Place of the disappearance(消滅の場所)
あなたは消したい記憶(こと)はありますか?
この作品はとある部活からアイデアをもらい、唐突に書きたくなって書いた自分向けなので読みづらいかもしれません。
店のドアが開き、1人の女性が入ってきた。店員は客に言った。
「いらっしゃいませ。ようこそ、Place of the disappearanceへ。あなたの記憶を消しますか?」
客はすごい剣幕で言った。
「ある人に関係する記憶をすべて!」
店員は満足そうに笑い、
「かしこまりました。では、こちらで詳しくお話願います。」
客を奥の部屋へと連れて行った。
――――――
部屋の中には、小さな机が1つとイスが2つ向かい合って置いてあり、片方のイスの近くにはチェストがあった。店員は客をチェストが近くにない方のイスに座らせたあと、自分はある方のイスに座った。
「まずは、あなたについていくつか聞かせていただきます。ここで聞かせていただく個人情報は、お客様の傾向を知るためのものですので悪用することは一切ありません。しかし、お客様が答えたくないと思われた質問は答えなくても構いません。」
そう言うと、店員はチェストから紙を取り出し、自分の目の前に置いた。
「では、まずあなたの名前と年齢を教えてください。」
「佐々木千鶴、17歳です。」
「はい、佐々木さんですね。17歳ということは高校生でよろしいですか?」
「はい、そうです。」
「わかりました。」
店員は先ほど取り出した紙に記入しているようだ。
「では、次に先ほど消したいのはある人に関係する記憶をすべてとおっしゃりましたが、そのある人とはどなたのことでしょうか?」
店員がそう言うと客は表情を曇らせた。そして思いつめた顔し、ゆっくりと口を開いた。
「・・私の友・・いえ、知り合いです。」
「お知り合いですか。なぜその方の記憶を消したいのですか?」
「・・・・・。」
客は黙ってしまった。店員は何も言わなかった。部屋に長い沈黙が落ちた。そのまま2、3分の時が経過した。沈黙に耐えられなくなったのかとうとう客が語りだした。
「・・・横取りされたんです、好きな人を、その知り合いに。その知り合いは私の・・親友だった人です。私はある人を好きになりました。そのことを親友に相談したんです。親友は親身になって話を聞いてくれました。応援もすると言ってくれました。その親友が一生懸命応援してくれたので、私とうとう告白しようと決めたんです。もちろんそのことも親友に伝えました。この日に告うつもりなんだと。そしたら、次の日の朝、別の友だちからその親友が私の好きな人とつきあい始めたと聞いたんです。驚いた私は本人直接聞きました。本当につきあっているのかと。親友は口を閉じて何も言いませんでした。そこからわかったんです。ああ、本当なんだと。頭に来ました。私が好きだと知っているのに、応援すると言っていたのに!私はあの人が許せないんです!大っ嫌いなんです!!」
客は話しているうちに怒りが込み上げてきたのか最後は叫んでいた。
「その元親友さんのことが大嫌いだから忘れてしまいたいということでしょうか?」
「そうです!!」
「わかりました。ではその元親友さんに関係するすべての記憶を消させていただきます。消す前にいくつか確認をさせていただきます。まず、記憶が消えてしまえばご本人に会っても顔はおろか、名前すらもわかりません。写真やその方からもらったものを見ても誰なのかわかりません。何を聞いても見ても誰なのか思い出すことはありません。また、その方ともう一度友だちになることもできません。あくまで他人です。それでも構いませんか?」
客はほんの少しの間黙ったが、
「はい。」
と答えた。
「最後に1番大切なことを確認させていただきます。消された記憶を元に戻すことはできません。本当に消してもよろしいですね。」
「もちろんです。」
店員の問に客はしっかりはっきり答えた。
「かしこまりしました。それではこちらにサインをお願いします。」
店員は客に紙を渡した。客はサインをし、店員に紙を差し出した。
「ありがとうございます。それでは、目をつぶってその知り合いの顔を思い浮かべてください。記憶の消去には1、2分ほどかかります。」
客は店員の言ったことを実施した。店員は客の額に手を当てた。1、2分ほどたったのち、店員は額から手を離した。
「終わりました。もう何を忘れたかったか覚えていないでしょう?」
客はきょとんした顔で
「忘れる?何の話ですか?」
と言った。店員はニッコリ笑って
「いえ、なんでもございません。」
そう言い、客を店の出口まで連れて行った。
「ありがとうございました。よければまたご利用ください。」
店員は深くおじぎをし、去っていく客を見送った。そして客が完全に見えなくなったら、店の中に入りつぶやいた。
「さて、今回はどんな結果を生み出すのやら、楽しみだな。」
――次の日――
「おはよー千鶴。」
佐々木が登校するとクラスメイトが彼女に話しかけてきた。
「おはよ。」
「あのさ、昨日話したあんたの親友と先輩の事なんだけどさーあれって・・」
クラスメイトが話題を振ろうとしたとき佐々木は違和感を感じ、話を遮ってきいた。
「親友って誰のこと言ってるの?」
佐々木の言葉にクラスメイトは驚愕した。
「な、何言ってんの!?あんたの親友は1人しかいないじゃん。」
佐々木はクラスメイトの言葉に目が点になった。
「そっちこそ何言ってんの?私、今まで親友なんて出来たことないけど?」
ちょうどそのとき、タイミングよく話題の人物が登校してきた。クラスメイトはその人を指さしながら、強い口調で言った。
「ほら、あの子だよ!!あんたの親友!」
「あの子、誰?今まで見たこともないんだけど・・転校生か何か?」
「おふざけはそれくらいでいいから!」
「ふざけてなんかないし…。」
「ほら、山本萌だよ!!」
クラスメイトがその人の名前をいうとさらに佐々木はきょとんとした。
「山本萌?そんな名前聞いたことも見たこともないんだけど・・・・。」
その言葉でようやくふざけているわけではないとクラスメイトは感じた。と同時に1つの疑いを持った。
「ねぇ、千鶴。あんた、昨日何してた?」
「何してたって普通に過ごしたけど?」
「そうじゃなくて!!Place of the disappearanceに行ったのかって聞いてんの!」
「Place of the disappearance?ああ、確かに昨日は気がついたらそんな名前のお店にいたけど・・それがどうかしたの?」
佐々木の言葉はすべてを察したクラスメイトはため息をついた。
「ううん、なんでもない。さっきの話は聞かなかったことにして。」
クラスメイトはそれだけ言うとその場を離れて行った。佐々木の方はなんだか腑に落ちなかった。そして心にぽっかり穴が開いたような気持ちになった。
「・・千鶴。あのさ・。」
「萌、ちょっと。」
山本が佐々木に話しかけようとしたときクラスメイトが止めた。
「え、な、何?」
「萌、あんたは千鶴に話しかけないほうがいいよ。」
「え?なんで?」
「忘れてるからだよ。」
「なにを?」
「あんたのことを。」
「えっ!?どういうこと!?」
「Place of the disappearanceに行ったみたいって言ってるの。あの子。たぶん、そこで記憶を消したんだと思う。」
「・う・・そ・・でしょ・・・?」
山本の顔から血の気が引いていった。
「ねぇ、千鶴!忘れたなんて嘘でしょ!?私のことわかるよね。」
山本は佐々木の肩をつかみ、揺さぶった。
「ちょ、ちょっと何するの!?あなたなんて知らない!離してよ!」
佐々木は肩に置かれた手をはたき落した。
「初対面の人に乱暴するなんてサイテー!!」
佐々木の言葉に山本はショックを受け、言葉を失った。
――放課後――
佐々木はいまだに心が落ち着かなかった。心の中がぽっかり穴が開いている感じが抜けなかった。だが、どうすればいいのかわからなかった。
(何なんだろう・・?・・あ!そういえば、Place of the disappearanceに行ったの?って聞かれた…。そこに行けばわかるかな?)
そう思った佐々木は店へ向かった。店に着くと慌ててドアを開けた。
「いらっしゃいませ。・・おや?佐々木さんですね。どうかしましたか?」
「あの!私、ここで何をしたんですか?このお店を出てから、心に穴が開いたような気分なんです。何かとてつもなく大切なことを忘れている気がするんです。お願いです、返してもらえませんか。むちゃくちゃなこと言ってるのはわかってます。でも、忘れちゃいけなかった気がするんです。」
佐々木はものすごい勢いでまくしたてた。
「ですが、消したいとおっしゃったのは佐々木さんですよ。」
「で、でも・・」
「それに、元に戻すことはできないですがよろしいですか?と聞いた際に『はい。』とおっしゃっていましたよ。そのことについての契約書にもサインされましたよ。」
「でも!大切なことだった気がするんです!お願いします。」
佐々木は店員に頭を下げた。
「・・・そこまでおっしゃるのであれば、いいでしょう。」
佐々木の顔に光が指した。
「ただし肉体的、精神的にどのよう影響があるかはわかりません。」
「え、どういうことですか?」
「死にいたることはありませんが、意識不明の重体になったり、二度と歩けない体になったり、精神崩壊してしまったり、人格がうしなわれてしまったりするかもしれないということです。それでも元に戻しますか?」
「はい!戻してください、お願いします。」
佐々木は店員の問いに即答した。
「かしこまりました。では、目をつぶってください。」
店員は佐々木の額に手を当てた。しばらくしたのち店員が手を離すと佐々木は泣き崩れた。
(何してたんだろう、私、バカだ。好きな人を親友に取られただけで記憶を消すなんてバカだ。・・バカだ。・・バカだ。)
「お客様、大丈夫ですか?」
店員は佐々木に手を差し伸べ、立ち上がらせた。
「す、すみません。・・・あ、えっと、お金払わなきゃですよね。」
「いえ、とっくにもらっていますので気にしないでください。」
「え、でも・・。」
「それより急がれているのではないのですか?」
「あ!そうでした。すみませんでした。ご迷惑をおかけしました。」
佐々木はそう言うと、店を出て行った。
「やっぱり、こういう結果になったか。予想通りだな。」
「なんであの客に嘘言ったんだ。」
店の奥から別の男の声が聞こえた。
「なんだ、ヤナ、いたのか。」
「失礼な!最初からいたわ!」
「で、なんだっけ?」
「だから、なんで嘘言ったんだってきいたんだ。」
「嘘ってなんのことだ?」
「記憶の消去や復元に、肉体的にも精神的にも影響ないだろう。なのになんであんなこと言ったんだ?」
「知りたいだけだよ。自分に影響が及ぶかもしれなくても、それでも記憶を戻したがるのかを。」
「ったく、変な奴だな。」
ヤナと呼ばれた男はため息をついた。
「だって、面白いだろ?消したいって言ったのは自分なのに、『やっぱり戻して』なんて言うなんてさ。ったく人間って面白いよな。愚かで浅はかで欲深くてわがままで自分勝手。そんなん人間だけだぜ。俺はそれを観察するためだけにこの仕事してんだぞ。今回も面白いデータが手に入った。これがやりがいなんだよ。俺にとっては、な。」
カランカランとドアのベルが鳴るした。
「おや、客だ。・・・・・いらっしゃいませ。ようこそ、Place of the disappearance(消滅の場所)へ。あなたの記憶を消しますか?」
今までいくつかの小説を書きましたが、こんなに短い話は初めて書きました。なので、ガタガタです。すみません。しかも、心理描写も全くありません。さらに、パッと思いついたのをたった2日ほどでしあげたので構成もひどいと思いますが、もし面白いと感じられたら幸いです。