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吸血執事と懐中時計  作者: 王星遥
東方編
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吸血鬼化

 類とアニマは、アニマの自室でテーブルを挟んで座った。

「貴方の・・・魔力のことねえ」

「そうです。口で説明するより前に、見せたほうが早いでしょう」

「?」

「これを持っていて下さい」

 類はクロロから受け継いだ懐中時計を、アニマに差し出した。アニマはそれをテーブルから拾い上げ、手の中に収めた。

「これを?」

「僕は能力を発動するために、その懐中時計に溜め込んだお嬢様の魔力を消費します」

「ええ」

「ですが、今の僕は・・・と、いうことです」

 懐中時計はアニマの手の中から消え、類の手元にあった。

「先日の侵略事件以降体の調子がいやに良く、もしやと思い能力を使ってみたのですが・・・この通り」

「なるほど、珍しいことではないわ。人と吸血鬼の狭間に居た貴方が、何かのきっかけで吸血鬼に傾き始めてるのよ。心当たりは? 例えば、なにか自分の意志に反して体が動いたこととか」

「きっかけ・・・まさか」

 類は、先日紅子の首筋に無意識に噛み付いたことを思い出した。

「妖怪の血を、吸いました。無意識に」

「妖気に惹かれ、無意識の内に噛み付いていた。そんなところかしらね。妖気を含む妖怪の血液、元々ある貴方の血液、あの日輸血した私の血液・・・今の貴方には三種の血液が流れているわ。その中でも異質な、妖怪の血液に含まれる妖気が、魔力を留めることが出来なかった貴方に魔力を閉じ込める器を作ってしまった」

「妖気が・・・」

「貴方の中の吸血鬼の血が、本能的にそれを悟って無意識で吸血を始めたのでしょう。今貴方が吸血鬼になることを望んでいるならば、これは喜ばしいことよ。でも、貴方が人間に戻りたいと願うならその願いは諦めたほうがいいわ。妖気は人間にとっては毒素のような物。仮に人間に戻ったとして、器があるかぎり貴方は蝕まれ続ける」

「僕は、人間でも吸血鬼でも良いです。どうでも。僕は、お嬢様を守り、お嬢様の側に居られれば」

「・・・それでも、いつか選択する時が来るわ。まあ、貴方は困らなそうだけど」

「魔力を自由に使えるのは、現状では好都合です。立て続けに二件もの、人外による事件が起きていますし、緊急事態には能力も必要になるでしょう」

「そうね。貴方には、頼ってるからね」

「では、失礼します」

 部屋を出た類は、自室へ戻るべく廊下を歩いていた。すると、廊下の奥からリナリアが駆け寄って類に話しかけた。

「類さん、先刻神菜子さんが探していましたよ? なんか、先日の事件関連で教えたいことがあると・・・」

「そうですか」

「多分、今は自室に居ると思います。私と話した時に、すでに若干諦めてましたから」

 それを聞くと、類は神菜子の自室へと向かった。

 類は扉をノックしながら、部屋の主に名乗った。

「零草、類です」

「あ、類!?」

 勢い良く開いた外開きの扉を類は軽く避けると、神菜子に問いかけた。

「何か、話があるそうですね」

「そう! そうなのよ! これを見て」

 神菜子は、手に持った外国語の本を差し出した。

「私も、日の本の国の言語を読むことは出来るわ。ここの絵、十二支っていう東方の国で使われている時間の単位の一種なんだけど、数を見て」

「十二・・・ですね」

「今回ギルバートを侵略しにきた十二支罪国組も、名前の通り十二人。でも、卯鷺は逃亡して残りは十一人。そこになゆたも含めると、十二人が居ないといけないのよ」

「・・・それが、どうしたんです?」

「気付かない? この間吸血館に集まって、帰って行ったのは十一人なの!」

「あ・・・」

 もう一人の存在に気付き、類は口を開けた。

「まさか、まだこの国の中に・・・」






「『退屈だねぇ、この国は』」

 明は、吸血館の屋根の上でキセルを咥えて呟いた。

「『でも、いつか面白くなりそうだ。いや、すぐに。しばらくは留まらせて貰うよ』」

 明の体が黒い炎に包まれ、何処かへ消えた。






「・・・足りないのは、未の人のようですね」

「うーん、探したほうが良いのかな?」

「ですが、ずっと姿を見せないというのはどういうことでしょうか」

「さあ?」

「とにかく、今は様子を見たほうがいいでしょう。仮に危害を加えてくるようなことがあれば、容赦はしませんが」

 類はそう言うと本を返し、自室へと向かった。

 吸血鬼へと傾きつつある中、類は懐中時計を弄りながら呟いた。

「僕の仲間を傷付けるなら、誰であろうと・・・」

 廊下に、懐中時計が閉じる音が一瞬だけ響いた。

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