大罪魔
「なに・・・!?」
野次馬が一斉に倒れたのを見て、類は校舎から飛び降りた。
「何が起きたっ・・・!?」
類は、レヴィの前に飛び出た神菜子に走り寄っていった。
「零草!」
「類! そ、その姿は・・・」
神菜子は、吸血館の使用人の中で唯一アニマと類の正体について知っている人物だ。そのため、類が吸血鬼の姿になっていることが何を意味するかも知っていた。
「何が起きたんですか?」
「分からない。でも、この人・・・何か知ってる」
「ふふふ、知ってるも何も・・・ねえ?」
「何をしたんですか・・・貴女」
「それは・・・」
「レヴィ、余計なことを喋らないで下さい。ただでさえ貴女のツメが甘いせいで、こうやって遅れをとっている」
「・・・すいません」
今まで微動だにしなかった金髪の男が、類の目の前に立った。
「レヴィの処遇はあととして、こうして疑われ、不可抗力とはいえ大勢の人間を無差別に能力の餌食にしては言い逃れのしようはない」
「ッ・・・!」
「しかし、だからなんだというのですか。僕達は悪魔、やろうと思えば簡単にこの学校の人間全員を殺すことも可能なのですよ?」
「なんだって・・・!」
「僕は暴食の大罪魔、【ベルゼ・イーター】。僕は今空腹です。人間のつくる料理程度じゃ僕の腹は膨れない・・・」
「ベルゼ! あたいには余計なこと喋るなっていっておいて・・・ずるいです」
「なにか言いましたか?」
「い、いえ!」
「・・・美味しそうですね」
ベルゼは、腰を抜かして動けなくなっているリナリアを見た。
「ひっ・・・!」
「・・・」
後退りするリナリアに、ベルゼはゆっくりと近づいていった。
「どうせもう街を出るんですから、最後くらい良いでしょう・・・」
「な、なんですか・・・どうして、私・・・」
「頂きます・・・」
「いやぁあああああ!!!」
ベルゼが走りだすと同時に、類がリナリアを抱いて走った。ベルゼの腕が類の背中にかすり、服が引っかかれたように破れた。
「・・・ッ!」
「チッ・・・」
「ベルゼ、一人だけずるいです」
「・・・しょうが無いですね。今日のところは帰りましょう。レヴィ、減給は覚悟してくださいね」
「最初から無いです・・・」
「では、さようなら。また会いましょう・・・」
「待て!」
黒い霧が二人を包み、霧が晴れるとそこに二人の姿はなかった。
「なんなんだ、あの二人は」
「あ、あの・・・そ、そろそろおろして下さい・・・」
「あ、すいません」
顔が真っ赤になっているリナリアを降ろした。
そして、類は人生最大の失敗をしてしまう。
「え・・・! えぇ!?」
「・・・あ」
リナリアの目の前で、人間の姿に戻ってしまったのだ。
「る、類のバカ・・・」
「しまった・・・」
「え、えぇ? あ、さっきの・・・えぇ!?」
しばらく、三人の動きが止まった。
「帰ったか。ベルゼ」
「はい。収穫は大きかったですよ。代わりに、正体がバレてしまいましたが」
薄暗い館で、ベルゼは誰かと話していた。
「その程度問題にはならない。俺たちの目的が果たされれば、この国は俺らのものだ」
「はい。今からレヴィとサタニットが実験を始めます。これで、少しは・・・」
「もう少しだ、もう少しで・・・この国は俺のものだ!」
館内に、男の声が響いた。