表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
座敷童のいち子  作者: 有知春秋
【近畿編•東大寺に眠ふ愛】
20/105

2

 

 四月四日——夜


 場所は奈良県東大寺。

 観光客や参拝者が帰路に立ち、人気(ひとけ)のなくなった敷地内が静まり返ると、東大寺はライトアップを始める。

 平常時は、大仏池のライトアップはされず暗闇になるのだが、今日は御祭りを思わせるように一○○○を越える赤い提灯が木々の間に垂れ下がる。

 幻想的な風景だが、座敷童が見える側の人間がこの風景を見ても、槍や刀や弓を持った一○○人の虚無僧を視認できるため物騒としか思えない。

 この時ばかりは座敷童が見えない側の人間にだけ、幻想的な風景を楽しめる。

 座敷童が見える側、見えない側で甲乙付けれる風景の中、畳を一○枚敷いて四方に行燈を灯した空間がある。

 吉法師と龍馬が並んで座り、その正面にアーサーと井上さんが並び、八慶と八太としずかが続く。その七人を正面にして俺といち子が座る。

 七人は七人の思いがあるように表情を固めている。その中でも、吉法師と龍馬を前にして完全に緊張し固まった人間がいる。

 井上杏奈。

 教科書や歴史書の二次元でしか見れない織田信長と坂本龍馬が目の前に居ては知識に飢えた井上さんが緊張するのは当たり前。感動や憧れから現れた緊張と言った方がいいかもしれない。俺としては、なんでしずかと八慶に対してこの反応が無かったのだろう? と疑問に思うところだが、今は棚置きしよう。

 俺が意外感を覚えたのは、緊張した杏奈もだがアーサーにも感じている。

 飛行機の中や車の中で終始思い詰めたように深刻な表情だったアーサーが、吉法師や龍馬を前にして吹っ切れたように座敷童管理省座敷童大臣として堂々と話している。

 井上さんの考えた策や座敷童管理省の必要性をまとめたプレゼンはけして上手いものとは言えないが、二人を前に堂々と話せるのは日本人では無いという理由だけではないと思わせる。

 吉法師の無表情は変わらない。龍馬は頑固な癖毛頭をボリボリと掻き、同じ土佐生まれの井上さんをニヤニヤとしながら見ている。それが井上さんの緊張を上げているのだが、このままでは話が進まないため、俺は議長を勤めようと思う。

「吉法師。龍馬。井上さんの策について二人の感想を聞きたい」

 視線を向けた先、吉法師は無表情なまま口を開くわけでもなく井上さんをただジッと見つめている。そこに威圧はないのだが、無言で何かを見定める無表情は言葉よりも重い何かがある。

「あぁあぁ、ダメぜよダメぜよ」

 空気を壊すような軽い口調で吉法師に言うのは龍馬。

「吉法師の仏頂面は女子(おなご)には酷じゃ」

 ピクッと反応した吉法師を気にすることなく更に続ける。

「杏奈ぁ言うとったな。お主の策は正解じゃ。一○○点満点じゃ。まぁ、アレじゃ、同じ土佐出身じゃき緊張せんとワシに『腹の中』を見せてみんか?」

「!」

 龍馬の言葉に井上さんの緊張は和らいだのか黒縁眼鏡の奥の垂れ目を龍馬に向ける。

「東大寺のオロチの鱗含め、吉法師さんや龍馬さんが持ってる残り七種のオロチの鱗が欲しいです」

「そんなもん同郷の好じゃ、欲しい言うならタダでやるぜよ」

「ありがとうございます」

 杏奈は会釈をしてゆっくりと頭を上げる。

「…………」

 龍馬は目元口元を微笑ませながら井上さんの続く言葉を待つ。

「…………? 土佐弁で御礼を言った方が良かったですか?」

 龍馬には残念だが井上さんの要件は終わっている。

「いやいや、そんなんじゃないぜよ。オロチの鱗だけ?」

「はい」

「梅田の確執を座敷童管理省に入れんちゅう条件を座敷童側から突きつけれるんじゃが? アァサァの参謀としてどうじゃ?」

「条件を出して、梅田家がそれに従うならそれこそ座敷童の世界に入るべきじゃない……です。他人にやらされるのと自分からやるのとは大きな違いがありますから」

「杏奈ぁには梅田は眼中にないちゅうこっちゃな……」

「座敷童の世界を知り、梅田家と歩調を合わせた座敷童管理省の今後を考えろと言われれば……私には今の梅田家の情報が足りません。ですが……」

 井上さんは横に置いてあるリュックサックから【御三家初志】と草書文字で書かれた一冊の古本を出すと、

「初代梅田家当主の(かた)がどんな方だったのかはわかります。人間側の歴史では、斎藤道三の娘として生まれ織田信長と政略結婚……その生涯に不明な点が多く病気で床に伏せていた……と残っていますが、この方が織田信長を座敷童吉法師にした原因なら納得です。その上で、失礼を承知で聞きます……この本を読んで私は確信しました『梅田家の無い座敷童管理省を作るのはアーサーさんなら可能です』……吉法師さんは否定されますか?」

「!」

「!」

 吉法師の無表情が微笑に変わり、龍馬は呆気に取られたように口を開けて惚ける。井上さんからの「否定されますか?」という言葉に対しての意外感を持った反応だ。

「ふっ……」

「ぎゃははははは。いやぁ! さすが土佐の女子(おなご)じゃ! ワシがブイブイ言わしとった幕末におったら時代が変わってたぜよ。のぉ吉法師?」

「で、あるな。我が人間だった戦国にいたなら、キンカンや猿の影が薄くなっておった」

「どういう意味、ですか?」

「あいすまぬ」

 吉法師は無表情の仏頂面ではなく、微笑を浮かべた顔を井上さんに向け、

「今はまだ荒削りだが、国政•軍事の祭り事を経験し挫折から這い上がった後のお主になら、人間側の世界を任せた」

 お世辞を抜きにした井上さんへの賞賛。挫折から這い上がった後の井上さんを自分の参謀にしたいという吉法師の言葉、それはそのまま……

「吉法師。井上さんの将来性を認めた、と受け取ってもいんだな?」

「うむ。今はまだ卵から生まれたばかりの雛だが……先見の眼は誰にでもあるものではない。己を磨き挫折から這い上がった杏奈殿なら乱世であってもよきに計らう……と我は思う」

「卵から生まれたばかりの雛か……。個人的には今の井上さんでも梅田を更生できると俺は思っている。吉法師はどう見る?」

 俺は吉法師に問う。それは井上さんの作戦を取り入れ、梅田達也の教育を杏奈という人間側から矯正する事を意味する。

「松田の跡取り。梅田達也を矯正できるのはお主だけだと思っていた。……、『良い土産』を持ってきてくれた」

 吉法師は視線を井上さんに向け、微笑した顔から無表情に戻し、井上さんを一人の軍師として認めた厳しさを含んだ視線を向ける。

「もしもお主がアーサー殿を神輿にするというなら梅田家に遠慮することはない。それが梅田家の矯正には必要だ」

「は、はい。わかりました」

 井上さんの口調に動揺と興奮が混じる。

 織田信長に認められる。それは井上さんの自信に繋がり、黒縁眼鏡の奥の垂れ目には気弱な色はなく高揚感が支配している。今の井上さんには先ほどまでの緊張感は無い。

「それでは、今の梅田家を見たいので、梅田家の(かた)をここに呼んで下さい」

「うむ。……」

 吉法師は畳の外にいた虚無僧に視線を向け、軽く頷く。

 それを見た虚無僧は頷きを返しその場を後にした。


 *****************


 虚無僧が梅田達也を呼びに行ってから一○分。

 怪訝な表情をした梅田達也が来た。その視線の先は白髪頭に向けられている。

「その白髪は松田家の跡取りか……?」

 眉間に寄せられた皺は達也のプライドに亀裂が入った事を意味する。

 そんな達也に対し、プライドを逆撫でした返答で応対する。

「吉法師や龍馬、八慶や八太やしずかを前にして、いち子といる白髪が俺以外にいるならソイツが松田家の跡取りだな」

 達也と一切目を合わせない。話にならない、と遠回しに態度で見せる。

「…………、なんでいる」

 五秒という間の後、小馬鹿にされている事を理解した達也は又もや見当違いな事を言った。

 俺はため息を漏らしたい気持ちを抑え、達也を見やる。

「梅田家の跡取り梅田達也。逆に聞くが……なんで俺がここにいないとならない? 梅田家として答えろ」

 聞いてた以上の達也の低脳ぶりはアーサーに匹敵する。いや、アーサーは座敷童の世界を知らない分、まだマシだ。これが梅田家の実態なら、座敷童の世界から失脚させるのは母親の言うとおり真心になる。

 達也は眉間の皺を更に深くしながら律儀に返答する。それは松田家を同列ではなく上に見ていることを意味する。……俺としてはガッカリだ。

「梅田は松田に協力要請を出していない」

「三○点」

 間髪入れず——

「大臣からの……」

「一○点」

 言い終える前に——

「梅田を座敷童の世界から切るため」

「○点。帰れ」

 終止符を打つ——

「…………」

 達也は奥歯を噛み締め、ギリギリと歯軋りを鳴らす。

「〜……」

 俺は更に追い討ちをかけて達也を一蹴しようとしたが、井上さんからの視線を感じ取り、ため息まじりに達也に言う。

「松田の跡取りからの忠告と言ったのをアーサーから聞いてるはずだ。それはそのまま、俺がここにいなかったら松田竹田の当主が動く事を意味する。もう一回聞く、なんで俺がここにいないとならない?」

「ぎ、偽瞞(ぎまん)だ! 梅田で対処ができる問題だ!」

 達也は声を荒げる。

 松田家の人間とはいえ年下に小馬鹿にされて頭に血が登らないワケがない。達也の本音が出たところで井上さんにバトンを渡す準備をする。

「欺瞞でもなければ現状は梅田だけで解決できる問題でもない」

 視線を達也の背後にいる背広を着た二○人の大人を向け、

「そこにいるのは梅田の息がかかった座敷童管理省の連中だな。梅田がソレなら座敷童の世界には必要ない。一緒に帰れ」

「そんな事したら……」

「大丈夫だ。座敷童管理省はここにいる井上さんを参謀にしたアーサーが『初代梅田家当主』の意思を継いで一人でやっていく」

「そんなことは不可能だ! 昔とは時代が違うんだ!」

「意思を継ぐと言ってるんだ。誰が過去の栄光を真似ると言った? さっきから見当違いなこと言ってるけど、放浪型座敷童とノラ座敷童がいれば梅田の役割りは一人でもできる。ノラが増えた事に頭を痛めてるようだが座敷童はマスコットじゃない。そもそも、本来の梅田の役割は、座敷童と正面から向き合い、その座敷童の情報から梅田に対処のできない問題を松田と竹田に協力要請する、だ。烏合の衆を集めて猿山の大将を気取ってるから座敷童は梅田に何も言わなくなったんだ。もう一回だけチャンスをやる……なんで俺がここにいないとならない?」

 この場にいる全員が梅田達也を見る。いや、全員ではない。井上さんはタブレット式の携帯端末に目を向け画面に指先を付けて何かをしている。

 一見すると人を小馬鹿にした行動だが、それは井上さんの策でもあった。

 案の定、一同からの視線に堪え兼ねた達也は唯一自分を見ていない井上さんに視界が止まり怪訝な表情を作る。

「き、君は……座敷童が……」

「見えてなければこの場にいません」

 井上さんは即答する。

「参謀とし……」

「戦略や政治に自信と確信がなければこの場にいません」

 達也の言葉に被せる。

「この……」

「問題をどう片付ける? ですか?」

 井上さんに話を最後まで聞く意思はない。

「…………」

 言葉を失った達也。自分の話す事を全て先読みされるという対応に悪寒が走り、黒縁眼鏡の見た目が気弱な少女に対し畏怖を感じているようだ。

 そんな達也に対して一同は何も言わない。それはそのまま井上さんに任せるという意思になる。

 井上さんは黒縁眼鏡を右手中指で押し上げながら達也に視線を向ける。

「これから多くの座敷童が傷付きます。アーサーさんは一人でも座敷童が傷付けば私の策を元に松田さんを介入させます。それはそのまま本来の梅田家が松田家に協力要請する形と同じです」

「そ、その後、は?」

「個人的な意見ですが、今の時代はパソコンや携帯という便利なモノがあるので『梅田家の役割である放浪型座敷童との旅は必要ありません』。吉法師さんや龍馬さんのように各地を回る人間側の座敷童がいる今、あそこにいる座敷童管理省の方々は必要ありません。平安時代に偉業を成し遂げた梅田家初代当主が今の時代にいたなら、現代の科学を存分に使い、座敷童と遊び回ってます。訂正します。平安時代もただ遊び回っていただけです。時代が時代です……緊急時に早馬を走らせても日数がかかりますから松田家と竹田家への連絡を簡略化するために座敷童保護の会は人を増やしただけです」

 タブレット端末を達也に向け、

「現代では、このタブレット端末を手に『状況に応じて対処』すればいいだけです。もちろん、気づいてましたよね?」

 井上さんは黒縁眼鏡を右手中指で押し上げながら達也を見る。

「……そ、そんな方法が……?」

 唖然とする達也。

「……? ……気づかなかった? という事ですか?」

「あ、あぁ……まったく……」

「まったく、ですか。……、なるほど……」

 井上さんはチラッと吉法師に視線を向けると、ジッと見る。

「何故、携帯端末が普及したこの時代に今の方法を梅田家に推奨しなかったのですか? 確執ある梅田家とはいえ、吉法師さんの負担が格段に下がると思いますが?」

「我は現代のカラクリは苦手だ」

「苦手?」

 井上さんは頭に疑問符を浮かべ、吉法師から龍馬に視線を向ける。

「龍馬さんも吉法師さんと同じく放浪してますよね? 各地にオロチの蘇りがあった時はどうしてました?」

「旅好きのしずかを飛ばすのが座敷童の連絡手段ぜよ!」

 龍馬は堂々と言い放つ。

 そんな龍馬に対して井上さんの額にはビシッと青筋が浮かぶ。

「坂本龍馬と織田信長ともあろう者が何言ってんですか?」

「むっ!」「ぬおっ⁉︎」

 井上さんの遠慮の無い言葉に動揺する吉法師と龍馬。

 時代錯誤という言葉は人間側の歴史を紐解いても織田信長と坂本龍馬には当てはまらない。何故なら……

「新しい物や珍しい物に目が無い織田信長がカラクリが苦手? 最新の鉄砲を持ち革靴を履いて闊歩してた坂本龍馬がしずかちゃんを連絡手段? 何してるんですか? 二人が現代の科学と向き合えば、連絡に費やす時間なんて数秒で足りるじゃないですか。その後は松田家、竹田家、梅田家、座敷童管理省、どこでも構いませんが、問題が起きた地域にいた人がいち早く対処すればいいだけです。そうですよね松田さん?」

 井上さんからの不意な同意の要求に内心ビクッと背筋を伸ばした俺は、一同からの視線を跳ね除けるように言い放つ。

「そのとおり‼︎」

「松田の翔! 嘘を言ったらあかんぜよ!」

 間髪入れず突っ込みを入れたのは龍馬。更に続け、

「そんな方法が思いついてたら松田がいの一番に……」

「俺はいち子の世話役だ! そんな外の都合なんて知るか!」

「出た! 松田の言い訳いち子の世話役! 卑怯ぜよ!」

「うるせぇゴワゴワ天パ!」

「なんじゃとボサボサ天パ!」

 俺と龍馬の貶し合いに井上さんは黒縁眼鏡を中指で押し上げる。この場にいる全員が気付いてなかった事を理解したのか達也に視線を向ける。

「梅田さん。私が見たところ……ですが、吉法師さんの判断と同じくあなたにはまだ救いの道があると思います。もしも、梅田家の中で孤立しても座敷童を選ぶというなら……」

「教えてくれ!」

 達也は、井上さんが松田家や竹田家とは違う視点から座敷童の世界にすんなりと観賞し簡潔な方法を出した事で視野が広り「教えてくれ!」という言葉を出したように思える。もう小馬鹿にされたくない、という感情が先だったのかもしれないが良い兆候だ。

 杏奈は達也の素直な反応に安堵する事なく、緊張感を保ちながら達也に必要の無い確執から解いていく。

「松田家や竹田家との確執ですが……それは今の当主等に勝手にやらしておきましょう。そもそも、早馬しか連絡手段がない天正元年九月にオロチが蘇り、織田軍と『梅田家に被害』が出たのが切っ掛けです。正直に言いますと、天正元年九月にできた確執を現代に引きずってる時点で愚の骨頂です」

「なんで梅田ではその事を……?」

「当時の梅田家は、座敷童唯一の連絡手段である『しずかちゃんの説得』を松田家と竹田家に頼みました。結果は、座敷童を束縛する事はできない、と一蹴されたようです。一応、松田家と竹田家は説得したようですけど、決めるのはしずかちゃんですから結果は今のとおりです」

 そして、と加えると、

「『平安時代に座敷童になり戦国時代に織田信長の正室となった初代当主を失った梅田家』は唯一の対オロチの武力を失い、人を増やして協力要請の簡潔化を務めるしかありませんでした。当時では、オロチが目覚めた時はしずかちゃん以上の連絡手段がないため、くだらない三家の確執が生まれました」

「ご先祖様が吉法師の正室? いや、それよりも、しずかが東大寺にいなかっただけで……それだけで確執が?」

「それだけ、です。それだけですから解決は難しいです。しずかちゃん次第ですから。逆に言えば、梅田家が初代当主としずかちゃんに頼りすぎなために生まれた確執です。そもそも、初代当主は兎も角、しずかちゃんに人間側の都合は関係ありません。しずかちゃんには……いえ、座敷童側がしずかちゃんに北海道にいてもらわないとならない理由があります」

「……座敷童側が? いや、しずかの事を考えたら、当たり前の事だ。なんで梅田はそれを学ばせてくれなかったんだ」

「まだ他にも原因があると思います。ですが、次代の松田家当主、次代の梅田家当主、次代の竹田家当主には関係ありません。現代では進歩した科学がありますから。次代は『時代に合わせた連絡方法』を取り入れ、対処すればいいだけです。平安時代に三家が結託したのも時代に合わせた方法だっただけという事です。先ほども言いましたが、三家の確執は現当主に丸投げし、新しい御三家を作るのを推奨します」

「俺『達』はどうしたら、いい?」

「座敷童管理省としては『オロチが眠る地に分署を作るだけ』です。そこは同時に座敷童の立ち寄り所になりますから『今のままでは必要ない人材が必要になります』。今話した事を前提に、何故かこの場にいる松田さんに対する答えは『次代梅田家当主としてどうするか?』になります」

 井上さんは座敷童管理省と梅田達也の答えを教育の一環として示した。後は達也がその答えに手を伸ばすだけ。

「いや、そんなの……松田『家』?」

「なんだ?」

「オロチと戦った事はあるのか?」

 ぎこちないが共闘を促した達也。

「ガキの頃に戦った」

 俺は普通に返答したが……

「嘘でありんす」

 しずかは空気を読まずに更に続ける。

「翔といち子はオロチの雄叫びに吹き飛ばされて、山の中で遭難しただけでありんす。わっちとジョンしか戦ってないでありんす」

 しずか……空気を読まないにも程があるぞ。ここは戦った事にしとけばいいだろ。真実だから誤魔化せないし、かなり気まづくなるだろ。ほら、達也が気まづそうに見てる……

「松田家……大丈夫なのか?」

「はぁぁぁぁぁぁ? 大丈夫に決まってんだろ! 当時は幼稚園児だぞ! 少しデケェぐらいの蛇なんか今なら蒲焼きにできる! 梅田『家』は大丈夫なのかよ!」

「大丈夫なわけないだろ。オロチなんて見たこともない。……松田家は大丈夫なんだな?」

「大丈夫だ。いち子が本気出せばワンパンだ」

「……そうか、そうだよな。松田家といち子がいて助かった。……感謝する」

「自分の身は自分で守れよ」

「あぁ」

「よっしゃ! そろそろオロチが起きるぜよ! 戦闘準備をするんじゃ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ