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フェンデル公爵夫人の事情

ついに書いてしまった!よければ感想お待ちしてます。

幼いころから、何をやっても上手く出来なくて、すぐに諦めてきた私だけど、ひとつだけどうしても譲れないものがあった。




『今日から、僕とモニカは許婚になるんだって』


『いいなずけ…?』


『うん、モニカは大きくなったら僕の花嫁さんになるの。ずーっと一緒ってことだよ』


『いっしょ!わたしアルフォンス兄様と一緒がいい!』


『僕もモニカとずっと一緒にいたいな。大人になったら僕と結婚してね』


『うん!』






ーー大好きなアルフォンス兄様の、花嫁になること。




「では、行ってきます。今日は少し遅くなるかもしれないので、夕食は先に済ませて下さいね」


「はい、アルフォンス様。いってらっしゃいませ…」



新妻が、出仕する旦那様を見送る。ここ1カ月フェンデル公爵邸では同じような朝が繰り返されており、周囲に控える使用人たちもこの新婚夫婦を微笑ましく見守っていた。



「奥様、いつまでもこのような場所に居ては冷えます。お部屋に戻りましょう」



主人が馬車に乗り込み、その姿が見えなくなっても、新妻モニカはしばらくその場を離れない。こちらも恒例となった状況に、使用人たちは苦笑いをこぼす。


この新婚夫婦は幼いころからの許婚である。使用人たちは、2人がやっと結ばれた幸せを噛みしめているのだと温かく見守っているのだ。




周囲がそのように自分たちを見ている事をモニカは十分に承知していた。


そして、それが事実と違う事も痛いほど分かっていた。




モニカは小さなころからアルフォンスだけを思い、そして花嫁になりアルフォンスの側でずっと生きていくのだと信じてこの18年を過ごしてきた。


そして、アルフォンスも少なからず自分との未来を考えてくれているのだと。


しかし、その考えが違っていた事に気付かされたのはモニカの18歳の誕生日、成人を迎え、アルフォンスとの挙式を半年後に控えた日のことだった。




アルフォンスは18歳の成人を迎えた頃より、父親から本格的に公爵としての仕事を引き継ぐため、領地に戻り忙しい日々を送っていた。


当時10歳であったモニカは、オゼット王国第二王女であり、王宮外に簡単に出ることはできず、アルフォンスとは時折手紙を交わすのみの交流であった。幼いころから、ずっと側に居たアルフォンスと会えなくなる事は寂しかったが、手紙はいつもモニカを思う言葉で溢れており、季節の折やモニカの誕生日には手土産を持ってモニカに会いに来てくれた。モニカの心は、いつでもアルフォンスでいっぱいだったし、アルフォンスの心の片隅にでも自分がいるのだと信じさせてくれた。




「モニカ様も18歳か。エリス様とまでは言わないけど、さすがあの陛下達の御息女というべきか。今日は特別美しいな」


自分の成人の誕生日、王宮内で大々的に開かれた夜会は、兄や姉と違って内気な自分には苦手なものでしかないけど、侍女たちに特別に可愛く結ってもらった髪も、いつもより大人っぽいデザインのドレスも恥ずかしいけど、でも、何よりアルフォンス様に見て欲しくて。その思いで、アルフォンスを探していた時に耳に入ったのは、アルフォンスに話しかけているアボット子爵の声だった。


自分を褒める声に顔が少し紅潮する。エリス様、とはガーランド帝国に嫁がれた姉の事である。自分と違って何をやっても1番の、憧れの姉。まるで美の象徴である姉と比べられる事は、おこがましい気がするけど、アルフォンスの返答が気になって、そのままはしたないとは思いつつも盗み聞きしてしまう。




「…そうだろうか?彼女はまだ子供だ」




心臓が止まったかと思った。その言葉にも、その言葉を吐き出す声の冷たさにも。


「おいおい、自分の婚約者だろう?」


呆れたように言うアボット子爵に、アルフォンス様は氷の様な冷たい声で言う。


「我々の結婚は幼いころから決まっているものだ。そこに恋だの愛だのはないし、たとえ他に思い人がいても、自分たちは結婚する。これは決定事項だ」




気付いた時にはモニカは自分の部屋に居た。どうやってあの場から抜け出したのか全く記憶にない。それなのに、アルフォンスの言葉だけははっきり覚えている。


…アルフォンスには思い人がいるのだろうか?私との結婚をやめたいけど、父である国王やアルフォンスの父である前公爵の決めた事を覆す事も出来ず、渋々結婚をしようとしているのだろうか?


涙が止まらなかった。

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