暴食の悪魔、再び
「・・・何? 類? 何処?」
「え・・・?」
神菜子が、目の前に居る筈の類を探し始めた。距離的に認識できないはずはなく、類はそれに違和感を感じた。
「なんで? 真っ暗・・・」
「『この娘の、視覚を、遮断した。彼女は、今、自分の姿すら、見えない』」
「なっ・・・」
「『ところで、あの娘は知り合いかい? だとしたら同情するよ。酉居の殺し方は残酷だからね』」
「『なんだって? 零草はそう簡単に殺されない』」
「『どうかな。現にあんたも身動きとれないだろ? 酉居は、私より強い。あの娘は確実に死ぬ』」
「う・・・」
神菜子は、這いつくばるように動いた。しかし、視覚を奪われたことにより向かっている方向は的はずれだった。
「零草!」
「類? 何処?」
「『次は、聴覚』」
酉居が手をかざした。すると、神菜子が耳を抑えてうずくまった。
「あぁ! いぎっ・・・っ!」
「『すぐに、耳鳴りは、消える。そして、何も、聞こえなくなる』」
「『何をした!』」
「『アレが酉居のやり方さ。相手の五感を封じる呪術を使って、相手の恐怖心を煽り、殺す』」
「『外道・・・め』」
「『人じゃない私らに、人間の道を説くのはお門違いさ』」
「『亥威、今から、殺す』」
「『了解』」
酉居は、背中から生えた黒い翼から羽を一枚毟りとった。そして、その羽根を神菜子に向けて投げつけた。羽は付け根の方から神菜子の足に突き刺さった。
「あっ・・・!」
「『彼女は、今、自分の、声以外の、音が、聞こえていない』」
そう言いながら、酉居は何本もの羽を投げ続けた。
「『この羽根は、殺傷能力が、著しく、低い。急所以外では、ほぼ、無駄』」
「痛っ・・・! ひぃ・・・! 類、何処? 何処に居るの?」
「零草!」
類の言葉は、神菜子には届かなかった。
「『最後に、触覚を、遮断。これで、痛みを、忘れて、死ね』」
酉居が羽を神菜子に投げつけた。その瞬間、神菜子の目に光が戻り、それと同時に亥威の右肩がレイピアに貫かれた。
「! アニマ嬢!?」
「あら、アリオスのところのメイドじゃない」
「こっちに、なゆたさんが来ませんでしたか!? 見失ってしまって」
「見てないわよ。私も先刻きたところだから」
「そうですか・・・」
「ところで、先刻の鈴の音聞いた? レトサムから聞こえたのよ」
「レトサム、って・・・随分離れてるじゃないですか!」
「そうなのよ・・・」
その時、再び鈴の音が聞こえた。
「! あっちからね」
「あ、アニマ嬢!」
テレサは、なゆたが鈴の音に反応したことから、鈴の音の聞こえた方へ向かった。
アニマが歩みを止めた。視線の先には、小刀を構えたなゆたと、なゆたに小刀を向けられた灰色の髪の男だった。男は剣らしきものを携えており、キセルを持っていた。
「『お前を殺すために! 私は此処まで来たんだ!』」
「『・・・ご苦労な事だな。無駄な事を』」
「『何を・・・!』」
「あ!」
なゆたは、小刀を持って男に走り寄っていった。男は、鋭い眼光を放ちながらキセルを弄っていた。
「『父上の敵ぃいいいいい!』」
「『・・・つまらん』」
男が振り返った瞬間、男は何かを悟り後ろに飛び退った。
「『・・・誰だ』」
「・・・勘の良い鼠ですね」
「! 貴方は・・・」
アリオスとアリスに加え、もう一人の招かれざる客がそこに居た。
「お久しぶりですね、T。四年ぶりですね」
「ベ・・・ルゼ?」
不機嫌そうなアリオスの横に、不敵な笑みを浮かべ緑色の軍服を着たベルゼが立っていた。




