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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

キミの瞳に映るのは

作者: 天野ジャック

 シュルツ博士は急な電報を受け直ぐさま病院へと向かった。

受付から通常の病棟とは別の、一部の関係者しか

立ち入りを許可されていない特別病棟に彼は通された。

 扉を開けると数人の白衣を着た医師達がいた

「おお、シュルツ先生!お待ちしておりました」

彼らはシュルツ博士を見るやいなや挨拶をした。

「院長のライスです。はじめまして」

「よろしく。して例の子供はどこだね」

シュルツ博士は挨拶も程々にモニターをのぞき込んだ。

部屋には壁一面と言っていいほど夥しい数のモニターが大小並んでおり、

そこには一室の風景が様々な角度から撮影されていた。

「これは中継映像か?」

「そうです。ここの地下4階の病室に隔離しています」

「子供はどこだ?」

「部屋の隅にいます。54番モニターを観て」

そこには部屋の隅で体育座りをしている少年がいた。

「この子か」

「アンディ・オーソン。12歳。男。149cmの40kg」

シュルツ博士は生唾を飲み込んだ。

「2週間前に発熱で病院に搬送されましたが2日で退院しました」

「その後は?」

「こちらの病院や、周辺の診療所にも通った記録はありません」

「ではどうして彼が“そう”だと分かったのかね?」

それは、といってライス院長は言葉を詰まらせた。

シュルツ博士がモニターから目をはずして振り返った。

「どうした?」

「……アンディは父親を殺害したんです。その、念力(サイコキネシス)で」

にわかには信じられなかったが院長の眼は嘘をついていなかった。

「証明できるものはあるのか?」

「父親は頭部を粉砕されて死亡。母親が警察に通報。

アンディを連行しようとした警察も頭部を粉砕されて死亡しました」

「彼の母親はいまどこに?」

「継母ですが精神病棟にいます。かなりパニックを起こしていました」

 モニターの中のアンディは時折部屋を歩き回り、壁に手を付いて、

走り回って歌を歌ったと思ったら備え付けのベッドで横になる。

「何か与えてみたらどうだ」

シュルツ博士は院長に頼んでアンディに食べ物やボール、ノートなど

日用品を与えることにした。

「どうやって渡すんだ?」

「扉の横に支給品を入れるポストがあります。

特別病棟(ここ)は大戦中の独房だったんです」

なるほど、とシュルツ博士は呟いた。


 シュルツ博士は精神病棟に赴いてアンディの継母を探した。

談話室の隅のベンチに彼女は座っていた。

「エレナ・オートンさんですね?」

名前を呼ばれた40代ほどの女性は精気のない顔をしていた。

「アンディ君のことで伺いたいことが」

「……あの子は悪魔の子よ」

エレナは肩を振るわせていた。

「この前、熱を出したあたりから、最初はインフルエンザだろうって

思ってたけど、その頃からだんだん変わっていったの」

「…変わるって言うのは、具体的には?」

「あの子の父親、DVで、あの子にも私にも暴力的で、

いつもは、あの人の怒りが収まるまで耐えてたのが、

だんだんと反抗するようになって。私とも目も合わせなくなったわ」

シュルツはエレナの左腕をチラッと見た。

手首からベルトで叩かれたであろう薄い痣が少し見えた。

「それで、アンディ君は父親を?」

「わからないの。あの子がやったのかどうかも。

いきなりあの人の頭が、真っ赤に、なってッ」

エレナは耐えきれなくなり涙を流した。

「エレナさん、教えてください。何があったか」

「ッ、いきなりッ、吹き飛んだのよッ、カークの頭がッ」

エレナは看護婦に付き添われて病室へ戻っていった。


 特別病棟のモニタールームに戻ると院長がいなかった。

「ライス院長はどこに?」

(アンディ)に会うと言って……」

モニターを監視している白衣の男が言った。

モニターにはアンディとライス院長が映っている。

「何てことだ。危険すぎるぞ」

2人はベッドに腰掛けて友達のように話していた。

以外にもアンディは笑っていた。

さすが医者だ。会話で人の心を(ほぐ)すプロである。

だが安心はできなかった。少年は手を使うことなく

大人の人間の頭を潰すことができる、

極めて危険な人物であることには違いない。

院長はアンディに本を渡した。

「なにか渡したぞ」

アンディは受け取った本をペラペラとめくっては、

院長になにかを聞いている。

「この部屋の音声は拾えないのか?」

「やってみます」

しばらくしてスピーカーから音が出てきた。

『……で見たのは、夕方くらいだったなぁ』

『どこで見たの?』

『この病院の屋上でだよ。ハッキリと見た』

『へぇ、いいなぁ!』

2人は楽しそうだ。

よく見るとアンディが持っているのは

古いオカルト雑誌だった。

『金星人は金髪で、火星人は赤髪なんだ』

『金星?金星ってどこ?』

こうして2人の会話を聞いていると親子のようだ。

アンディもどこにでもいる普通の少年のようだし、

今までのことが嘘のように思えてきた。

他愛もない会話が交わされるなか、

ポケットの中のシュルツ博士の携帯が鳴った。

「私だ」

電話の向こうは仲の良い大学教授だった。

「シシシュルツさん、たたた大変です」

「落ち着きなさいモンストル君、何だね?」

「ききき金星が、し、消滅しました…」

「何だって⁉︎」

シュルツ博士は仰天した。

「うちの天文台で、惑星の観測を行っていたら、

金星が、スゥって、消えたんです!」

「いい加減にしたまえモンストル君。

今日は何日だ?4月でもないぞ」

「嘘なんかじゃありませんよぉ…」

あまりのくだらなさにシュルツ博士は電話を切った。

今はセンスのない理系ジョークに付き合っている暇はない。

ライス院長が戻ってきた。

「いやぁ、勝手を言って済まなかったね」

「もう止めてください院長。万が一、あなたも

頭を潰されていたらと思うと背筋が凍る思いですよ」

院長はアンディと話ができて嬉しそうだった。

「いや、でも頭を潰されない方法が分かった。

アンディと目を合わせないようにしたんだ。

殺された彼の父親も警察も皆アンディと目を合わせて

しまったのではないかと思ってね」

なるほど。だからエレナは念力の影響を受けなかったのか。

「ではアンディと接触する際はマスクやサングラスで、

向こうからも目を合わせにくくする必要がありますね」

「ああ。だがこうなっては彼も自由に外は出歩けまい。

可哀想に。まだ12歳なのに」

院長はとても哀しそうな目をしていた。

またしてもシュルツ博士の携帯が鳴った。

「またキミかモンストル君。今度は何だね?」

「たたた大変です博士。ここ今度は火星が…」

「モンストル君もういい。君は疲れてるんだ。

すこし休んだらどうだね」

シュルツ博士はそういって電話を切った。

「そういえば、アンディに何を渡したのですか」

「月刊アトランティスだよ。僕の机にあったんだ」

なにやら地響きがする。気のせいかと思いきや

みるみるうちに大きくなり立っていられないほど大きな揺れがやってきた。

「なんだなんだ、どうした」

モニター画面が次々に割れていく。

回線がショートし火を噴きはじめた。

「まずい、逃げろ!」

「この特別病棟は何十年も昔に建てられたものだ。

耐震など当てにならない!」

シュルツ博士、院長と彼の数人の部下達が急いで部屋を出る。

「アンディを連れ出さねば!」

院長は階段を降りていく。シュルツ博士も後を追う。

天井のヒビが大きくなり、破片がボトボトと落ちてくる。

地下4階の薄暗い廊下の奥にひとつだけ部屋があった。

鉄の扉を開けるとアンディがベッドにうずくまっていた。

「さぁアンディ!早く逃げるんだ!」

院長は震えるアンディの肩を掴んだ。

「アッ、ダメだ院長ッ!」


パァンッ!


ライス院長の頭はクラッカーのような音を立てて部屋中に飛び散った。

首なしの胴体は糸の切れたパペットのように音もなく崩れた。

「何てことだッ!クソッ」

シュルツ博士は目を瞑ってアンディの手を掴み、

一心不乱に階段を駆け上がった。

外に出ると、特別病棟は間も無く崩壊しガレキと化した。

それだけでなく隣の病院も跡形もなかった。

見ると視界に入る景色が全て異様なものになっていた。

空の色は赤に染まり地割れが水平線の彼方まで続いていた。

マンホールから溶岩が溢れ電灯はロウソクのように溶けている。

土砂崩れで道は流され稲妻が森を燃やし、

文字通り火の海となった街は阿鼻叫喚の嵐だった。

「何だ?どうなっているんだ⁉︎」

シュルツ博士は隣のアンディ少年が雑誌を持っているのに気付いた。

「僕だ。僕のせいだ…」

アンディはうわ言のようにブツブツと呟いていた。

彼の持っている雑誌を引ったくると、

そこには見開きで青い惑星が載っていた。


『衝撃!MASAの地球写真はニセモノ!地球は赤かった⁉︎』





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