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吸血執事と懐中時計  作者: 王星遥
東方編
63/67

巨大兎の角

「消えた・・・」

 口元の血を拭いながら、ベルゼは呟いた。

「・・・食欲をそそられる、大きな兎ですね」

 鬼に代わって現れた卯鷺を遠目に見上げながらベルゼは呟き、卯鷺に背を向けた。

「あとは、任せましょう。僕は一先ずルシファニーに報告ですかね」

 ベルゼは黒い霧に包まれて消えた。






「・・・鬼が消えた? 人形すら?」

「こりゃ、でけえ卯鷺だこと」

「アリオスさん、そんな悠長なこと言ってられませんよ」

「いや、お前が一番悠長! お前この状況わかってるのか!?」

「類! 避け・・・」

 離れていた千雨と逃げていく神菜子とマモーネを知り目に、アリオスと類は振り下ろされる卯鷺の腕を見上げていた。

「そういえば、名前を聞いてなかったな。アニマ嬢の執事」

「八草類です」

「類、か。君はこの状況をどう見る。巨大な相手に、これといった兵器もない。勝てると思うか」

「勝ちます」

「・・・良いね、四年前の俺みたいだ」

「?」

「こいつは俺が止める。見た感じこいつは鬼の妖気や魂を吸収している。なら、どこかに弱点である角もあるはずだ。そいつを探してへし折ってくれ」

「了解」

 類が卯鷺の足に向かって走りだすと同時に、アリオスが大鎌を振りかざした。

「切り刻め、【デスサイズ】!」

 大鎌から複数の風の刃が飛び、卯鷺の振り下ろした右腕を切り刻んだ。

『~~~~!!』

 声とも鳴き声ともつかない悲鳴をあげた卯鷺の右腕からは、血の代わりに鬼を倒した時と同じ紙が落ちていた。

「はぁああああ!」

 類は卯鷺の足元から強く飛び上がると、翼をひろげて大きく羽ばたいた。

「角はどの鬼も頭にあった。なら!」

 類は更に羽ばたくと、卯鷺の顔の目の前を飛び頭上へと降りた。

 卯鷺は右腕を抑えて暴れていて立っているのがやっとだったが、類は這うように角を探した。

「どこに・・・」

 その時、左腕が類を手探った。類は手持ちのナイフを投げつけたが、簡単に跳ね返されてしまった。

「くっ、早く探さないと・・・! あった!」

 卯鷺の後頭部にあたる部分に、角はあった。類はダガーナイフを構え、振り下ろした。が、

「硬っ・・・」

『ウガァアアア!』

 卯鷺が大きく頭を振り、類を振り下ろそうとしたが、類は毛を掴んで耐えた。

「硬くて、ヒビどころか破片すら・・・」

 その様子を見て、千雨が叫んだ。

「そうだ! 卯鷺が鬼を吸収したのなら、その鬼の力を抑えれば・・・」

 そう言って千雨は、卯鷺の居た空き家へと入っていった。

「『寅! 丑屋!』」

「『子子丸・・・寅、いえ、牙が!』」

「『そうか、寅は卯鷺の付けた名前だったか。どうしたんだ』」

「『目を、覚まさないの。アレだけの鬼を召喚すれば、妖力は既に空のはずなのに・・・私のせいで・・・』」

 横たわる牙の顔色は良いとは言えなかったが、生きてはいた。

「『くそっ! 召喚者であるこいつが術を解かないと、吸収された鬼の力は利用され続けちまう! どうすれば・・・』」

「『・・・私の呪術奥義なら、鬼を無力化出来る・・・』」

「『! 本当か?』」

「『でも、この術はこの子と連携してようやく安定する程度。私じゃ直接卯鷺に発動することが出来ない』」

「『なら、この刀に術をかけろ。この刀はありとあらゆる呪術を纏い、その身には影響を受けない。この刀に纏わせたお前の呪術を、俺が叩きつけてくる』」

「『・・・分かったわ』」

 黄色い光が千雨の刀を包み、刀自体が黄色く光り始めた。

「『私は、此処で牙の様子をみる。私ではどうすることも出来ないけど、もしもこの騒ぎが落ち着いても牙が目覚めなかったら、どんなことをしてでも助けてみせる』」

「『なら、さっさと終わらせて牙を医者の所でもどこでも連れて行く。卯鷺に騙されてたとはいえ、一緒に戦った仲だしな!』」

 千雨は輝く刀を携えて、走りだした。

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