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吸血執事と懐中時計  作者: 王星遥
東方編
40/67

超局地的大嵐

 レトサムに入り、三人は吸血館へ走っていた。

 走る三人を、何があったのかと不思議そうに、不審そうに住人は見ていたが、三人はそんなことお構いなしに走っていた。

 もう少しで吸血館に着くという所で、類が叫んだ。

「お嬢様! 止まってください!」

「!?」

 類の言葉に驚き、アニマは止まろうとした。しかし、力のかぎりのスピードで走っていたアニマの体は、すぐには止まらなかった。

「【スウィートタイム】!」

 類は、懐中時計を取り出して能力を発動した。

 時間の止まった世界で、類はアニマの襟を掴み、力のかぎり引っ張った。同時に能力を解き、アニマの体が後ろに引かれる。

「おぉ!?」

「すみません、お嬢様」

 アニマが類の背後に回った瞬間、アニマの居た場所に大きな水の塊が落ちてきた。

「なっ・・・!?」

「お嬢様、危険です! 引き返してください!」

「くぅっ」

 類はもう一度時を止め、アニマに届くであろう水滴を全て自分の白手袋で拭った。吸血鬼にとって流れる水は凶器。ただ一粒の雨でさえ弾丸と同じである。

 能力を解除し、類はアニマに言った。

「お嬢様、吸血館の周囲の上空に、不審な動きの雲が集まっています」

 類の言葉通り、吸血館のあたりの空には渦を巻いた雨雲が密集していた。

「館の様子が僕が見てきます。お嬢様は、空に注意してほかへ」

「・・・分かったわ。気を付けなさいよ! 相手は人間じゃない! 油断はしないこと!」

「了解」

 類は、吸血館へ走りだした。その直後に、超局地的な嵐が発生し、吸血館の周辺はアニマの侵入できない空間となった。

「・・・神菜子」

「はい?」

「貴女も類について行きなさい」

「えぇ!? わ、私もですか? そうしたら、お嬢様は・・・」

「良いから! それに、貴女の能力なら雨は最大の武器になる」

「?」

「耳を貸しなさい」

 アニマは、神菜子に助言した。神菜子は納得し、アニマに問いかけた。

「お嬢様は、どうするのですか?」

「私は、空から様子をみるわ」

「大丈夫ですか? 日傘だけじゃ、日光も完全に防ぎ切れないって・・・」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょう。じゃあ、頼むわね」

 アニマは翼を広げ飛び上がった。異変に気づいたのか、それとも警察が仕事をしたのか、住民はすでに屋内に避難していたため、アニマの姿を見たものはいなかった。

(まずい! これはまるで・・・百二十年前の!)

 アニマは一心不乱に、空へと上がっていった。

「類、待ってて。次は私が役に立って見せる!」

 神菜子は、類を追いかけて嵐の中へ飛び込んでいった。






「姉貴!?」

「!?」

 ゴーダンの港から少し外れた海岸に、アリオスは着いていた。アリオス達が船を降りて街を歩いていると、偶然にもアリスと鉢合わせたのだった。

「あんたが来ないから三日間無駄にしたんだぞ! 会社まで休んだってのに・・・」

「しょうがないだろ! 急に事件が起きたんだから!」

「その日非番だろうが! 休みにまで仕事しやがって!」

「お前だって年中無休で仕事してるじゃないか! 人のこと言えた立場か!」

 二人は、顔を合わせるなり言い争いを始めた。テレサの仲裁なのお構いなしである。

「大体姉貴は・・・」

 その時だった。綺麗な鈴の音が辺り一帯に聞こえた。それと同時に、なゆたの表情が変わった。

「『あいつだ・・・』」

「あ? 今、なんて・・・」

「『ッ!』」

「あ、おい!」

「なゆたさん!」

 なゆたは、脇目も振らずに走り去っていった。

「テレサ! 追え!」

「はい!」

「姉貴、言いたいことはまだ有るが一旦保留だ。俺らの雇い主が失踪したんじゃ、洒落にならないからな」

「雇い主、って・・・あんな小娘がァ?」

「じゃ、そういうことだ!」

 アリオスは、なゆたを追いかけた。

「全く、しょうがないな」

 呟いたアリスを、物影から見る影があった。アリスはそれに気付いていない。

「・・・」

 影は、静かに微笑んだ。

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