巨大兎の角
「消えた・・・」
口元の血を拭いながら、ベルゼは呟いた。
「・・・食欲をそそられる、大きな兎ですね」
鬼に代わって現れた卯鷺を遠目に見上げながらベルゼは呟き、卯鷺に背を向けた。
「あとは、任せましょう。僕は一先ずルシファニーに報告ですかね」
ベルゼは黒い霧に包まれて消えた。
「・・・鬼が消えた? 人形すら?」
「こりゃ、でけえ卯鷺だこと」
「アリオスさん、そんな悠長なこと言ってられませんよ」
「いや、お前が一番悠長! お前この状況わかってるのか!?」
「類! 避け・・・」
離れていた千雨と逃げていく神菜子とマモーネを知り目に、アリオスと類は振り下ろされる卯鷺の腕を見上げていた。
「そういえば、名前を聞いてなかったな。アニマ嬢の執事」
「八草類です」
「類、か。君はこの状況をどう見る。巨大な相手に、これといった兵器もない。勝てると思うか」
「勝ちます」
「・・・良いね、四年前の俺みたいだ」
「?」
「こいつは俺が止める。見た感じこいつは鬼の妖気や魂を吸収している。なら、どこかに弱点である角もあるはずだ。そいつを探してへし折ってくれ」
「了解」
類が卯鷺の足に向かって走りだすと同時に、アリオスが大鎌を振りかざした。
「切り刻め、【デスサイズ】!」
大鎌から複数の風の刃が飛び、卯鷺の振り下ろした右腕を切り刻んだ。
『~~~~!!』
声とも鳴き声ともつかない悲鳴をあげた卯鷺の右腕からは、血の代わりに鬼を倒した時と同じ紙が落ちていた。
「はぁああああ!」
類は卯鷺の足元から強く飛び上がると、翼をひろげて大きく羽ばたいた。
「角はどの鬼も頭にあった。なら!」
類は更に羽ばたくと、卯鷺の顔の目の前を飛び頭上へと降りた。
卯鷺は右腕を抑えて暴れていて立っているのがやっとだったが、類は這うように角を探した。
「どこに・・・」
その時、左腕が類を手探った。類は手持ちのナイフを投げつけたが、簡単に跳ね返されてしまった。
「くっ、早く探さないと・・・! あった!」
卯鷺の後頭部にあたる部分に、角はあった。類はダガーナイフを構え、振り下ろした。が、
「硬っ・・・」
『ウガァアアア!』
卯鷺が大きく頭を振り、類を振り下ろそうとしたが、類は毛を掴んで耐えた。
「硬くて、ヒビどころか破片すら・・・」
その様子を見て、千雨が叫んだ。
「そうだ! 卯鷺が鬼を吸収したのなら、その鬼の力を抑えれば・・・」
そう言って千雨は、卯鷺の居た空き家へと入っていった。
「『寅! 丑屋!』」
「『子子丸・・・寅、いえ、牙が!』」
「『そうか、寅は卯鷺の付けた名前だったか。どうしたんだ』」
「『目を、覚まさないの。アレだけの鬼を召喚すれば、妖力は既に空のはずなのに・・・私のせいで・・・』」
横たわる牙の顔色は良いとは言えなかったが、生きてはいた。
「『くそっ! 召喚者であるこいつが術を解かないと、吸収された鬼の力は利用され続けちまう! どうすれば・・・』」
「『・・・私の呪術奥義なら、鬼を無力化出来る・・・』」
「『! 本当か?』」
「『でも、この術はこの子と連携してようやく安定する程度。私じゃ直接卯鷺に発動することが出来ない』」
「『なら、この刀に術をかけろ。この刀はありとあらゆる呪術を纏い、その身には影響を受けない。この刀に纏わせたお前の呪術を、俺が叩きつけてくる』」
「『・・・分かったわ』」
黄色い光が千雨の刀を包み、刀自体が黄色く光り始めた。
「『私は、此処で牙の様子をみる。私ではどうすることも出来ないけど、もしもこの騒ぎが落ち着いても牙が目覚めなかったら、どんなことをしてでも助けてみせる』」
「『なら、さっさと終わらせて牙を医者の所でもどこでも連れて行く。卯鷺に騙されてたとはいえ、一緒に戦った仲だしな!』」
千雨は輝く刀を携えて、走りだした。




