第2話 俺の幼馴染と白雪アリサがこんなに修羅場るわけがない。
今日も陽光が厳しい朝の通学路。
いつもより5分程速く家を出れたこともあって、俺はゆっくりと歩いて登校していた。
いつも走って通り過ぎるため、歩いてると普段見えなかったものがみえるなーとか思っていると、ふいに後ろから無駄にテンション高そうな声が聞こえた。
「あ! はるるんだ! おっはー!」
「......」
なんかすごいあだ名な人が呼ばれてるな。可哀想に。
同情はするが悪いけど無視させてもらう。
「ちょっと!はるるんってば! おっはー!!」
「......」
うっわーこりゃ公開処刑だな。誰か知らんがはるるん、ドンマイだ。
だがしかし同情はするが無視。
「むぅ......えいっ!」
「ぐおあいてぇ!」
いきなり背中に大きい石がぶつかったような鈍痛が走る。
ただ登校していただけの俺を突然理不尽な暴力が襲った瞬間であった。
というか、突然背中に頭突きとか通り魔もびっくりの斬新さだぞ。
「もう! はるるんがあたしのこと無視するからじゃん!」
俺は腰をさすりながらその鈍痛の原因を睨みつける。
当の通り魔(仮)は、むうと頬っぺたを膨らませて俺のことを睨んでくる。
「だから言ってるだろ。その気色の悪い呼び方やめろって」
俺のことをこんなファンシーな呼び方で呼ぶのは、世界は広いと言えどただ一人。
少し控えめに暗い茶髪を、後ろで一つに結わえたポニーテル。
あどけなさを残した、どこか幼さを感じさせる可愛げのある整った顔立ち。
その割にはしっかりと成長しているのが伺えるような、しっかりとした身体の凸凹。
そして純粋無垢にぱっちりと開かれたくりくりした目。
世間でいう、所謂幼馴染の松村涼香だ。
「き、気色悪くないもん! すごくはるるんっぽいしはるるんもはるるんってはるるんて感じでいいと思うでしょ?」
涼香は抗議するような目線で俺に訴えかけてトコトコと間近まで近寄ってくると、意味不明な程にまで速い言葉でまくしたててくる。
「おいなんか早口言葉みたいになってんぞ......もはや噛まないでそこまで言い切れるお前を称えたい気分だ」
ていうか近いぞ。そんな顔近づけなくてもちゃんと聞こえるんだがな。
「へ? 称えるって! そんな、大げさだよはるるん!」
今度は涼香はぷんぷん顔から一転、照れたように頬を赤く染めて両手をぶんぶんと回している。
昨日白雪の氷のような無表情を体感した後だからか、余計こいつの表情がせわしなく見えるな。
「ていうか、お前まじで学校でだけははるるんとか呼ぶなよ?」
俺は脅しをかけるように、ただでさえ細い目を更に細めて涼香を睨む。
学校ではるるんとか呼ばれてみろ。え、はるるん(笑)だってー。マジうけるんですけどー(笑)
とか話題に飢えてる女子どもの格好の餌食になるのは目に見えてる。
そして、女子どもの無駄な情報網を通して俺のあだ名がはるるん(笑)に決まったあかつきには......その先は分かるな?
「ん、そっかー。まあはるるんがそう言うなら仕方ないかー」
しかし意外にもあっさりと断念したのか、涼香はさも残念そうに溜息をついた。
ふうあぶねえ。どうやらさすがにアホの申し子松村涼香でもそこまでは察しがつくらしい。
俺の幼馴染がこんなにアホなわけがない。
俺の安心をよそに、涼香は今度は突然ぱあっ、と何かを閃いたように顔を明るくさせる。
「そだ! それならぱるるにしよっか!」
訂正、俺の幼馴染がこんなにアホで人生が詰むまである。
「アホの子よ、お前が終了させたいのは俺の高校生活かい? それとも人生かい?」
俺は半ば呆れた顔で涼香を指さす。
「どっちも違うし! ていうかアホの子いうなし!」
すると涼香は目を><みたいにしてぽかぽかと俺のことを叩いてくる。
今日も相変わらずのアホさ加減だ。こいつと幼稚園から一緒だって言うんだから俺の忍耐力はノーベル賞ものだろう。
ぽかぽかしてくるのが若干鬱陶しかったので、俺は涼香の首裏の制服の襟を持つと子猫を持ち上げるようにして一歩離れたところへ移動させた。
「ていうか涼香、俺と同じ時間に登校とかこんなことしてる場合か?」
自慢じゃないが遅刻の数では全国上位ランカーな自信がある。
その証拠に、俺の言葉を聞くや否や涼香はびくっと肩を震わせた。
「そ、そうだった! はるるんと一緒に登校することは即ちそれ死を意味する!」
「しねえから! 俺どんな修羅場満載な登校してるんだよ!」
くっ、しまった......俺としたことがつい熱くなって突っ込みを入れてしまった。
俺にこんな突っ込みをさせるのは涼香くらいだ。流石幼馴染だと言っておこう。
「やや、今日もはるるんの突っ込みは鋭いねー!」
涼香はそういってえへへ、と満面の笑みで親指を突き立てる。
俺は不覚にも、その無邪気な仕草に一瞬どきっとしてしまった。
まあこいつ無駄に可愛いんだわなこういう仕草が。
それにこうも素直で単純だと、からかってやりたくなるのが男の性だ。むしろ本能と言ってもいい。
「俺の突っ込みが鋭いのはお前にだけだぞ」
そう言って俺は薄気味悪くニヤリと笑う。
まあそれだけ涼香がアホだってことなんだけどな。さあ怒るがいい怒るがいい!
「へ? 私にだけ......?」
しかし涼香は俺の予想とは裏腹に、ぽっと頬を薄い紅に染めると、目線を逸らして指先同士をつんつんさせ始める。
「なっ......! なんでそこだけ取り出すんだよ!」
しかもなんでちょっと照れてんのこの人! 難聴なの何なの主人公なの?
予想外の反応にこっちまで顔が赤くなっていくのがわかる。
「い、いや! なんでもないなんでもない!」
そこで我に返ったのか、涼香は再びぶんぶんと必死に両手を目の前で振り回す。
こいつは本当に面白いぐらいに表情がころころ変わる。だからずっとみてても飽きないのな。
「ああもうわかったわかった! 遅れるから先行くぞ」
涼香が正常戻るのを待ってるとせっかくの今日の5分のアドバンテージが潰れそうだったので、俺は先に行くことにした。
ていうかなにこの感じ。なんかすげー居づらいというかなんというか。
俺は自分の変に意識したような戸惑った感じを見られないように、涼香に背を向けて先に歩き出した。
ったく長年一緒にいるってのにいちいち反応しちまう自分には呆れるところがある。
「あー! ちょっと待ってよはるるんー!」
さっさと早足で歩く俺の後ろを、ドタドタと忙しそうな足音が追ってくるのが聞こえる。
思わず転んでしまわないか心配になってしまうような、そんな忙しない足取り。
「そっか......あたしだけ、か......」
一瞬ドキッと心臓が飛び跳ねる。
後ろから何か聞こえた気がしたが、気のせいだと自分に言い聞かせると俺は逃げるように歩く速度を速めた。
――――――――――
「あー、腹減ったな」
そう独り呟くと、固まった筋肉を伸ばすようにぐー、と伸びをする。
午前の授業を終えたころには、集中して聞いていたせいもあって俺のお腹はすっかりぺこぺこになっていた。
1時間目は数学だったし、2時間目は......えと、確か国語だったし、3時間目は......まあいいよね。
ふあーと大きなあくびをしつつ手をぐんと上にあげてもう一度伸びをしていると、後ろからちょいちょい、と肩を叩かれた。
「晴人、今日も相変わらずいい寝っぷりだったな」
そういって気持ち悪くニヒヒ、と笑う短髪の爽やか系の青年は篠崎五郎。
出席番号が近いこともあって、俺が高校で初めて話した相手でもある。もちろん涼香を除いて、だが。
「ばっかお前俺がいつ寝てたって言うんだ? 俺ほど真剣に授業受けてる奴いないだろうが」
そんな篠崎に対し、俺はいつものようにテンション低めの声で反論する。
「ああ、確かにお前先生に指名された時いきなり、異議あり! とか言い出したもんな。真剣に聞いてなきゃ異議もでないよなあ」
しかし篠崎は余裕そうな面持ちで笑みを浮かべつつそう切り返した。
「なん......だと? はっ、その手には乗らないぜ篠崎! この俺が寝言なんて言うわけないだろうが!」
「やっぱり寝てたんじゃん」
「?!」
そこで篠崎は勝ち誇ったように気持ち悪くニヒヒと笑う。
こいつなんて巧みな誘導尋問なんだ......! 仕方ない、そちらがその気なら俺も"虚言創造"の力を見せてやるか。
俺はさも自信ありげなようにニヤリと笑い返す。
「甘いな篠崎。俺が言ってるのはNEGOTOという、言うなればザキ系の死の呪文であっておまえの言ってる寝言とは全くの別物だ」
俺の巧みな話術に圧倒されたのか、篠崎の顔が見る見るうちに青ざめていく。
どうやら自分の勘違いが恥ずかしくなってしまったようだな。
「そ、そうか......そりゃあ死の呪文なんて言われたら、困るしな......」
「ああ。お前もNEGOTO違いには気を付けろよ」
「お、おう......」
篠崎はなぜか間が悪そうに視線を逸らして頬を掻いている。
しかしどうやら今回も上手く言いくるめることができたようだ。
まあこうも簡単に騙せてしまうと逆に申し訳なくなってくるところでもあるけど。
「ところで晴人、今日も購買いくよな?」
篠崎は気を取り直したようにそう言うと、机の横にかけてあるカバンからがざごそと財布を取り出した。
「ああもちろん。あそこの焼きそばパン最高だからな」
本当に購買で売っている焼きそばパンは絶品なのである。その証拠に俺はここ一週間焼きそばパンしか食べていない。
しかし、購買には一つ難点があって、
「じゃあ時間やばくね? もうパン売り切れてるかもよ?」
そう言うと篠崎は遠慮がちにあはは......と笑って時計を指さした。
「なに......? うわまじじゃねえか! 急ぐぞ!」
その時計に目をやって時間に驚愕した俺は、どたんと勢いよく机を叩いて立ち上がった。
購買のパンは全校生徒から絶大な人気を誇っており、ものすごい速さで売り切れてしまうのだ。
俺はそう言うのとほぼ同時に全力ダッシュで教室を飛び出した。
そして階段までの廊下で並み居るライバル達を次々に追い抜かすと、通称地獄の坂道階段に差し掛かかった。
なぜ地獄かというと、1年の教室があるここ一階から、購買のある三階まで一気に登らなければならないからだ。
ここでは毎日何人もの死者が出る。足をくじいたり弁慶を段差にぶつけたり、仕舞にはアクロバティックに階段から転げ落ちる奴まで居る。
まあ全部俺だけど。
そんな息を切らせて階段を一段ずつ駆け上がる俺の横を、突然疾風が吹き抜けた。
しかもなんか一瞬すごく見たことある顔が横切った気がしたんだが。
「ここは俺に任せろ、晴人」
階段の上には、いつの間にか篠崎が息も切らさずに悠々として立ち、二階と三階の階段中腹にある狭い踊場にいる俺を見下ろしていた。
ていうかあいつなんで俺より遅く教室出たはずなのに先にいるんだよ。
「お前なんでそんな速いんだよ。それになんでそんな余裕そうなの?」
俺はここまで走っただけで息は切れるし汗はだらだらだし......もう一生走らねえ。
しかし篠崎は、そんな俺をきょとんと不思議そうに眺める。
「そうか? まあ俺はいつも走ってばっかだしよくわかんねえや」
なっ、そうかこいつ確かサッカー部だったよな。
あれだろほら、サッカー部って毎晩ボールと一緒に寝て、ボールは友達! とか見栄張ってるぼっち集団だろ?
......ちなみに過去に好きだった女の子が実はサッカー部の野郎と付き合ってたとかそういう私的な怨念は一切ない。
「まあ、それなら今日のとこは頼むわ」
購買に並ぶのもメンドクサイし、第一もうダッシュする気力も残ってないので俺は遠慮なく篠崎に任せることにした。
やはり持つべきものは友人と言うしな。
「オッケー! 親友の頼みなら俺に任せとけよ!」
篠崎は嫌な顔をするでもなく爽やかにニコッと微笑むと、無邪気にピースをしてくる。
あれ? 篠崎さんってもしかしてイケメンだったのか? さっき気持ち悪いとか言ってすみません。
というかあいつ何がムカつくって顔だけは普通にイケメンなのな。......イケメンなのな。
大事なことだから二回言っといた。
「んじゃ俺さき教室戻ってるわ」
なんか無性にむかついたので、さっさと教室に戻ろうと振り返ったその時
――そこには天使がいた。
「あら、坂道君こんにちは」
訂正。天使の皮を被った悪魔がいた。
「俺は坂道じゃなくて坂口だ」
白雪は二階の階段前から俺を見上げる形で立っていた。
これわざとなのか? いや、流石にそこまでに捻じまがった性格だと思うのも失礼だよな。
当の白雪は無表情のまま両目をぱちくりさせて、不思議そうにこちらを見ている。
「あなた、どうしてそんなに息を切らせているの?」
「ああ、ちょっと走って階段登ってたところだったからな」
それでも俺が一回大きく深呼吸すると、もう呼吸は普段とあまり変わらないまで戻ってきていた。
これもめげずに体育の授業と戦ってきた成果だろう。
「そう。でもあなた坂道は得意ではないの? 名前負けしているわよ」
......喧嘩売ってんのか?
そこまで捻じれてないと信じた僕が馬鹿でした。こいつ完全にひん曲がってやがる。
「うおっ!」
その時、突然俺の手が有無を言わせぬ力でぐいぐいと引っ張られた。
「晴人、ちょっとこい」
「なんだよ篠崎! パンはどうした!」
「パンなんてどうでもいいんだ!」
おいこらさっきの俺の感動返しやがれ。
篠崎は強力な力で俺をずるずる引きずって階段上まで来ると、今度はどんっと俺の肩を力強く掴んだ。
「な、なななんでお前が白雪姫と知り合いなんだよ!」
「は、はあ? おい待て俺には白雪姫なんて知り合いはいないぞ」
「とーぼーけーるーなーよおお!」
「うおお! ちょ、おいやめろって!」
篠崎は半泣きになりながら力いっぱい俺の肩をぐらぐらと揺らしてくる。
なんでこいつはこんなに鬼気迫ってるんだよ!
というか今すぐやめないとそろそろ本格的に俺の肩が外れるぞ!
「さっき話しかけられてたじゃないか! いつ知り合ったんだよ!」
「さっき.....?」
さっき話しかけられたのは白雪アリサだし.....
ん? 待てよ。白雪姫......
「ぶっ!」
俺はようやく篠崎の言ってることを理解して思わずふき出してしまった。
だって白雪だから白雪姫って、ネーミングセンスのかけらもねえだろ。
ていうか姫ってなんだよ。こいつ白雪のファンクラブとか入ってんのか? というか普通にありそうで困る。
「ちょ......ぶふっ......お前、白雪のこと白雪姫って呼んでるのか?」
「はあ?! 晴人、お前白雪姫のこと呼び捨てにしてるのか?!」
「ちょ! おま近い近いっ!」
篠崎は今度は俺の襟元を掴んで頭をぐらぐらと揺らしてきた。
というかなに俺間違ったこと言ってないよね? 白雪姫って呼び方常識的にOUTだよな?
「いいからどうやって知り合ったのか教えろおおお!」
「ぎやあああ! わかった! わかったからやめろ!」
篠崎は俺のことなどお構いなしに何度もぐいぐいと頭を揺らしてくる。
こいつ足だけじゃなくて腕までつええんだけど!
くそ、もうてきとーにその場しのぎの言い逃れで何とかするしかねえ!
「お前が焼きそばパン手に入れたら白雪に紹介してやるから! な? それでいいだろ?」
その言葉を聞いた途端、篠崎の顔がぱあっと明るくなった。
「本当か?! お前天使だな! マイエンジェル晴人たん!」
瞬間、周りにいた人の頬がぴくっと痙攣した気がした。
というか、俺の心臓は痙攣しすぎて心臓麻痺おこすまである。
まだ死にたくないので今のは聞かなかったことにして永遠の闇に葬ろう。
やっと篠崎の拘束から解放された俺は、篠崎に向かってしっしと手を払う。
「ほら、だからさっさと購買いってこいよ」
「おっけー!絶対手に入れる!」
篠崎はやっぱり気持ち悪くニヒヒ、と笑うと疾風のごとく購買に向かって駆けていった。
いくらなんでもイケメン篠崎さんタイム短すぎだろ。やっぱだめだあいつ早く何とかしないと。
ふう、と大きく溜息をつくとどっと疲れが込み上げてきた。
「あ......」
そこでふと階段下を見やると、未だにそこで目をぱちくりさせている白雪と目が合った。
「......あのぉ、やっぱ今の聞いてた?」
「ええ。まあ」
「ですよねぇ......なんかすまん」
友達の気持ち悪さを全力で謝る健気な俺であった。
しかし、白雪は相変わらずの無表情のまましゃべり続ける。
「別に他人に何と呼ばれようと全く気にならないから。心配しないで」
おお! 白雪さんまじ寛大すぎだろ!
これで変態の友達ってレッテルは貼られないで済みそうだ。
というか、この寛大さならもしや......俺は少し小さな声で白雪にしか聞こえないように呟く。
「じゃ、じゃあさ、俺がお前のことアリサって呼んでも気にしなかったりするのか?」
「とても気持ち悪いのでやめてもらえる?」
「すっげえ気にしてるじゃねえか!」
白雪は顔をぴくりとも動かさずに言い放った。
おい何この矛盾! どんだけ俺嫌われてるの?
まあちょっと調子乗ったのは悪いけどさあ......ん? まてよ。それって裏を返せば他人ではないってことじゃ......
いや、流石にそれは楽観的過ぎだろ。むしろそんな発想にたどり着くほど打たれ強い自分に引いたわ。
「今日の放課後、校門の前で待っているわ」
白雪は俺の悶絶を完璧にスルーすると、いつもの無表情でそう告げた。
って、え?
放課後に校門前で待ってるって、おいそれもしかして、で、デートなのか......?
俺は淡い期待を胸に恐る恐る口を開く。
いくら冷たいからって、白雪は見た目だけ見れば超がつくほどの美少女なのだ。そりゃ期待も募る。
「それって......なんで?」
緊張している俺とは裏腹に、きょとんと首を傾げる白雪。
「何故って、決まっているじゃない。約束したでしょう」
ん? 約束って......
しばらく考えると、昨日の白雪との会話のことが思い浮かんだ。
もしやー
「それって吸血鬼探しの手伝いをするってやつか?」
「ええ」
当然とばかりにこくんと頷く白雪。
おいおいまじかよ。
あれってやっぱ本気だったのな。
というか吸血鬼とかほんとにいるのか? 大体仮にいたとしてもなんで白雪みたいな奴が戦うんだ?
疑問は山ほどあるし、何よりすげー面倒くさそうだけど約束は約束だからなー。取りあえずは行っといたほうがいいか。
どうせやっぱりいませんでした私の勘違いですすみませんーですぐ終わるだろ。
補習から何も学んでない俺であった。
「へえへえわかりました行きますよ」
俺はわざとらしく大きなためいきをついて見せたが、白雪は全く気にする様子もなく口を開く。
「それじゃあ、放課後に校門前で――」
「あーはるるん! 今日一緒に帰ろ! って......え?」
白雪が言い終わるかどうかのタイミングで、後ろから聞き慣れた声がかけられた。
「......はるるん。そのすーっっごく綺麗な人、だれっ!」
振り返ると、何故かすごく頬を膨らませてご立腹な様子の涼香が立っていた。