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フェンデル公爵の動揺


王宮での出仕を終え、日付も変ろうかという頃に屋敷に帰宅したアルフォンスは、身仕度を手早く整え寝室に入った。


そして、思わず開けた扉を閉めそうになった。寝ていると思った可愛い妻が寝台の真ん中で正座をして待っていた。あの日、最大限の理性を駆使して自分を抑え込ませなければならなかった、頼りない薄手の夜着を着て。


「お、お疲れ様でした、アルフォンス様。あの、おかえりなさいませ」


停止していたアルフォンスの思考は、モニカの声でゆっくり動き始めた。


「た、だいま帰りました。モニカ、どうしました?先に寝ているよう伝えたはずですが」


「あ、…。ごめんなさい、あの」


「怒ってはいませんよ。貴方が夜更かしなどして身体を壊したりするのが心配なんです」


「あの…、アルフォンス様にお願いがあって…。アルフォンス様はお疲れでしょうし、嫌なら聞かなかった事にして頂いて欲しいのですが、…今夜は私を、その…抱きしめて寝て欲しいのです」


アルフォンスはついに寝不足が祟って夢を見ているのかと思った。

しかし、後ろで組んだ手を摘まんでみても痛みはあるし、目の前のモニカも消えたりしない。現実には変わりないようだ。


モニカは今日、メーリエ伯爵夫人のお茶会に出席していたはず。メーリエ夫人もその周囲もモニカ姫を昔から可愛がってくれている方たちだ。モニカがいきなりこんな行動に出るようなきっかけが起きる訳がない。

じゃあ、なぜ…?


「アルフォンス様…?」


モニカの声で、自分がかなり考えこんでいたことを知る。

不安そうな顔で自分を見上げるモニカを出来る事なら抱きしめたい。

でもそんな事をしてしまえば、それ以上を望んでしまうし、モニカの心を手に入れる事が出来なくなるのではないか。

公爵夫人として生活していれば、ユリウス殿下と関わる事もないだろうし、その内モニカがまた自分だけを見てくれるようになれば…。自分はもうモニカしか見えないのだから、いつまででも待つつもりだった。


「モニカ、「アルフォンス兄様、…お願い。抱きしめて」


モニカ、誰に何を言われたか分かりませんが、君は何も気にしなくていいんですよ。と続けようとアルフォンスは確かに思っていた。直前までその言葉を吐き出すつもりだったのに、昔のように自分を呼ぶモニカの切なげな声と潤んだ瞳を見てしまえば、アルフォンスの口からは、


「うん…おいで、モニカ」


肯定の言葉しか出てこなかった。


その日から、フェンデル公爵夫人の朝のため息はなくなった。

だが、フェンデル公爵の不眠が更にひどくなったのは言うまでもない。


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