オゼット王国第一王子の事情
最近、友人兼義弟の仕事が遅い。
いや、遅いというのは語弊がある。いつもの速さじゃない。
その優秀さで成人前から王子補佐官を務め、成人後はこれまた優秀に領地を治めるフェンデル公爵。だが、最近の仕事内容だけをみれば一般人に毛が生えた程度。
これは何かあると思って、悪友フロイドを様子見に派遣したが、ニヤニヤするばかり。
「いやー、これはシスコン王子セイン様の耳には入れない方がいいんじゃないかなー?」
フロイドは勘違いをしている。俺は別にシスコンじゃないし、可愛い妹モニカと友人アルフォンスの結婚を祝福している。
ただ、もう一人の妹エリスは嫁いで他国に行ってしまうし、モニカはまだ18になったばかりなのに結婚して城を出て行った。しかも相手は、昔からモニカの事になるとその優秀さがどこかに飛んでいくアルフォンスである。
妹二人が結婚し、同年のアルフォンスが身を固め、いよいよ周囲のじじい共が第一王子であり次期国王セインに結婚を迫ってきて鬱陶しい。アルフォンスばかりいい思いをするのは不公平だし、どうせ両想いなんだから少しくらい拗れてればいーなーと思ってたら…
「あの、セイン兄様。お兄様はアルフォンス様と仲が良いから…、その、アルフォンス様の好きな方を…いえ、好きなタイプを教えて下さい」
予想以上に拗れてる!
視察で近くを訪れたメーリエ伯爵邸で開かれている夫人のお茶会に、モニカが出席していると聞き足を伸ばしてみれば、思わぬ収穫があった。夫人方が気を利かせてくれ、久しぶりの兄妹水入らずの会話を楽しんでいたが、アルフォンスの話しになると思い詰めた表情をするモニカを少しつついたら、これだ。
真面目に答えるなら、好きな人はモニカ、好きなタイプはモニカ、だろう。
だてに長い付き合いじゃない。この手のアルフォンスの思考には100%の自信がある。
まぁモニカが何か勘違いをしている事は容易に想像がつく。どうしてそんな勘違いが出来るのかは不明だが…。アルフォンスはそれに振り回されてる訳か…。
…あー面白い!可愛いモニカが悲しい顔をしているのは辛いけど、それは勘違いだし、あのアルフォンスが大好きなモニカを前に手も出せないとか!
でも、モニカを悲しませるのはやっぱり本意じゃないしな。
「可愛いモニカ。兄様から言えるのは一つだけだよ、今夜……、」
セインの予想には一つ、誤りがあった。勘違いをしているのはモニカだけでなく、アルフォンスもであることを。
この誤りがさらなる苦難をアルフォンスにもたらすとは、この時は知る由もない。