シェイドコンサート
「ど、どういうことですか・・・?」
「あ、いや、その・・・」
類は焦っていた。人間の目の前で、姿を変えてしまった。
「こ、これはですね・・・」
「もしかして、悪魔・・・?」
「あ、いえ! それは断じて違います!」
「そ、そうですか」
「零草・・・どうしよう」
「・・・知らない」
神菜子は、顔を抑えて溜め息をついていた。既に、諦めている様子だった。
類は、慌てふためきながらリナリアへの説明を考えていた。その時だ。
『私が教えてあげましょうか?』
「!?」
『私よ、私。って、見えなかったわね』
「お嬢様・・・隠れてるくせに、隠す気ありませんね」
『くせに、って言ったわね。まあ良いわ。貴女、名前は?』
「え、リナリアです」
『都合上姿は隠れてるけど、私は吸血館の主のアニマよ』
「は、はい」
「お嬢様、まさか説明するんですか?」
『見られちゃったものはどうしようもないでしょう。じゃあ、何処から説明しましょうかね。私達の正体から・・・話そうかしら』
「お、お願いします!」
「お嬢様・・・」
一呼吸を置いて、アニマが話し始めた。
『私と類は中級魔族の頂点、吸血鬼よ』
「きゅ、吸血鬼・・・?」
『ええ、そうよ』
「ほ、本当ですか・・・?」
『なら、見せてあげましょうか』
地面から、真っ黒な人影が浮き出た。
『こんにちは、なんてね』
アニマの声に合わせて、人影がお辞儀する。
『吸血鬼を含む全魔族には、人間にはない特殊な力があるの。私の場合は、この影を操る能力【シェイドコンサート】よ』
「・・・ッ」
『驚いて声も出ないかしら?』
「お嬢様、脅かしすぎです。もう少しましな方法は・・・」
「す、すごい・・・」
「え?」
「か、感激です! 私、吸血鬼に会うことが夢だったんです!」
「・・・はい?」
「へ?」
『は?』
「実は、私オカルトマニアで・・・吸血鬼とか狼男とかに会ってみたかったんです」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、リナリアは話した。
『そ、そう・・・』
「友達にも内緒なんです・・・私がオカルトマニアなのは」
「そうですか・・・! そうだ!」
類は、何かを思いついたように手を合わせた。
「リナリアさん、取引をしませんか?」
「え?」
「僕は、自分が吸血鬼だということを周囲にバレたくありません。僕に人を襲う気はありませんが、半信半疑でも僕の事を吸血鬼だと考える人は僕を避けることになるでしょう」
「はい」
「それに対してリナリアさんは、自分の趣味を友だちにも内緒にしてる」
「ま、まさか・・・」
「僕達は貴女の趣味のことを周囲にはばらしません。代わりに、僕の正体のことも他言無用でお願いします」
「ぜ、絶対に言いません! ですので、本当にバラさないで下さい!」
「はい、約束します」
「類・・・貴方悪者に見えるわよ」
「悪者で構いません」
『まあ、そういうことだから黙っててね。類が怒ると、私でも手がつけられないから』
「さて、お嬢様帰りますか」
『そうね。めんどくさいから、先帰るわよ』
「じゃあ、それでいいです」
「え、帰っちゃうんですか?」
「え?」
「わ、私だけじゃ皆運べないので・・・」
「放っておいたら起きるわよ。先刻の人だってそうだったし」
「そうですけど・・・」
『それに、私達が手伝う義理はないわ』
「う・・・」
「では、さようなら」
三人は、そのまま帰っていった。
「ふぁあ・・・眠りから覚めてみれば、なんだこれ」
「あ、ルナド先生」
「まあ、良い。俺が運ぶから、お前は誰か起きないか此処で見てろ」
「あ、はい」
医務室は倒れた生徒でいっぱいになった。