大罪館
帰り道、リナリアは急に耳鳴りに襲われた。
「ぐうっ・・・!」
照明の技術がそれほど進んでないギルバート王国では、夜になると人の通りは殆ど無い。無人の通路で、リナリアは倒れこんだ。
吐き気ならともかく、耳鳴りともなるとリナリアもアニマたちを疑うことはしなかった。しかし、異常なほど長くつらい耳鳴りに顔を歪めた。
「ッ・・・!」
うずくまるリナリアに、近づいていく影があった。
「・・・」
レヴィが、静かにリナリアを見下ろしていた。リナリアは耳鳴りのせいでそれに気付いていない。
「すいません、これも任務なので・・・」
レヴィの振り下ろした手刀が、リナリアの首筋に直撃した。
「ッ、かはっ・・・」
倒れたリナリアから緑色の光が飛び出して、地面で蛇へと変化した。
「ありがとうございます、ヴァミちゃん」
「キシャァー!」
レヴィは軽々とリナリアを担ぎ、何処かへと消えていった。
「どういうことですか・・・? 悪魔って」
「微弱だけど、リナリアに悪魔と同じ気配がしたの。でも、見るからに悪魔ではないでしょう? ということは、悪魔が憑依しているか忍びこんで居るのが有力よ」
「つまり、確かめるために呼んだということですか?」
「そう、結論は悪魔が忍びこんでいる、ということよ」
「なら、何故知らせなかったのですか? 対策はあったでしょう」
「・・・様子を見ましょう」
「わかりました・・・」
類は後々後悔する。ここで、主君の意見に反対してでもリナリアの下へ向かうべきだと。
事件は翌日起きる。
「ぐおぉおおおー・・・」
職員室での臨時会議中、臨時教師であるルナドは医務室でイビキをかいて寝ていた。
医務室のベッドのカーテンを力強く引きながら、養護教諭が女らしからぬ声で叫んだ。
「・・・五月蝿い! 少しくらい静かに寝れないのか!?」
「あぁ!? だぁ、五月蝿いな」
「五月蝿いのはどっちだ! 寝るのは良いが、私の邪魔をしないでもらえるか!?」
「お前・・・普段利口なだけに怒ると怖いな」
「黙れ。さっきだって、突然変な仮面引っさげて転がり込んできたくせに」
「まあまあ」
そう言ってルナドはもう一度横になった。
「俺は生憎夜行性じゃないんだ。夜には眠くなる」
「じゃあ帰れ」
「・・・サディストめ、生徒の前ではネコかぶりやがって」
「生徒の前でネコをかぶっているのではない、お前の前できつくしているのだ」
「・・・」
ルナドは諦め、眠りに落ちた。
「ベルゼ、連れてきましたよ」
「ご苦労様。褒美です」
「おぉ!」
ベルゼの投げたキャンディを猫のようにキャッチすると同時に、気絶したリナリアをベルゼが抱える。
「最後の材料ですね・・・生きた人間」
「それでは、あたいは番の仕事に戻りますね」
レヴィは飴玉を口に放り込んだ。
「お願いしますよ、異空間とはいえ何が迷い込むかわかりませんからね」
ベルゼはリナリアを抱えて薄暗い館の中へ向かった。
館の表札には、【大罪館】と彫られていた。