紙袋をかぶって 2
紙袋をかぶって日々を過ごしているみいちゃん。そんな彼女の前に転入生が現われて…
みいちゃんは幼稚園生にしてはちょっと屈折してる。
無理もない、弱冠四歳にして自分がブスである事を認めてしまっ
たのだ。
多分、この齢でそんな風に思ってるコはあまりいないだろう。
最近のみいちゃんは、口数も少ない。お友達が 遊ぼうって誘っ
てくれても あとで って一人でいることが多い。
みいちゃんはこのところ、心の中で紙袋をかぶってる。
それは彼女が決めたこと。そうすることで彼女は自分を守ってい
るのだ。
***
ある日、みいちゃんのクラスに編入生がやってきた。
「はい、新しいお友達ですよ。じゃ、美子ちゃん、自己紹介をお願い
ね」
担任のゆっこ先生が、先生の隣に立ってる女の子を促した。
みいちゃんは机の上に顔を突っ伏して、音だけを聞いていた。みい
ちゃんの最近のスタイルだ。
「どうも! わたしは親の仕事の関係でこの町に引っ越してきまし
た。名前は美子、美しい子と書いて「よしこ」といいます。あ、こ
こは笑うトコやで」
この言葉で、みいちゃんは顔をあげ、その女の子を初めて見た。
女の子は、周りを見回すとニカッと笑った。少し出た、大きな白
い歯が印象的だ。髪は刈上げの超ショート。色も黒い。目は笑うと
無くなるノッペリ顔。ちょっと見には男の子にも見える。お世辞に
も美人とは言い難い。
みんなもポカーンと彼女をただ見てる。
「なんや、ここらの子は突っ込みはしないんかいな。普通、おいお
い、その顔でか! くらいは言うんやけどな」
エヘン、とひとつ咳払いをすると、美子ちゃんは続けた。
「え~、親の因果が子に報いてなもんで、生まれたわたしは女の子。
ところがギッチョン、この顔や。責めて名前位はというコトで、つ
いた名前が美しいコ。ばってん、ここが大誤算! どうでもよしこ
さん、なら分るけど、この顔にビューティーはあんまりや。それで
もわたしは生きてゆく。希望を持って生きてゆく~、てなもんで、
美しい子と書く美子です。よろしくお願いしま~す!」
一息にそう言うと、ぺこっとお辞儀をする美子ちゃんだ。みんな
が相変わらずポカーンとしている中、ゆっこ先生だけが涙を流して
の大爆笑。やっとの事で落ち着いた先生は
「ああ、面白かった。美子ちゃん、あなたのその口上、慣れている
のね。引越しが多いのかな?」
にこやかな顔でそう訊ねた。
「はいしょっちゅうです。ひととこに一年も居ればいい方です。生
まれは関西やけど、全国回ってますから言葉もグチャグチャ。親か
らも言葉ヘンやでって、いっつも言われてるんです」
美子ちゃんは息を弾ませながら、にこっとした。そんな彼女に
「あなた、その顔でって言ったけど、とってもチャーミングよ。仲
良くしてね」
ゆっこ先生が手を差し出した。美子ちゃんもその手を握り返した。
と、一人の子が突然立ち上がって拍手をした。みいちゃんと仲の
良かったルナちゃんだ。その拍手は段々伝染して行って、やがて教
室中に響いていった。
その時、なぜだか、みいちゃんは美子ちゃんから目が離せなかっ
た。鳴り響く拍手の中、一人だけ身動きも出来ずに、みいちゃんは
美子ちゃんだけを見ていた。
みいちゃんの前に現われた転入生、美子ちゃん。彼女はみいちゃんにとって天の啓示でもあるのだろうか? 3に続きます…