生体を無視して会話ができるのですか?」

「神使が喋る……そんなの聞いたことない」

 松田家にも神使が喋る情報はない。あくまでも書物や母親から学んだ事しか俺の知識にはないから……いや、松田家に情報がないとは断言できない、あの母親なら言い忘れてた可能性がある。

 杏奈は松田家から情報を得れないとわかると、ジョンに視線を向け、直接聞く。

「ジョン、なんで喋れるの?」

『…………』

 ジョンは食事をしながら杏奈をチラッと見ると、

『白パンツを卒業したら教えてやる』

「!」

 杏奈は額にビシッと青筋を浮かべる。

「おいおい! 生前のジョンとはえらい違いだな! ジョンはもっと……」

『坊主。母上様の孫に惚れてるのか?』

「はぁぁぁぁぁぁ? 何言ってんだ⁉︎」

『ブーメランパンツが似合う漢になってから出直せ』

「うんだとクソ犬! テメェはしめ縄だろ! 何がブーメランだ! トランクス派なめんなよ‼︎ 教育してやる!」

「松田の翔!」

 大部屋の端からの声、右頬を腫らした龍馬はバッと立ち上がり、ズガズガと歩を進めながら、

「同じトランクス派のワシが教育するぜよ」

 龍馬と俺はジョンの前に立つと、プラスチックの器に入った食事を一口で平らげたジョンはチラッとだけ視線を向け。

『教育が必要なのはお前等だ』

 いち子の背後にゆっくりと歩き出し、

『オロチ程度にションベンちびって逃げ回りおって……表に出ろ。母上様の代わりに教育をしてやる』

「「上等だコラ‼︎」」

『鼻垂れ八太。お前もだ』

「なんだとクソい……」

 ガブッとジョンは八太の頭を咥え、そのまま大部屋を後にする。それに俺と竜馬は続く。

 大部屋ではジョンが喋れる事よりも、喧嘩に発展した三人一匹の動向が本題になった。

「いいのかしら?」

「八慶君、大丈夫かな?」

 最初に口を開いたのはアーサー、次に杏奈が八慶に安否確認した。

「どっちがだ?」

「おとなしいジョンがたくましくなってるから……」

「生前のジョンは熊から翔殿や友人を救い、八重と共にオロチを封印している。普段おとなしいのは賢い証拠だ。文枝殿に教育されたジョンは最初からたくましい」

「八太君は八童だし、龍馬さんも八童レベル、松田さんはわからないけど……三人を相手にできるの?」

「わからん。だが、少なくとも今の八太の頭を咥えて自由を奪う力がジョンにはあるようだ」

 八慶の言葉にピクッと反応したのはアーサー。

「私は毎日八太君に引きずられてるわ。それ以上って事は……」

「心配はないという事だ」

 八慶はチラッと廊下に視線を向ける。

「すでに終わったようだ」

「はやっ! 何秒? 一分も経ってないじゃない!」

 アーサーが驚愕する中、一同が廊下に視線を向けると、何食わぬ顔でジョンが大部屋に入ってきた。

「ジョン……三人は?」

 杏奈は額に一滴の汗を流す。

『玄関前で寝ている』

「ジョン、聞きたい事があるんだけどいいかしら?」

『……紫パンツが似合う淑女に聞かれては答えないわけにはいかない』

 ジョンはどうやらパンツに強い拘りがあるようだ。

 パンツの配色だけジョンに認められたアーサーは、座敷童の世界がある事を知ってからもっとも気になる事をジョンに聞く。

「翔君は強いの?」

『弱い』

 ジョンは間髪入れず返答する。

「松田家は弱いの?」

『松田家は強い。坊主はまだいち子の世話役だ。世話役程度の力しかない』

「その力ってどれぐらい?」

『母上様の五○分の一程度』

「……それは強いの?」

『弱い。せいぜいリスぐらいだ』



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