日常は奇しくも崩れ去る
窓越しから聞こえる蝉の鳴き声によって僕は目を覚ました。季節はすっかり夏に入り、庭に植えられた木でも蝉が一週間の命の脈動を見せていた。「まったく...安眠妨害もいいところだよ」言っても仕方がない愚痴をこぼしながらリビングへと向かう。
まだ8時だというのにこんな時間に目が覚めてしまうなんて...
「お兄ちゃん? もう起きてきたんだ。早いね」
キッチンから顔をのぞかせた、まだあどけない雰囲気が残る少女ーー清水紅蓮は僕の妹で中学二年生。母親の代わりに家事全般をこなしている。そして僕は清水白。至って何の特徴もない高校二年生。家中にガラクタ...じゃなくて、父さんの趣味の骨董品が置いてある。よくわからないツボ、やたら大きな皿、掛け軸や刀や甲冑など様々なものが置いてある。父さんの趣味は国内にとどまらず、今は海外で働きながら、時々骨董品をこっちに送っている。正直僕にも妹にも理解できない。それが原因で母さんとも離婚したくせにまだ懲りてないのかあの人は。
「本当、家は狭いのに邪魔でしょうがないよ」
紅蓮も苦労しているみたいだ。置く場所があるならいいけど、父さんの部屋はすでに骨董品で埋め尽くされている。いい加減にしてくれよ...そんな金あるならこっちの生活費に回せよ...
「ご飯出来てるから、食べて」
「あ、うん。ありがとう」
テーブルに用意された朝食。紅蓮の作る料理は人知を超えた美味しさだ!このトーストなんて見てみろ! バターと蜂蜜の絶妙なバランス!口の中に広がるバターの香りと、蜂蜜の甘さが食欲をさらに引き立てる。そして朝食がパンの時は必ず作るというミネストローネ。コンソメとトマトソースのあっさりとしたスープに野菜をふんだんに使っている。こんな美味しい朝食を食べれるなんて幸せ者ですよ!
「お兄ちゃん? なんでニヤニヤしてるの」
目の前に座っている紅蓮が怪訝そうに見つめてきた。
「いやー、今日も美味しいなって思ってね」
「でしょ? 料理の腕は自分でもいいと思うんだよね」
うん...立派な嫁になりそうだ。兄ちゃんは嬉しいぞ!
ところで今は夏休み。
それも始まったばかりの初日。
特に何の予定もない僕にはうんざりするほど長い休みだ。まあ毎日三食、妹の絶品料理を食べれるから嬉しいけどさ。
「紅蓮はもう朝食食べたのか?」
「うん。特に予定はないけど、早いに越したことはないしね」
紅蓮も予定なしか...一日中妹と過ごすのも良いかもなあ。
そんなことを考えながら食事を済ませ、一息つく。
その時だった。凄まじい爆発音が玄関先で聞こえ、その直後耳を押さえたくなるほどの金属音が鳴り響いた。
「あ、頭痛い!!」
「大丈夫か!? 一体何なんだ?」
状況を確認しようと玄関の方へ出ようとした途端、次はリビングの壁が吹き飛ばされ、玄関へ向かう廊下とリビングの間に大きな穴が空いた。
目の前に立っていた事の元凶...普通の人間ならどんなにいいことか、現実ではあり得ない...全身真っ黒で金属のような光沢があり、鼻も耳も目もない、口だけが耳の位置にまで裂け、人の太ももほどもある長い尻尾が生えてあり、身長が2mほどもある化け物だった。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!」
目はついていないはずなのに、僕らの方に交互に顔を向け、叫び出す化け物。
無数に生えた牙を見せて、笑っているように見えた。
「何...あれ」
紅蓮は恐怖のあまり、腰を抜かしてしゃがみこんでいる。かくいう僕も、その化け物を見て腰を抜かしてしまってるんだが...
僕たちの方にゆっくりと詰め寄る化け物。
手を伸ばせば届きそうなほどの距離まで近づいたその時ーー今度は庭の方の窓ガラスが割れ何かがものすごいスピードで入ってきた!
「今度はなんなんだ!?」
次から次えと起こる非常識な状況に戸惑っていると、目の前の化け物が塵となって消えてしまった。
その後ろに立っていた、黒髪の凛とした表情の女の子。歳は僕と同じくらいだと思う。腕には赤い刺繍の入った金色の甲冑をつけている。
「大丈夫か?」
爽やかな声で手を差し伸べてきた彼女。
「ああ、なんとか」
手を借りて立ち上がり、紅蓮の方に駆け寄る。
恐怖のあまり気絶したようだ。
「あいつは...一体」
「ああ、これから説明する。今、何が起こっているのか」
気絶している紅蓮をソファーに移動して、彼女と対面するように椅子に座った。
「まずは私のことからだな。私は天海 篭芽
(あまがいかごめ) 。打撃型能力を持つ能力者だ」
to be continued
初めて小説を投稿しました。
楽しんでいただけたら幸いです




