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吸血執事と懐中時計  作者: 王星遥
東方編
41/67

十二支罪国組

 類は、直ぐ目の前も見えないような嵐の中を走っていた。嵐の中では人に見られる心配もせずに吸血鬼の姿に慣れたことも幸いして、類は吸血鬼の嗅覚を使ってとても弱い館の匂いを追っていた。

「くそっ! 雨が邪魔臭くて、進みにくい・・・!」

 視界が悪く、目の前に壁があるかすら分からないようだった。そんな状況だったからか、類は自身に近づいてきた女に気づかなかった。

「『猪突!』」

「がはっ・・・!?」

 まるで馬車のような速さで突撃してきた女に、類は跳ね飛ばされた。そのまま壁にぶつかり、起き上がる。

「『いやぁ、すまんすまん。よく見えなかったんだ』」

「『・・・貴女、人間じゃありませんね』」

 女の服装は見るからにギルバートの物ではなかった。しかし、それは全く関係なかった。

「『なんだ? 殺る気か?』」

 女の周囲には、不気味な空気が漂っていた。悪魔の魔力とも違うが、死神のように何も感じないわけでもなかったため、人間でないことは分かった。

「『貴女は何者ですか・・・』」

「『私か? ふむ、侵略先で自己紹介というのもおかしな話だが、それも我ららしいか』」

「・・・」

「『私の名は【突田亥威つきた がいい】! 日の本の国から派遣された遣罪使、【十二支罪国組】の一員だ!」

「『遣罪使・・・?』」

「『簡単にいえば、この国を侵略するために派遣された侵略者さ!』」

 亥威は力強く空にむかって叫んだ。その声は、雨の音すらも打ち消し空へ向かった。

「『酉居! 鴉魔の陣だ!』」

 空を、黒い影が動いた。






「さすがに、これ以上はいけないわね」

 日傘を差しながら、アニマは空に浮遊していた。

「・・・ん? あれは・・・」

 アニマは、雲の遙か上から雲を突き抜けて地上に向かう影を見た。それは、吸血鬼の比ではないほどの速さで降下していった。

「何・・・あれ?」

 それとほぼ同時に、サザンナから鈴の音が聞こえた。その音は、遠くから聞こえたとは思えないほど鮮明にアニマの耳に届いた。

「・・・雨の中には這入れなくても!」

 アニマは、サザンナへ飛んだ。






「くっ・・・!」

 神菜子は、視界不良の中類を探していた。雨は体を打ち、当たるたびに痛みがあった。

「『酉居! 鴉魔の陣だ!』」

 神菜子の耳にも、亥威の叫び声が聞こえた。その声の方向へ、神菜子は走りだした。そこに類がいると信じたのだ。

 神菜子の眼に、類がうつった瞬間だった。神菜子の目の前に、黒い人影が舞い降りてきた。

「!?」

「『私、呼んだ。亥威、鴉魔の陣、この天候では、出来無い。辰蒔が、長時間かけて、呼んだ雲、簡単には、晴れない』」

「『そうかい。じゃあ、酉居の陣でいい』」

「『了解』」

 黒い影が、神菜子の方を向いた。顔には札が三枚貼られていて、目隠しのようになっていた。

「『亥威、この人、から、殺って良い?』」

「『・・・良いわ』」

「『何を・・・!』」

「『おっと、動くなよ』」

 類が、亥威に抱きつかれるように動きを止められた。

「『私の所持呪術は【骨身粉砕】。触れてさえいれば、どんなものでも砕くことが出来る』」

「・・・!?」

「『少しでも動いたら全身の骨を粉々さ。大人しく、あの娘が殺されるのを見てな』」

 亥威の力は強く、抜け出すことは出来なかった。

「え・・・え?」

「『【烏丸酉居からすま とりい】、所持呪術、は、【五感封印】。まずは、視覚』」

「・・・ッ」

 酉居が呟いた瞬間、神菜子の眼から光が消えた。

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