呪縛完全解除
(違う、これは、私の記憶と違う。なんで、あいつが・・・子子丸が、父上と笑って話してる? 子子丸が父上を殺したのに、違う、子子丸は、父上は、私は、千雨は、・・・誰? 貴女は誰。なんで、私の父上に、そんな顔をするの。違う、私の記憶と違う、違う、違う、父上を殺したのは・・・)
「・・・蝶蛾羽」
なゆたの背中にも、数個の文字が纏われていた。
「類!? 何を・・・」
「あぁ、・・・くっ・・・ぁ」
もがく紅子の首筋から類は口を離した。倒れこむ紅子を抱きかかえ、地面にゆっくりと下ろした。
「『すいません、園咲さん』」
「類、なんで突然」
「いえ・・・今、急激に魔力が抜けて、本能的に動いてしまいました・・・」
「それって・・・」
「自分でも、分かりません」
「『う、ん・・・』」
「『僕は吸血鬼として不完全。吸血しても、相手を吸血鬼に変えることは出来ません。驚かせてしまいました。申し訳ありません』」
「『いや、私も、貴方達を、傷つけた。この程度で、済むなら』」
紅子は首筋を抑えながら立ち上がり、三人に呼びかけた。
「『先刻、私と、共に、貴方達を、攻撃した、【笹原紫】は、次出会っても、貴方達の、味方だから、攻撃しないで、欲しい』」
「『分かりました』」
その時だった。空から降り注いだ無数の文字が紅子を包んだ。
「な、何!?」
「『これは、巳城、いや、珂礼の・・・うっ!』」
紅子はその場に倒れこんだ。
「『園咲さん!』」
「『大丈夫。珂礼の、能力は、記憶の復元。書き換えたり、危害を、加えたりは、出来無い筈』」
その様子を見ていた神菜子の背に、文字が張り付いた。神菜子は少し身震いをして、文字を振り払った。が、神菜子は何かを思い出したように一瞬顔を強張らせた。
「・・・」
紅子を包んでいた文字が消えると、紅子が呟いた。
「『そうだ・・・卯鷺の、居場所を、思い出した』」
「『本当か!?』」
「『付いて来て、下さい』」
紅子が歩き出すと同時に、三人も歩き出した。
目指すはミレディア。首謀者の所在地だ。
アリスに振り下ろされた鬼神の腕は、アリスの体に触れること無く止められた。
「・・・?」
「全く、珂礼の奴、思い出したくないことまで思い出させてくれやがったぜ。めんどくせえ」
「お、お前は・・・」
「俺の名前は【灰坂千雨】。すぐに離れろ。巻き込むぞ」
「ムイラク語!? 貴方、この国の言語が話せるの?」
「だぁもう、うるせえ女だな。早く離れろってんだ」
千雨は、今までとは打って変わった口調でアリスを一蹴した。
『そこをどけ、灰ヶ崎子子丸!』
「『そこをどけ、だぁ? 誰に口を利いているんだてめえは。少し、お灸を据える必要が有りそうだな』」
鬼を抑えるのに使っていた刀を持ち替えると、千雨は自分の右手の親指を噛んだ。
「金生水。お前、水の鬼だろう。残念だったな、俺とは相性が悪かったようだな」
千雨は右手で刀を掴むと、一気に鬼神を真っ二つに切り裂いた。
『な、んと・・・!?』
「滅」
鬼神の身体が一瞬にして水泡となった。
「さて、悪い夢、で終わればどれだけマシか」
「あんた、一体・・・」
「あー・・・説明必要か?」
「必要。侵略者に助けられたんじゃ、カッコつかないし」
「なら、移動しながらだ。言い訳は動きながらでも出来るだろう」
「移動? 何処へ」
「お前さんも行きたいだろうさ。なにせ、あんたの言う侵略者の総大将のところだ」
「!」
千雨は歩き出し、少ししたあと振り向いた。
「『なゆた』」
「『・・・』」
「『行こう。お前の、親父さんの話も・・・』」
「『思い出した』」
「『え?』」
「『父上のことは、全部思い出した。父上を殺したのは、蝶蛾羽』」
「『そうか、お前も思い出したか。兎に角、今はその卯鷺の所へ急ぐ』」
千雨は再び向きを変え、未レディアに向かって走りだした。
「さて、行くよ」
アリスとなゆたも、それに続いて走りだした。




