超局地的大嵐
レトサムに入り、三人は吸血館へ走っていた。
走る三人を、何があったのかと不思議そうに、不審そうに住人は見ていたが、三人はそんなことお構いなしに走っていた。
もう少しで吸血館に着くという所で、類が叫んだ。
「お嬢様! 止まってください!」
「!?」
類の言葉に驚き、アニマは止まろうとした。しかし、力のかぎりのスピードで走っていたアニマの体は、すぐには止まらなかった。
「【スウィートタイム】!」
類は、懐中時計を取り出して能力を発動した。
時間の止まった世界で、類はアニマの襟を掴み、力のかぎり引っ張った。同時に能力を解き、アニマの体が後ろに引かれる。
「おぉ!?」
「すみません、お嬢様」
アニマが類の背後に回った瞬間、アニマの居た場所に大きな水の塊が落ちてきた。
「なっ・・・!?」
「お嬢様、危険です! 引き返してください!」
「くぅっ」
類はもう一度時を止め、アニマに届くであろう水滴を全て自分の白手袋で拭った。吸血鬼にとって流れる水は凶器。ただ一粒の雨でさえ弾丸と同じである。
能力を解除し、類はアニマに言った。
「お嬢様、吸血館の周囲の上空に、不審な動きの雲が集まっています」
類の言葉通り、吸血館のあたりの空には渦を巻いた雨雲が密集していた。
「館の様子が僕が見てきます。お嬢様は、空に注意してほかへ」
「・・・分かったわ。気を付けなさいよ! 相手は人間じゃない! 油断はしないこと!」
「了解」
類は、吸血館へ走りだした。その直後に、超局地的な嵐が発生し、吸血館の周辺はアニマの侵入できない空間となった。
「・・・神菜子」
「はい?」
「貴女も類について行きなさい」
「えぇ!? わ、私もですか? そうしたら、お嬢様は・・・」
「良いから! それに、貴女の能力なら雨は最大の武器になる」
「?」
「耳を貸しなさい」
アニマは、神菜子に助言した。神菜子は納得し、アニマに問いかけた。
「お嬢様は、どうするのですか?」
「私は、空から様子をみるわ」
「大丈夫ですか? 日傘だけじゃ、日光も完全に防ぎ切れないって・・・」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょう。じゃあ、頼むわね」
アニマは翼を広げ飛び上がった。異変に気づいたのか、それとも警察が仕事をしたのか、住民はすでに屋内に避難していたため、アニマの姿を見たものはいなかった。
(まずい! これはまるで・・・百二十年前の!)
アニマは一心不乱に、空へと上がっていった。
「類、待ってて。次は私が役に立って見せる!」
神菜子は、類を追いかけて嵐の中へ飛び込んでいった。
「姉貴!?」
「!?」
ゴーダンの港から少し外れた海岸に、アリオスは着いていた。アリオス達が船を降りて街を歩いていると、偶然にもアリスと鉢合わせたのだった。
「あんたが来ないから三日間無駄にしたんだぞ! 会社まで休んだってのに・・・」
「しょうがないだろ! 急に事件が起きたんだから!」
「その日非番だろうが! 休みにまで仕事しやがって!」
「お前だって年中無休で仕事してるじゃないか! 人のこと言えた立場か!」
二人は、顔を合わせるなり言い争いを始めた。テレサの仲裁なのお構いなしである。
「大体姉貴は・・・」
その時だった。綺麗な鈴の音が辺り一帯に聞こえた。それと同時に、なゆたの表情が変わった。
「『あいつだ・・・』」
「あ? 今、なんて・・・」
「『ッ!』」
「あ、おい!」
「なゆたさん!」
なゆたは、脇目も振らずに走り去っていった。
「テレサ! 追え!」
「はい!」
「姉貴、言いたいことはまだ有るが一旦保留だ。俺らの雇い主が失踪したんじゃ、洒落にならないからな」
「雇い主、って・・・あんな小娘がァ?」
「じゃ、そういうことだ!」
アリオスは、なゆたを追いかけた。
「全く、しょうがないな」
呟いたアリスを、物影から見る影があった。アリスはそれに気付いていない。
「・・・」
影は、静かに微笑んだ。




